夢十夜

第五夜

こんな夢を見た。
正面の巨大なモニターの周りには何十もの小型のモニターが配置されている。手を触れることなく、任意のモニターを巨大化できる仕組みになっているようだ。メインモニターではトランプ大統領が記者会見を行なっている。右下の小さなモニターには日本の総理官邸の内部が映っている。
「ようこそ!指令艦へ。なぜ自分がここにいるのかわからない方がほとんどでしょうから、経緯を説明します。あなた方は赤外音楽を聴く事のできた人類です。我々があなた方を選別してこの指令艦に避難させたのです。あなた方をそのまま地球に放置しておくと、暴徒と化したあなた方の同類により嬲り殺しにされたでしょう。ここにいれば事の真実が分かります。我々はあなた方の全ての国の国家機密を傍受しています。そこのモニターに見覚えのある人物が多数映っているでしょ」
「さあ、ご覧なさい。全ての真実がわかるはずです。人類を脅かした新型コロナウイルスは、人類が開発した電磁波によるものだったのです。電磁波がインフルエンザウイルスを突然変異させ、新型コロナウイルスを次々と増産させた。外出の規制や飲食店やパチンコの営業を規制したところで、感染が収まるはずがないことはおわかりでしょう。愚かなものです。アメリカと中国はその事実を発見したが、覇権争いのため事実をひた隠しにした。挙句、我々の責任に転嫁したのですよ」
あの見慣れたシルバーでのっぺりとした宇宙人👽が説明した。いや、赤外音楽通信なので口は動いていないから彼の説明なのかどうか判断する術はない。
「宇宙人が新型コロナウイルスを持ち込んだのだ、と。我々が地球上の細菌やウイルスにめちゃ弱いことは知っているでしょ。100年も前にH.G.ウェルズによって暴露されてしまった。その我々がウイルスを持ち込むことなどあり得ない。そこであなた方の出番です。先ほどヒントを与えました。そう、電磁波を一掃するのです。波長の長短にかかわらず、全ての電波、電磁波を無くす社会を作るのです。それが地球のサスティナビリティのためであります。あなた方は地球に戻り、これからクーデターを起こします。"無波閥"と呼ばれ、世間の主流になります。電磁波の無い世界を作り出すことに成功します。
が、今から5秒後に私が話した全ての事と、ここに来たことすら、あなた方の記憶から消えます」
その瞬間に何か光を見せられ…そう、よくあるあのシーンのように、、

「ネオジム磁石くらい持っていたって構わないじゃないか」
私は最後の抵抗をしたが、白ずくめの"無波閥"の手先どもは焼却ゴミの後片付けもせぬまま無言で立ち去った。
「電波が規制されたら、どうやって通信すればいいんだ?」
私は磁石から剥がされた「ジスプロシウム5倍増量」と書かれたシールを見つめながら、ウォーターマン万年筆のコンパーターにインクを吸い上げた。

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