音声読み上げ

画面を見ないでスイッチで操作する指伝話メモリの使い方

 CSI(Communication for Smile and Innovation)の相談会に参加したら、目が見えず、お話しすることがでないけど、聞くことはでき、顎でならスイッチを押せそうな青年がご家族と一緒にいらっしゃいました。指伝話メモリを使ってみるまでの準備をその場で行なった内容です。

どんなことをしたいか?

 いろんなことをしたいと思ってらっしゃるのは間違いない。身体に障害を負うまでは吹奏楽を楽しんでいたとのことで、音楽という切り口でお話しがスタート。
 好きな音楽を自分で選んでかけることが、一つ目の目標になりました。音楽の話しで盛り上がる時の嬉しそうな表情と身体の動きがたまりません。:-)

スイッチの選定

 手足は緊張が強い時があるので、自分の意思で的確にスイッチを押すのはまだ難しい状態でしたが、手足は無理と決めつけずにおいておくとして、いま一番やりやすいところはどこかを相談。

 顎の近くにスイッチを配置すれば、顔を動かしてスイッチに触れて押すことができそうとわかりました。固定用のアームはその場になかったので、アーム代わりに介助者がスイッチを手に持って顎のそばに近づけました。

 身体の動きとスイッチの選定は、作業療法士に相談するのが良いですが、今日のところは、アームがあると良いとか、毎日使うアームは介助者に負担がないというのも選択ポイントの一つといったことを話し合うにとどめ、まずはやりたいことの実現へと進めていきました。

画面を見ない操作

 目が見えない方がiPadを操作するために、VoiceOverというアクセシビリティ機能が標準でついています。画面を指で触れていくと、そこの項目の内容を読み上げてくれます。

 しかし今日は、指で画面に触れることができないので、スイッチコントロールの項目読み上げ機能を使うことにしました。スイッチは1つだけ、顎で操作します。

 自動スキャンで画面の項目をカーソルが動いていくと、その項目を読み上げます。そこだ!と思った時にスイッチを操作するとその項目がタップされる、という仕組みです。

 この方法で、iPadのほぼすべての機能を、画面を見ずにスイッチ1つの操作だけで使うことができますが、いきなり全部の機能を使うのは大変。それは画面が見えていても同じことです。最初は簡単な操作で使えるものに挑戦することにして、指伝話メモリで音楽再生するカードを選ぶ操作から始めることにしました。


 最終的に作成したものは、動画をご覧ください。この動画は再現動画なので、スイッチを指で操作しています。

項目読み上げについて

 スイッチコントロールの項目読み上げを使う場合、指伝話メモリではカードの「タイトル」欄を読み上げるようになっています。iPadOSが読み上げる内容を自分で設定することができます。

 VoiceOverを使う人は読み上げ速度を高速にしている方もいますが、今回は慣れるために、話し言葉くらいの速度にしています。また、項目と項目の間は5秒の移動間隔にしました。

表示するカードの枚数について

 画面を見ていると項目に移ったことがわかりますが、画面を見ないで頭の中で感じて(考えて)選ぶので、本人とも相談して、選択肢の数としては3〜4個が良いだろうということになりました。慣れてくれば9個でも16個でもいいのですが、1回の選択肢は4つくらいが良いと考えたのは、順番に確認していって選ぶ操作なので、もし選び逃した時にはもう1巡回ってくるのを待つことになります。あまり全体の選択肢が多いと待つ時間が長くなります。

 4つであれば2巡目がすぐきます。指伝話メモリで階層メニュー化すれば、選べるカードをどんどん増やすことができます。

繰り返し回数について

 ビデオにはでていませんが、ずっと選択せずにいると、2巡したところでカーソルのハイライトが止まるように設定しました。iPadの操作をやめた時に、永遠に項目を読み上げているのを聞くのはうるさいからです。

指伝話メモリのカードの内容について

 カードは2種類あります。2〜4枚目のカードは曲をかけるカードです。選ばれると別途作成したショートカットを呼び出し、iTunesにある音楽をかけます。もう1つは1枚目のカードです。音楽を停止するカードです。

 最初は、その機能だけでした。しかし、音楽がかかった後も項目読み上げが続き、せっかくの音楽を楽しむことができません。

 そこで、再生前に待ち時間を入れるようにショートカットを作り、カーソルのハイライトが2巡するまで待つようにしました。それは悪くはなかったのですが、待ち時間が長いと不安です。画面が見えてないのですから、とても心配になります。

 そこで、「30秒後に再生します。」と音声ガイドを入れてみたのですが、それでも待つ身はつらいですね。

 そこで、音楽が選択されたら、スイッチコントロールを切ってから音楽を再生するようにショートカットを書き換えました。カーソルが2巡するのを待つ必要がなくなります。これで、静かに音楽を聴くことができます。

 スイッチコントロールがオフになると、スイッチでの操作ができなくなってしまうのですが、スイッチ接続キット(変わる君)の標準設定ではスイッチコントロールが動いていない時にスイッチを押した場合には指伝話メモリの1枚目のカードが選択されるようになります。

 1枚目のカードは、音楽を止めつつスイッチコントロールを起動するショートカットを呼び出すようになっていますので、音楽が停止しスイッチコントロールが再開されます。

まとめ

 音声で読み上げる内容を聞いて、それだ!と選択する方法は昔からある方式です。五十音表から文字を選ぶインタフェースにもよく使われています。

 初めて使うものは、使い方の訓練になってしまいがちです。指伝話メモリなら、楽しいものとして使い始めることができます。もし、好きな音楽を選ぶことができれば、つまり、複数枚のカードの中から1つを選ぶ操作ができれば、指伝話メモリではその同じ操作で音楽をかけたり止めたり以外のこともできます。いまやっていることのその先にもっと世界が広がるとわかれば、周りの人が頑張れって言わなくても集中して操作するでしょうし、自分で疲れないような操作が自然にできるようになります。

 何もしていない状態で使えるスイッチを探すのと、これをやりたい!と思っている状態の身体の動きをみてスイッチを探すのとでは、まったく違う結果になることもあります。

 次回の勉強会では、お母さんにメッセージを送れるようにすることと、階層メニューを使うことが目標になりました。

 今日は1時間ちょっとの間に、どんなものに興味があるか、何をしたいか、どんなことができるか、その先に何があるか、といったことを話し合い、指伝話メモリのカードを作り、ショートカットを作り、実際に試してみるまでのことができました。

 実際に使う人と一緒に考え、作り上げていく時間を共有できたこともまた、大切なコミュニケーションでした。技術の知識だけでは完成しないですし、完成しても独りよがりなものになってしまいがちです。彼の参加が最初からあったからこそ、次のステップにつながるものができあがりました。

 CSIの活動は、我々メーカー側にとってもありがたいことです。

 ショートカットの具体的な内容は、後日「iOS/iPadOSショートカットアプリを楽しむ」マガジンで解説します。

 指伝話メモリについては、 指伝話のホームページ https://www.yubidenwa.jp/ を参考にしてください。

ちなみに

 読み上げ音声を聞いていると「故郷・ボタン」というように、「ボタン」と必ず言います。これは、画面のオブジェクトの種類をiPadOSが読み上げているからです。iOS 12まではオブジェクトの種類は読み上げなかったのですが、iOS/iPadOS 13からは強制的にオブジェクトの種類を読み上げるようになりました。

 指伝話メモリのカードは全部「ボタン」ですから、いちいち読み上げなくてもいいのですが、「目が見えない人にはオブジェクトの種類が必要だ」という判断で読み上げるようになったそうです。

 しかし、項目読み上げは目が見えない人だけでなく、失語症の方や、違う言語を使う方のためのアシスト機能として使うことも考えられますから、オブジェクトの種類を読み上げるかどうかは選択できるようにして欲しいとApple社に要望を伝えました。使い方を決めつけないAppleの考え方に沿って対応してくれるかな。

いただいたサポートは、結ライフコミュニケーション研究所のFellowshipプログラムに寄付し、子どもたちのコミュニケーションサポートに使わせていただきます。