ヘルパーさんに見られたくない...
身体が自由に動かせず、自分の声で話しができない方から、コミュニケーションアプリの指伝話メモリについて相談がありました。
相談の内容
指伝話メモリのカードは、日常生活に必要な会話のことばだけでなく、メールやメッセージを送信したり、他のアプリを呼び出すために使われています。
相談の内容は、ずばり、
ヘルパーさんに見られたくないものがある
普段は自分で指伝話メモリを操作しますが、時にはヘルパーさんが画面を触ることがあります。その時に、見て欲しくないカードがあるというのです。
鍵をつけた
引き出しに入れて鍵をかけるようなことが、指伝話メモリでもできないか?と考え、次のようなカードセットを作ってみました。
そのセットを開くと、左上にアイコンがあるだけのページです。
空白のうちの1つに隠し扉のようなカードを作っておきます。それを選ぶと、暗証番号を選択していくカードに切り替わります。
1つカードを選ぶと次の選択画面に移ります。表示されるカードはランダムな配置になるので、場所で覚えておくことができません。ここでは4桁の暗唱番号を入れるように作ったので、4回選択することになります。
もし、選んだ4つの文字が暗証番号に合っていなければ最初のページに戻ります。
暗証番号が合っている時は、大切な彼女の写真ページが開きます。
大好きな彼女の写真をこっそり一人で見たい、それをヘルパーさんに見られたくないという気持ちはとてもよくわかります。
彼女やグラビアアイドルの写真を家族にも見られたくないというレベルであればまだかわいいものですが、銀行の口座情報やとてもデリケートな個人情報は他の人に見られたくないかもしれません。
発生する問題
しかし、この方法には大きな問題がありました。
この画面を見つけた人に「何を秘密にしているの?見せてよ。」と聞かれることです。
「それは秘密です」と断れればいいのですが、「秘密を教えてくれなかった」という出来事が二人の関係に影響を及ぼすかもしれません。それはとても困る事態です。
よく住宅街の小道にこんなことが書かれた看板が立っています。
「この道、通り抜け禁止」
何故かわかりませんが、「禁止」と書かれているとやってみたくなるのが人の心です。そもそも、禁止するということは、「通り抜けができる道がそこにある」ということを暗に示してしまっています。禁止するくらいならきっと何かいいことがあるのだろうと思ってしまいますよね。
しかし、こう書かれていたらどうでしょう?
「この道は通り抜けできません」
これだと諦めます。実際には通り抜けができるとしても、「できないんですよ」という情報を積極的に提供することで、相手を納得させる作戦です。
できるものをできないと言うことに罪悪感を覚えるなぁと言った方がいましたが、「この道は私道ですので、あなたは通り抜けできません、私はしますが。」の省略形の看板ですので、一つも嘘はついていません。だから罪悪感を覚える必要はありません。
この方法で回避策を考えました。
回避策
正しいパスワードとは別に、緊急回避用パスワードを用意しておきます。そのパスワードで開いた場合は別な画面が開くようにしておきます。
どうしてもしつこく秘密の内容を見せろと言われた時や、もしかしたら強盗に脅されて番号を教えろと言われた時に、番号を教えなかったら何をされるかわかりません。それは危険です。そんな時には、緊急回避用パスワードを伝えれば良いです。
するとこんな画面がでてくるようにしました。
「なんだこれ?」と言われたら、
「藤沢市のマスコットキャラのふじキュン♡がぶどうに包まれている理由はなんだと思います?実は藤沢市はワインの生産量日本一なんですよ。山梨や長野だと思ったでしょう?違うんです。それはぶどうの生産地であって、ワインの生産量なら日本一は藤沢なんですよ!」
なんてことを話します。(声がだせなければ指伝話で話せばOKです)
「なんだ?たいしたものじゃなかったのか」と事態は収拾します。(本物ではない)暗証番号を教えたけど、本物の秘密は守ることができました!
それに、ワインの話題が楽しくて、おしゃべりがひろがります。
考えること
自分が何もできない状態だから、介助してもらっているからといって、心まで解除する必要はないと思います。趣味嗜好や心の中まで全部伝えなくちゃいけないなんて辛い。
子どもの頃に髄膜炎で入院した時、髄液を抜くのを大勢が見学にきたけど、パンツずらしてお尻が半分見えてたのはとても恥ずかしかった。
失語症友の会で旅行に行って温泉を楽しんだ時、脱衣や身体を洗うのは手伝ったけど、自分できる人にはお○んちんは自分で洗ってもらうようにさりげなく対応しました。自分できない人もいますが、だからといって開けっぴろげでいいということではないと思います。もしくは、明るく「はいはーい、洗いますねー」とした方がいいのかな。それはその人のキャラによるか。
コミュニケーション機器も同じ。これは単なる五十音表ではないんです。自分の身体の一部です。これを使ってどんな会話を楽しもう、相手を笑わせよう・喜ばせようって思ってみなさん使ってくださっています。用事が伝わればいい、というだけではないんです。
人と人とが付き合う時は、どこまで踏み込んで良いか、距離を読み間違えないように注意をしなくてはいけないと思います。
iPadのパスコードの入力をする時、それをガン見しているパソボラおじさんがいますが、私はそれには反対。必ず本人にお願いして入力中は後ろを向いてます。時間がかかってもスイッチを使ってもいいから、本人に入力してもらいます。
「もういいよ、あなたは全部知っていていいの」と言われても、どこを開くか何の操作をするかをいちいち報告するようにします。家の鍵を預かっても、勝手に引き出しを開けませんもんね。ヘルパーさんたちにとっては当たり前の常識かもしれませんが、意外と気にしない人もいます。
そんなことを考えながら、この秘密の部屋のカードセットを作りました。
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