獄中記㉑ 警視庁での闘い・前半戦
私は9月中旬、兵庫から東京へ移送された。 取り調べ開始早々に「黙秘」宣言をして、刑事からは相当怖い対応をされた。 今回はそんな20日間のうち、前半戦について話そうと思う。
お前、戻ってくることになるぞ
大山刑事は私が黙秘するなんて1mmも思っていなかったようだ。 夜寝る時間の直前までずっと、なぜ黙秘するのか・・と聞いてきた。 私は一言、「弁護士と約束したから。」とだけ答えていた。 大山刑事は「お前、そんな黙秘なんてしたら、ここにまた戻ってくることになるぞ。」「やり直すんだろ?だったらキレイにしていけよ。」と情に訴えかけてきた。
しかし私は不思議でならなかった。私が黙秘した理由は「やっていない」ことを「証拠(笑)」が集まれば起訴するという方針に納得がいかないからだ。 当然私はやっていないので証拠などない。 「証拠」はどうせ山梨と一緒ででっち上げの供述書だ。 刑事のストーリーで作り上げられた物語、フィクションだ。 そんなものを作られるくらいなら黙秘しよう。 自分を守るにはそれしかない。 山梨のことを考えれば、当然こういう答えになる。 にもかかわらず、黙秘したらまた犯罪をして戻ってくるという論理は受け入れがたかった。
検事はベテラン
2日後に東京地検へ行った。 検事は49歳のベテランで入って一言目に「○○高校??」と聞いてきた。「はい。突然どうしたんですか?」と答えると、「いや~、同じだよ。僕も○○高校だ。全く何やってんだよ~(笑)」
検事は私が黙秘していることについても、口を無理やり割らせようというのではなく、余裕を見せて、「まあ、黙秘するかどうかは君が決めることだから、何も言わないんだけどさ~。」と言ってきた。 「出たらどうするの?」と聞かれたので、「まあ今は医療関係で考えてますけど、少年法改正で医者にはしばらくなれなそうなので、中南米あたりで経験を積むか、医療ビジネスをやるかですね。」 「すると医学部?」 「に行ってやり直そうと思っています。」 こんなところで言うのも何だが、私と検事が出ている高校はそれなりに良い大学へ行く人も多いところなので、検事としても「難しいよ」とか「ムリだろ~」という反応はしなかった。
東京で40代後半の現場検事とバッティングするのはかなり珍しい 。 基本若い人のはずだ。 考えられるのは2つ。 この事件が難しい事件ということと、検事がチョット優秀じゃないということ。 後者ではないだろうというのは話していて感じた。
長い長い取り調べ
取調べは連日、ものすごい長時間に及んだ。 大山刑事は「弁護士じゃなくて自分で決めないと後悔する。」 「お前が話してくれれば、お前のストーリーで作っていける。」 「いつから黙秘を決めたんだ。」 「せめて何で黙秘に転じたのかだけでも教えてくれ。」と繰り返し、一定の間を作ってから「どう?」と優しく語りかけるのが得意技だった。 大山刑事は私が甘いのかもしれないが、良い人だった。(みんなのことを良い人と言っているが(笑)) 「良い刑事なんていない」と言う話はよく留置所の担当さんがしてくれたが、大山さんは少なくとも、この20日間事件を扱っている間だけは、私のことを考えてくれているように思えた。
「お前が話してくれればお前のストーリーで作れる。」という所にそれが表れている。 これはつまるところ、放っておくと別の人にストーリーを上手く作られてしまい、やっていないことまで押し付けられてしまうということだ。 逆に私が話せば、それをベースに他の人の調書を合わせてくれるということ。 しかしそれと引き換えに私は「やっていない」事件で起訴されることになる。 それは嫌だった。
また首謀者の「K」が逮捕されていないことも、山梨の時のようにしっぽ切されるという危機感があった。 しかし大山は毎回こう言った。「放っておくと物事はどんどん悪くなっていく。」
今のところの方針
私は4日目くらいになって始めて黙秘の理由をいくつか話した。 1つは事実と違うのに調書でフィクション裁判をやられるのが我慢ならないという話。 もう1つは山梨県警などでみてきたように、警察という組織があまりにも信用できないという話。 最後に拘留があまりにも長いという話。 すでに1年が経っていた。警察の勝手な都合で。(獄中記⑲参照)
これは日本のシステム上の欠陥だとしか思えなかった。 こういった話だけでも大山刑事は喜んだ。 「オリンピックの件は本当に申し訳なかった。捜査方針に思う所があるのも分かる。けど、この事件はもう動いてるんだ。始めたのはお前だ。うちらは動き出したら止められないんだ。」と言った。 これは実に的を得ていた。 警察というのは一度動き出したら止められない。 一度決めた方針に合うような物証調書しか集めないので、方針も変えられない。
私は刑事から「このまま黙秘してどういう先を描いてる?」と聞かれたので、「起訴でしょう。それ「K」をパクるまで処分保留にして「K」からもフィクション調書を取って同時に起訴か。」と答えた。 大山刑事は「俺が検事だったら処分保留にして後から起訴かな。そうなるとこの先、裁判まで長くなるぞ。」と言った。 他の発言からも同じような雰囲気が伝わってきた。 ということは私はすぐには起訴されない可能性が高い。 いずれされる可能性が高い。 というかいずれされるという風に刑事は強調していたが、一度処分保留になった人が、後々起訴というケースはほとんどない。 つまり不起訴になる可能性もありそうだ。 今のところそういう方針なのだろう。
いくつかのヤバイ脅し
毎日口調こそ柔らかだが、脅されはした。 日に日に調書が取れないこと。 上司の評価など、大山刑事も少しずつ焦っているのが分かった。 ある日、「お前と「K」をヤクザの周辺人物って登録したらどう?嫌じゃない?」と言ってきた。 反社は仮釈放も貰えないらしいという雑談の中でだ。 警察は彼らの主観で、こいつはヤクザだ。と勝手に登録しているらしい。 もっとも私にはそういう実態はないし、「K」も同じだと思う。 反社登録というのは、人権、人間として現代社会で生きる権利の抹消だ。 この脅しはひどい。
また別の時は「別に調書にサインしてくれなくても、こっちで作る取り調べ状況報告書に書いちゃうからな?これも裁判官の目に入るぞ?」と言った。つまり調書は勝手に作っても私がサインしなければ無効だが、取り調べ状況報告書は警察側の書類なので、サインはいらない。 それで勝手に認めている旨の記述をして裁判官の目に入れるということだ。この脅しもかなりヤバイだろう・・・。 そうは言っても、殴られたり、蹴られたりはしなかった。 怒鳴られたりもしていない。マシなほうかもしれない。
つづく
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