大神さん

口文字の練習に指伝話文字盤を使う

 コミュニケーション機器を使わない意思伝達の方法は、透明文字盤と口文字が知られています。

口文字

 口文字にもいろいろな方法がありますが、一般的には、話す人が「あ・い・う・え・お」の口をして段を示します。それを受けて介助者が、例えば う段 であれば「う・く・す・つ・ぬ…」と順番に言っていき、選びたい文字の場合に目などで合図して伝えます。

 口で段を示さず、段も読み上げて指定してもらう方法もあります。

 口文字が難しいと感じるのは、読み取った言葉を覚えておくことです。それは話す方も同じで、どこまで話したんだったっけ?とわからなくなることもあります。読み取る側は特にそうです。

 ALSの大神さんは、口文字を知らない人が新しいヘルパーさんや看護師さん、セラピストの人が来た時に練習する際に、指伝話文字盤を使っています。映像をご覧ください。

 こんな風に、読み取った文字を指伝話文字盤に記録しておけば、話す人も介助者も、どこまで何を言ったかを必死に覚えておかなくてもよくなります。そうすると心に余裕ができますので、読み取りがしやすくなります。

指伝話文字盤

 指伝話文字盤は、五十音表の文字を選択して、ことばや文章を作り上げていくアプリです。使い方は、指やスタイラスペンで五十音表の文字を選択していく方法の他に、話す人と介助者が組みになって使う 対話式 の他に、スイッチを使って操作する方法もあります。文字の選択方法・スキャン方法には、手動・半自動・自動の3種類があり、身体の調子や使うスイッチの数によって様々な使い方ができるよう工夫されています。

詳しくは、指伝話文字盤のページをご覧ください:
https://www.yubidenwa.jp/mojiban/

 今回は、指伝話文字盤で文字を選択するのではなく、口文字で選択した文字を指伝話文字盤に記録するという使い方をしています。実は、指伝話文字盤のベータ版を初めて見たALSの岡部さんが、これは口文字の練習にも使える!と予想しておられたのですが、まさにそのように使っているALSの方が大神さんです。
 指伝話文字盤本来の使い方ではないと思うかもしれませんが、「本来の使い方」というのを決めつけず、このように口文字の練習として使っていただくことは良い使い方です。

 ちなみに、岡部さんが指伝話文字盤の開発に深く関わってくださったことを伝える記事は、日本ALS協会のウェブサイトの掲載されています。
http://alsjapan.org/2017/03/01/post-792/

スイッチの利用

 この映像は、大神さんが空気圧式のスイッチを使っている様子です。ピッという電子音がなっている時が、スイッチを押している時です。手がわずかに動くと、手の下に敷いている空気圧のマットに伝わり、それが電気信号としてiPadに伝わっていきます。

 ご覧いただいてわかるように、ほとんど手が動いているようには見えません。それでもスイッチは反応してカードを読み上げています。

 準備をしておくと、合成音声を使ってカンファレンス発表も身体のわずかな動きを使って行うことができます。実際、大神さんは、2019年8月にリハ工学カンファレンス in 札幌で当事者発表を指伝話メモリを使ってされました。10月には全国難病センター研究会でもご自身のことを発表されました。

指伝話メモリ

 大神さんは、初めてiPadを手にした時には、指伝話文字盤を使うことを希望されました。それまでにPC上の五十音表での文字選択による意思伝達装置をお使いになっていましたので、それに近い指伝話文字盤が良いと思われたそうです。

 その後、カードタイプの指伝話メモリを知り、カードを作る楽しみ、それを使って会話する楽しみを感じていらっしゃいます。

 指伝話文字盤も使うし、指伝話メモリも使う。そして口文字も使う。依存先は複数持つべきだという考えに従って、「どれかが使えるように」ではなく、「どれも使えるように」を考えていらっしゃるのでしょう。

 指伝話文字盤を口文字の練習に使うというのは、とても良いアイデアです。口文字が苦手だと思う方にもこれなら練習ができます。

 そして大神さんは、新しい看護師さんやセラピストさんとは、薬の名前など、実戦で役に立つ言葉を使ったしりとりで練習するそうです。楽しみながらする練習だと、苦手意識がでてこないというのが良いですね。



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