チャットワークの成長に伴う組織マネジメントとCTOとしてのエンジニアの活かし方

チャットワークという企業をご存知だろうか。

日本のリモートワーク市場の第一人者と言えるほど、働き方改革の第一線で挑戦してきた企業である。2012年にチャットワークリリース後、サービスは大ヒット。現在では300万人登録者を超え、人々の”生活の一部”であり、なくてはならないものとなった。

チャットワークがサーバーダウンする際はヤフーの災害ニュースに取り上げられるほど、社会のインフラであるということはいうまでもない。

そんなチャットワークはサービス開始から7年後の2019年に東証マザーズで約500億円で上場を果たした。今回は同社の代表を務める山本正喜氏と元チャットワークインターン生であり、現hackjpn 代表である戸村光氏の対談記事をお届けする。

よくある上場企業のIRインタビューではなく、同社が30名の小さな企業の頃から知る戸村氏であるからこそ伺える、上場企業になるまでの苦悩とこれからの戦略について追求するものだ。

チャットワークは、山本正喜氏と兄の山本敏行氏で共同で創業された会社で、2000年に留学先のロサンゼルスで創業し、帰国後の2004年に法人化している。

当時はSEOツールやWebコンサルタントなど、中小企業のIT化を支援する複数の事業を展開していたが、2011年に"ChatWork"をリリースした後は、会社の事業を1本に絞り、社名もEC studioからChatWorkに変更している。

"ChatWork"は、山本氏の言うにはビジネスマンのスーパーアプリケーションと呼ばれているようだ。チャットから決済まであらゆる日常からあらゆる手段で使われる。現在の同社のプランは、フリープランは、14回まで無料で部屋を作れ、それ以上は有料になる仕組みである。

オフラインを大切にするコミュニケーション
山本正喜氏との対談では、オフラインのコミュニケーションを大切にされているということだった。同社は、シリコンバレーやベトナムのホーチミンで大規模に、IT飲み会というものを主催されており、ITの経営者が集まって交流会をしたりオフラインでの交流を大切にされている。

同社は、オフラインとオンラインを使い分けて、対面のコミュニケーションをとても大事にしているという。オフラインの場合は、相手の感情というのが非常にコストが高く時間と場所を合わせないといけない。
移動しないといけないので、情報共有と情報の伝達だけだとデジタルで徹底的に効率化して、アナログ化でしかできないところの時間を最大化することが大切である。

オフラインでのコミュニケーションの大切さは、2つある。
1つは、エモーショナルな感情的なコミュニケーションであり、もう1つは、クリエイティブなコミュニケーションだ。

エモーショナルなコミュニケーションは、例えばお悩みごとを1 on 1で、相談するコミュニケーションやプロジェクトのキックオフ、終わった後の打ち上げなどである。これらは、オンラインよりオフラインの対面でやる方が面白く団結力が高まるからだ。
もう1つのクリエイティブなコミュニケーションは、ブレストや合宿などである。同じ空間を共有することで、情報とアイディアを直接交換してクリエイティブな側面が現れてくる。それ以外はチャットや電話などで、徹底的にオンラインで効率化する。そうすることによって、アナログなコミュニケーションの時間を最大限に取ることができるのである。

チャットワークのコンセプト
"ChatWork is Business Communication for Don't Tech People"

チャットワークは、テクノロジーが得意でない人向けのビジネスコミュニケーションツールであるということだ。

戸村氏は、2015年にTechCrunchの開催するイベント「Tech Chrunch Disrupt」にチャットワークインターン時に参加した。Tech Chrunch Disruptは、2010年から続くテックカンファレンスで、参加者は米国だけでなく、世界中から集まる。起業家や 投資家、 ハッカー 、テックリーダーなど、さまざまな立場でスタートアップに関わる人たちが集まっている。

同社が出店した際、SlackのコンセプトはTech Peopleに対して、
テクノロジーを使用した会社スタートアップによく使われるアプリケーションであるのに対して、同社は、Don't Tech Peopleをコンセプトに、テクノロジーをあまり導入していない300名以下の中小企業に対して、展示会でリードのお客様を取ってきて、セミナーに誘って*ナーチャリングするという戦略をこれまで展開してきた。Don't Tech Peopleのこのコンセプトは現在でも変わらないという。
*ナーチャリング:リードナーチャリングとは、見込み客に対して段階的なアプローチをすることで購買意識を高め、自社顧客になってもらうためのプロセス管理のことである。見込み客(リード顧客)を育成(ナーチャリング)するという意味を持つ。

東南アジアの進出と戦略
同社の海外戦略は、日本に比べて1割ほどではあるが、東南アジアを苦戦しつつも一定程度伸びている。東南アジアはGDPがあがっていないのもあって人件費が安いためITに投資するというより、人を雇うことに投資をするという発想がある。また、無料のラインのようなものが流行っているので、お金を払ってまでビジネスチャットコミュニケーションに投資をしようとするのが少ないというのが課題である。

日本人だと電話慣れしているので、効果が少ないのであるが、東南アジアの人でいうと営業の電話が、営業なれをしていないので効果的な部分もある。

同社は、元々電話営業をしないことで有名であったのだが、現在は2018年に18億円の資金調達を行って以降、営業の人員を増やしている。インサイドセールスを増やし、現在は電話営業を行なっているのも現状だ。現在では、初期で30人ほどだった従業員が100名を超える従業員になっている。

組織成長とマネジメントの課題
同社は、VCからの資金調達以前は、30人ほどだったのだが資金調達以降60人、90人と増えてきて、現在は従業員数が140名ほどになっている。

30名から、60名、100名の組織成長の壁はマネジメントの点で厳しかったという。山本氏は、1人の社長が見れる限界は30人から40人だという。

Span of Controlという1人の人間が何人マネジメントできるかというヒューマンリソースマネジメントの研究がある。1人の人間がマネジメントできる限度は、7人なのだ。7人で1部署、1人のマネージャーをつける。50人の部署になった時には部署は、7部署できるのでマネージャーを7人のマネージャーと部署を統括する部門が必要になる。階層が1個増えるところが壁になるのである。

この段階になると、意思決定の伝達が難しくなる。伝言ゲームで1人増えるので、7つの部署ツリー状に階層を作ることになる。階層が1つ増えると、難易度が高くなる。その度に、意思決定のプロセスにおいての議事録をかかなければならないことになる。

組織の成長の壁でいうと、30人から40人の頃と40人から50人を超える頃にはこの会社でどういうことが社内意思決定されているのかが、わからなくなるという特徴がある。

その対策として、
・議事録をとる。
・意思決定のエビデンスを残す
・レポートラインを残す
・経営会議を整える
・予算の管理をすること
を丁寧に行なっているという。

その時に、会社の*OSのバージョンが上がるのである。組織の成長をベースに30人から40人、50人から60人とOSが少しずつ変わっていくので、この塗り替えが壁だという。また、この時に議事録を全てつけることを社内に提案するとなかなか手間がかかると抵抗勢力が生まれ、その合理性に直面することになる。なので、社内改革が進みにくくなる。その壁を乗り越えられるようになると、組織の成長が進んでいくのである。山本氏は、現在では100人ほどマネジメントするOSを整えたので、このシステムで300人まではマネジメントできるだろうと述べている。

*OSとは、オペレーティングシステム(英: Operating System)の略であり通常は、コンピュータのオペレーション(操作・運用・運転)を司るシステムソフトウェアのことで使われる。ここでは、会社経営のオペレーションを司るシステムのことを呼んでいる。

エンジニア発見のフェーズ
起業時の課題で、エンジニアを発見するのが難しいという課題があり、
入れたのはよいものの、その後に突貫工事をするのも難しいという事例がある。その点に関して、同社の事例を詳しく伺った。

議題はこの2つである。
① 最初の起業の時のファーストエンジニアをどうするか。
② 初期のエンジニアの構築したシステムを作り直して再構築する

①ファーストエンジニアを見つける
山本氏へのファーストエンジニアをどうやって見つけるかという相談は多いという。CTOで、技術が使えるが、ビジネス理解もあるというそんな人はなかなかいない。ファーストエンジニアは基本的には尽力して見つけるしかないのであるが、
ファーストエンジニアが将来CTOを担えるぐらいの人材なのかどうかは判断しなければならないのであるが、マネジメントをやりたいのか、安易に初めて入ったエンジニアにCTOをつけてしまうと難しい。



起業時には、よくCTOのポジションを用意してエンジニアを誘うケースは多いのであるが、それはよく検討した方が良い。なぜなら、一度CTOというポストを作ってしまうと、それ以外の優秀なエンジニアが入ってきた時にポストがなくなるからだ。山本氏は、創業メンバーとビジネスサイドとプロダクトサイドのエンジニアでチームを組んだ方が良いということであった。

ITで起業する限りは、テクノロジーの強いCTOを見つけるのがベストではあるが、難しい場合はエンジニアリーダーという形でエンジニアを探した方が良いのである。CTOはよっぽどの信頼関係、パフォーマンスに関しての実績がある時に採用すべきであり、CTOタイトルを使っての、採用はここぞという時に使うのが肝である。

②初期エンジニアの構築したシステムを再構築する
初期のエンジニアは、スピードが求められるのである。クオリティよりもスピードが求められる。とにかく早く作ってローンチする。たくさん作ることは作り方的にはできるが、雑になるので、エンジニアリングの構築物が違法建築のようになってしまう。そのおかげで、機能を追加したり障害が起きたりが発生する。

エンジニアはバーンレートがある中での開発をするので、たくさん早く作るのは雑になってしまう。その場合は違法建築になってしまう。建築であると、1階に作りたいとなっても、10階まで作っているから無理ですという話になるのである。障害が起きたり10万ユーザー超える、プロダクトを作って3年から4年立った時に、構築が大変になってきて、作り変えたいという要望がある。

そうなった時に、そのまま走り抜けるか、作り変えたいとなる。半年開発をとめないといけなかったりする。同社は、スカラーに切り替える決断をした。1年半かけてローンチに失敗して、ようやくスカラーの一部にまで成長した場合もある。

ビジネスが一定うまくいって、事業成長するが、機能の追加が追いつかない。技術的負債をどうするかが肝である。初期のエンジニアはスピード感はもたらすが、クオリティの高いものを作れるエンジニアを見つけてこないといけない。

エンジニアの経営側に、嘘がない報告がされることが肝であるが、エンジニアが強がり、半年・1年ものを、1ヶ月でできますっていうタイプと見積もってみないとわからないですっていうタイプがある。もう1年かけてスカラに成功した。

ビジネスがうまくいって、機能追加が必要なんだけど、スピード感をいれて
見つけるんだけど、機能追加が追いつかないという技術的負債がたまってきて、そこを解消しないとスピード感でない時に、スペシャリストのエンジニアを取っていかないといけないのという課題はスケールフェーズに出る。

CTOの役割
CTOのミッションは、経営にテクノロジーの血を入れることである。経営の意思決定に技術的な視点を入れることである。半年、1年できたりする。CTOの役割は、経営の意思決定に技術を目線をいれることである。技術トレンドや自社の実力もあるし新サービスに関する意思決定もある。

CTOの役割でいうと、ビジネスサイドに説明して、意思決定に反映することである。現場にキャッチアップ。技術がわかっていないと、把握ができないのであるが、技術がわかっていることで、できないこと、できることのブレイクダウンができるのである。できる場合もコストがかかってできる場合がある。こういうのができるか、作れなくはないですけど、めちゃくちゃ時間をかかる場合というのはビジネス上は合理性を見出せないので、できないのが一緒であると判断するのも、技術ができて経営と取りもつCTOがいるからこそ、できることである。

同社は、CTOとCEOが兄弟で血縁関係だったのでやめないという意思決定ができる。CTOはどこも、求められるので移動が多いポジションではあるが
兄弟というご縁で縛るのではなく、ビジネスライクな関係性だけじゃなく繋がるのが大切である。同じ原体験を持っている。ミッションに共感。ビジネスでぶつかった時に切らない理由がおおいほどよい。技術顧問を入れることも大切であり、エンジニアリーダーとセットで入ることによって組織がよくなるという。現在は、技術顧問の導入も各社進んでいるという。

上場のハードシングス ハッカーからのアタック
上場時のハードシングスをお聞きした。
同社は、2019年9月に時価総額は500億ほどで上場している。承認が1ヶ月前に降りてから、リストアタックという大規模なアタックを受けたことが、ハードシングスだった。
こちらは脆弱性がない時に、とある他のサービスで使っているIDとパスワードが100万ユーザーほど漏れてしまったことがあった。そのIDとパスワードを使ってGmailや他のサービスにログインを試し、判断するのが非常に困難なのだが、攻撃を受けてしまった。

同社のサービスが上場承認前に乗っ取られて、4日間攻撃を受けた時、
土日もなく攻撃をされていてエンジニアチームが張り付いて攻撃を防いだのであった。こちらは、インシデントになるので東証に報告する必要があり、山本氏はこの状況で上場の承認が降りるのか、非常に心配だったという。

上場が難しいのではないかと対策もして、投資家に説明もできて東証としてはきちんとやっていただいてますねということでオッケーが出たのである。
上場時には、何か物事が起こると聞いていたので、同社にも事件が起きたのである。

いかがだったであろうか。
今回はチャットワークの同社の代表を務める山本正喜氏と元チャットワークインターン生であり、現hackjpn 代表である戸村光氏の対談記事をお届けした。
CTO兼CEOの山本正喜氏ならではの、組織の成長のマネジメントとエンジニアの活かし方が聞くことができた。
このチャットワークの事例を、他の企業にも転用することができると幸いである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?