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獄中記㉓ 麻布署での生活(留置所編)多国籍な人々との出会い

麻布署の留置所は今まで入ったどこの留置よりも広く、新しく、人も多かった。場所は六本木の交差点の近くで、東京のど真ん中である。      地方と違って多国籍だ(笑)。ここでは色々な人と出会った。      20日間の留置所生活の方を今回は書いてみた。

麻布署の特徴はとにかくルールがないことだ。             他の施設では会話がダメだったり、会話はいいけど事件の話はダメだったり。当然外国語は禁止であるが、麻布署ではどれもOK.。        私が入って驚いたのは外国語。                    全部で9室ある中の1室にアルゼンチン人、中国人。2室にブラジル人、4室にナイジェリア人、6室にフランス人がいた。            それぞれ3~4人部屋で入れ替わりも激しい。             当時南米系の2人はずっとスペイン語で話していた。          フランス人はこの2人と英語で話していて、途中で入ってきた台湾人は中国人と北京語で話していた。                      係員は誰も外国語を理解できないので、重要な書類は日本語が上手なブラジル人が通訳をさせられていた。                    確かに合理的だが、他の施設ではまずこんなことはない。        必ず通訳を呼ぶはずだ。                       また、日常会話についても私は英語を理解するので、何度か証拠隠滅のためのやりとりを聞いていた。                      普通にまずいだろ・・・。                      それから夜も自由に話していた。                   さすがに隣の部屋との会話はできなかったが、室内なら日付が変わるくらいまでは話していた。

最初の出会い

移送された日は夜まで取り調べをした。                次の日は夕方までで、その後風呂に入った。              最初の2日間はコロナ対策で1人部屋なので全体の雰囲気は分からない。  この時初めて他の人と一緒になった。風呂は4人ずつ。         浴槽も3人は入れる大きなもので、久々に「お風呂」という感じがした。
この時一緒になったのは金城さん(45歳くらい)と長淵君(22歳)、山内さん(26歳)だった。(仮名)                     山内さんは精神病を抱えているらしく、ずっと泣いていた。       女性用風俗店で働いていて、客とトラブルになったらしい。       金城さんは明るく人当たりの良さそうな感じで「何やったの~」と沖縄か九州を思わせるなまりで聞いてきた。                  私は初めて話す人にはウソはつかないが、全ては話さない。       この時もそうした。                         金城さんは親切にも色々刑事訴訟上の手続きや、私の事件のだいたいの求刑などを教えてくれた。                        しかし間違っている部分も多く、なのにかなり断定的に言う人なので、私は少し警戒した。                           事件は詐欺と強制性交と言っていた。                 長淵くんはちょっと大きなニュースになったフィリピンのかけ子詐欺で、入管に1年半入れられた後、7月に帰国したと言っていた。         3人ともいわゆるヤンキー・ヤクザっぽくなかった。          私はそのタイプの人と一緒に生活するのが本当に嫌だったので、もしかすると麻布は普通の人が多いのかもと期待した。

部屋での生活

3日目から私は5室に入った。                     金城さんと長淵くんと3人で同じ部屋となった。            この2人は長く一緒に生活しているらしく、相当仲良しに見えた。    私は金城さんを警戒していたものの、一緒に生活する上では特に問題はなかった。昼間は取り調べだが、2人は何もない。             金城さんがたまに病院に行くくらいだ。               夜、電気が消えてからと、朝起きてから取り調べに呼ばれるまでがお話タイムだった。                             金城さんは思っていたより重大犯で、男の人2人に口腔性交をさせ、それを撮影した猛者だ。                          2人は同じグループで詐欺をやっていて、2人が金を持ち逃げしようとしたから罰としてやったらしい。                      金城さんはTwitterで受け子となった末端の人間だが、なぜか自分はリーダーだったと私には主張した。                      私は自ら自分がリーダーだという人の神経を測りかねたが、まあ悪ぶりたい人もいるかと思って聞いていた。                   

この金城さん、ウソが多くて大変な人だった。「ホリエモンとよく飲む」とか「小池都知事とも仲がいい」「故コリンパウエルと友達(元米国国務長官、日本で言う外務大臣)「建築会社とクリニックの経営者だった」全部他の話とつじつまが合わなくて、私や長淵くんにはバレているのだが、本人は気づいていない、か、気にしていない。                ちょっと不思議な人だった。とは言え3人の生活は役割分担も明確で過ごしやすかった。

次々とやってくる外国人

私が来て1週間ほどすると、トゥットくん(23歳))というネパール人が暴行で入ってきた。                          トゥットは私たちに必死になった「私こうやっただけ。彼、こうやった!私1人捕まってる。私いつ出る。彼、ケガしてない。」と訴えていた。   本人いわく、右手でほんの少しつっついただけらしい。         相手は思い切り殴ってきたのに、先に警察を呼ばれたので自分だけ捕まった。                                明日には出られるか?とずっと聞いてくる。              かわいそうだったので、弁護士に示談を進めてもらえるよう、日本語で紙に書いてあげた。                           トゥットくんは親が裕福なので、示談すれば4日くらいで出られるだろうとみんな言っていたが、本人は不安で仕方ないようで常にソワソワしていた。出られると決まったのは5日後で、私に対して「book買ってくる。名前教えて。」と言った。                            教えたが本は来なかった(笑)。

その2日後にナイジェリア人がコカインの使用で入ってきた。      ジェフ(50代)は25年以上日本にいて、日本語はペラペラ。     日本の政治にも詳しい。                       六本木界隈の人なら知っている人もいるかもしれない。         ジェフはドンキの裏のバーの店員で、いつもドンキの前に立っている。  毎日私に英語でイギリスのエリザベス女王の悪口と英仏両国の戦後の外交姿勢が今のアフリカの内紛停滞を招いた。                という彼の意見をまくしたてた後に「アメリカが理想の国だ。オバマは最高だ。アベ、ダメだねえ~。よくないよ、彼。」っていうのも彼のオピニオンだ(笑)。ボビーオロゴン顔負けの面白い人で、敬けんなプロテスタント信者。いい人だった。

勉強をいったんストップして本を読んだ

当時は先行きも読めなかった。しかもまわりが賑やかだったので、あまり勉強はしなかった。                          英語は使わないと忘れるので、毎日1章ずつ(30ページ)ハリーポッターシリーズを読み、ジェフやトゥットと話すようにした。         刑務所について知りたかったので、関連する本をたくさん読んだ。    どうやらIQテストは重要らしい。                   炊場は仮釈放がもらいやすいが大変。計算工がエリート。        など業界事情をインプットしていった。                それからホリエモンの「刑務所ナウ」シリーズを読んで「コレだ!!」と思いついた。                             自分もTwitterとブログをやろう。                   ブログやTwitterの使い方の本を読み、1か月ちょっと勉強した。     私はあまりSNSはやらなかったので、難しいことも多かったが、とにかくやってみよう。                            そしてブログとTwitterの準備を始めた。

小説は毎日1冊ペースで読んだ。                   誉田哲也、姫川玲子シリーズやマンガで源氏物語を描いた「あさきゆめみし」大和和紀を読んだ。                       どれも面白く、充実していた。                    勉強以外の時間の使い方は何と楽なんだろう・・・。          逆に勉強でもしていないと腐ってしまう・・・。と危機感を覚えた。

つづく  




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