川

行き先の決まった舟 2006/11/29

『少しでもいいので一緒に乗せてもらえませんか?』

舟に乗った人が言う

「どうぞ どうぞ 次の岸までしかいきませんがいいですよ」

『それで構いません 乗せてくださるだけで十分です』

彼は舟に乗せてくれた人がどんな用事で次の岸までいくのか訪ねた
舟に乗せてくれた人は「大事な家族を養う為」だと柔らかくも威厳のある顔で話してくれた

そして こう聞き返してきた

「それで あなたはなぜ 舟に乗りたいんだい?」

話してくれたお返しにちゃんと答える

『そうですね この川の先に何があるのかちゃんと見たいんです』

「ほう この川はどこまでも続いていて誰もまだ先を見たことがないらしいですよ」

『はい それでも 見に行こうと思わなければ あなたの話を聞くことも出来ませんでした』『もしかしたら それが川の先をみたい理由かもしれませんね』

彼はそれからいくつも船に乗せてもらった
いくつもの出逢いを繰り返しながら 一つ一つの出逢いに感謝し楽しみながら

行き先の決まった舟に乗ることで 
それぞれの舟に乗る理由を聞かせてもらいながら 
そして自分が理由を聞かれるとその度に彼は丁寧に素直に答えていった 

彼は「川の先に何があるのか」 その興味と同じくらい大切なことに気付けた  行き先の決まった舟に乗ることで その人の人生とも出逢えることに

それから彼が川の先に何を見たのか 誰もわからない

ただ 彼が楽しそうに嬉しそうに行き先の決まった船舟に乗っていたこと
それだけは誰もが知っている

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