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エロカンターレ、Mr.ドンファン

作・吉田高尾
▼登場人物
・紀州のドンファン
・小川項羽(大川隆法)

男が二人、舞台中央で立っている

紀州 朝目覚めると、なぜだか涙が止まらない。こういう事が俺にはよくある。
小川 朝目覚めると、なぜだか涙が止まらない。こういう事が私にはよくある。
紀州 俺は、だれか一人を、あの人だけを、探している。
小川 私は、だれか一人を、あの人だけを、探している。
紀州・小川 あとほんの少しだけでいいから。

小川 あなた、死に別れた奥さんにもう一度会いたいと思いませんか?
紀州 え、私?
小川 そうあなた。今、あなたの睾丸に直接話しかけています。
紀州 睾丸に? 直接?
小川 そう。聞こえますか?
紀州 は、はい。聞こえます。 
小川 聞こえちゃうんだ。睾丸で。
紀州 聞こえちゃだめなんですか?
小川 もう一度聞きます。死に別れた奥さんにもう一度会いたいと思いませんか?
紀州 まぁ会えるものなら、会いたいですけど。そんなこと無理ですから。
小川 いや、あなたは会いたいはずだ。絶対に会いたいはずだ。
紀州 そうでもないんですけどね。
小川 そんなはずはない。あなたは、七十六歳の時に、五十五歳も年下の、二十一歳Dカップのモデルさんと結婚したんだから、会いたいはずだ。
紀州 いい女だった。
小川 そうでしょう。
紀州 でも、死んでしまえば、皆一緒です。他に女はいくらでもいます。
小川 そんなことを言わずに、ね。ここらでどうでしょう? 死に別れた奥さんをここに呼び出しませんか?
紀州 どうせあなたが会いたいだけでしょう。
小川 なんてことうぃお。そんなわけないじゃないですか。私にだって愛する妻がいるんだ。
紀州 そうですか。奥さんとの歳の差はいくつですか?
小川 二十九歳差です。
紀州 二十九歳差。五十五歳差の私の方が上ですな。かわいそうに。
小川 うるさい! 内の妻は早稲田の法学部卒で日本銀行にも勤めていた秀才なんだ。
紀州 そうですか。内の妻は一日に三回セックスするノルマを余裕で超えてきます。
小川 三回! 一日に三回! セックス! だと。うちの妻だって。うちの妻だって、実は、坂本龍馬の生まれ変わりなんだ。
紀州 坂本龍馬! 土佐の?
小川 そうだ! 坂本龍馬の生まれ変わりが内の妻なんだ!
紀州 マジかよ。おかしいだろ。それ。
小川 おかしくない! 霊的世界ではそれが事実なんだ。
紀州 坂本龍馬は教科書から消えましたよね。
小川 黙れ。霊界では坂本龍馬も、その生まれ変わりの妻も両方一つになって一緒に尊敬されているんだ。
紀州 両方一つになって一緒にって何だよ。あれか。坂本龍馬の生まれ変わりだと、夜、ベットで、はよここに入れるぜよとか、言うのか?
小川 ぜよとか、言わないし。なんて下品な。私は東大卒だぞ!
紀州 だから何だよ。学歴とか言って、お前恥ずかしくないのか?
小川 そうイキがるな。君がどんなにイキがったところで、現実世界では君はもう忘れ去られた存在なんだ。だが、私は違う。今でも、私の信者たちは、私のことを尊敬し、崇拝し、寄付を惜しまない。
紀州 弱者の心の弱みにつけこんで、金を集めることをして、恥ずかしいと思わないのか?
小川 救済しているんだ。
紀州 金のないやつから金を取るんじゃない。金を取るなら、金持ちから奪え。
小川 僕は別に貧乏人からだけ寄付を受けてるんじゃない。救済してほしい金持ちだっている。本人たちだって望んでいるんだから別にいいだろう。
紀州 このペテン師が。
小川 事実を言っているだけだ。
紀州 じゃあ、俺も事実を言ってやろう。俺はな。訪問販売の仕事をして、団地妻にコンドームをしこたま売って、ついでにセックスもして、しこたま儲けたんだよ。当時、コンビニもない時代、コンドームはお店で買うのには抵抗があった。そこに目をつけた俺は、コンドームの訪問販売で一躍大金を手にした。でも、すぐにでも競合他社が真似してくる。すかさず俺は、その大金を元手にして、今度は丸の内で貸金業を始めた。今でもそうだが、貸金業はお金のない人に貸すもんだと思ってる。でも、俺はそんなハイエナどもとは違う。一部上場企業や、霞ヶ関で働く、一見お金に困ることがないような奴らをターゲットに金を貸したんだ。彼らは確かに稼いでいる。しかし、それ以上にお金を使っちまうやつが一定数いる。子供にマイホーム、外車も毎年買い替え、半年に一度の海外旅行、挙句に愛人。一千万円じゃ足りない金を使った時に、どこから金を借りる? 間違って金を借りるところを誰かに見られたら? 金を借りる時に他の貧乏人と同じように惨めな思いをするかもしれない。そんな奴らに、俺は高級クラブのような場所で、自尊心を傷つけることなく金を貸し、利息でしこたま儲けた。他の貸金業と違って、客は貧乏人じゃない。一時的に足りないだけで、ちゃんと取り立てることもできる。万が一返せなくても、親族まで辿れば必ず回収できる。金持ちの親族は必ず金持ちだからな。そうして、数十億の資産を築いて、和歌山の大邸宅で優雅に過ごすセレブ。そう、もうお分かりだと思うが、それこそが俺、紀州のドンファンこと、野崎幸助だ。

小川・紀州 そうだったのか。

小川 ドンファン。しかし、私とあなたには共通点がある。
紀州 共通点?
小川 若い妻と結婚したことだ。自分の子供と同じくらいの年齢の女とな。
紀州 一緒にするな。俺の嫁は孫より若い。
小川 その嫁が大変なことになっているんだ。ドンファン。それを伝えたくて、私は彼女の守護霊を呼び出そうとしているんだ。
紀州 ただの膣目的じゃないのか?
小川 何だって?
紀州 膣目的で俺の嫁の守護霊を呼び出してるわけじゃないんだなって言ってるんだ。
小川 膣目的。体目的じゃなくてか。
紀州 膣目的だ。
小川 膣目的じゃない。それは約束する。君はその、アレで死んだわけだが。
紀州 そうだよ・何照れてんだよ。覚醒剤でキメセクして死んだんだよ。
小川 そう。君はその死に方でその。
紀州 何だ? 羨ましいのか? 覚醒剤でキメセクしながら腹上死したことが。
小川 そうじゃない! 断じてそんなことはない! 今、大変なのは、君の奥さんだ。君の奥さんが県警に逮捕されたんだ。
紀州 なんで? 早貴は何も悪いことしてないのに。
小川 そうなんだ。絶対悪いことはしてないのに! 妻が、若い妻が、年老いた旦那に酷いことなんてするはずがない! 絶対ない!
紀州 お前、なんかあったのか?
小川 何もない! 僕の妻は僕を愛している!
紀州 普通、愛してくれてたら、そんなこと言わないんじゃないか?
小川 それ以上、言わないで。辛いの。
紀州 うん。
小川 あのね。君の奥さんがね。警察に逮捕されてね。しかも逮捕の直後に、和歌山県田辺市が急に、生前に紀州のドンファンが駅前ビルの寄付をしようとしていたと主張し、事実上、駅前ビルを勝手に接収したんだ。
紀州 そんなこと俺は一切言っていない。
小川 死人に口無しだ。これがあいつらの手口だ。お前の財産は全部地方政府に持ってかれるんだ。
紀州 そんなバカな。裁判は、裁判所があるだろ。
小川 逮捕から五年、未だ裁判が開廷しない。そのうちに君の奥さんは何かしらの取引をすることになってしまうだろう。
紀州 ふざけるな! 俺はただ、孫よりも若い女と毎日三回覚醒剤打ちながらセックスしてただけだぞ! 何も悪いことはしていない! それなのに、なんで何にもしない市役所に、警察に、役立たずの裁判所に、無駄に優秀な税務署に、全てを持ってかれなくちゃならんのだ! あいつらが中卒の俺から! 十六歳から働いてる俺から! ビタイチもん奪われてたまるか!
小川 やっとわかったか。ドンファン。結局はそういうことなのだ。そのための宗教法人、そのための政治結社、政治勢力を持たなければいけないのだ。ドンファン。どうだ? 我々と手を組まないか?
紀州 お前。この。ど悪党が。人喰い坊主が。偉そうに。う。言葉が。
小川 ふふふ。お前の霊を私の中におろしてやる。
紀州 まんだと。
小川 どうだ。怖いだろ。
紀州 霊を降ろすって、お前も死んでるし、俺だって死んでるんだぞ。どっちも霊なんだぞ!
小川 その通り。ここからは私にとっても未知の領域なのだ。大いなる紀州のドンファンこと野崎幸助の霊よ! あなたの心のうちを明かしたまえ!
紀州 やめろおぉぉぉ!
小川 よし、始め!

紀州、立ったまま気を失う。
小川、しばらくして、目を覚まし、自分の体をまさぐる。
紀州も目を覚まし、自分の体をまさぐる。
二人見つめ合う。

紀州 なんてことだ。
小川 本当にこんなことが。
紀州 もしかして、俺がお前で。
小川 お前が俺なのか。

二人、近寄り手を合わせ

小川・紀州 もしかして、私たち、入れ替わってる!

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