洞窟

くたくた

宝箱が隠された洞窟。
大人では入らないような隙間に無理やり体をねじ込み、頭をこすりつけ這いつくばって進んだ。時間の感覚がなくなる程の暗闇の先。
とうとう見つけた宝箱。
とんでもない財宝が入っているに違いない。

残り僅かなランプに火を灯し、足元に置いた。
そして、豪華な飾りのついたその宝箱をゆっくりと慎重に開けた。

ところが。

中にはこんな手紙が入っていただけだった。

『何の為にここまできたの?』

怒り。
自分の非を覆い隠してしまう怒りがこみ上げる。
声にならないうめき声から、喉が潰れる程の怒号に変わり、怒りという怒りをそこら中にぶつけた。

けれど、手では殴らない。素手で岩を殴ったら怪我をしてしまう。
自分の身を守りながら怒る。
気付いた瞬間、そんな自分が惨めになった。
怒りは空気の抜けた風船のようにしぼみはじめた。
勝手に期待して、勝手に財宝だと思い込んだのは自分だ。

自己嫌悪 と 怒りが 一位と二位を争っている。
抜かれたら、前よりも早く抜き返す繰り返し。
恥ずかしさと悔しさがその競争を加速させる。 

疲れ果てた体で空っぽの宝箱に寄り掛かった。

「どれだけ時間が経っただろうか?」

急に空を見たくなった。 雨に降られたくなった。

太陽の暑さに汗を流したくなった。

この真っ暗な洞窟からはやく出たいと思った。

僕が くたくた になってまで見つけたもの

生きている世界への愛しさだった。

それは、くたくたになって初めてわかった財宝。

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