発酵道-酒蔵の微生物が教えてくれた人間の生き方
本の紹介者:ゆうひん
■こんな人に読んでほしい
・お酒(特に日本酒)が大好きな人
・自分が関わる業界縮小していて「なんとかしたい」と思っている人
・リーダー・マネジャーとしていいチームを作りたいと思っている人
1.日本酒業界の仕組み
日本酒にどのような印象を持たれていますか?地酒と土地の美味しい食事とのマリアージュを楽しんだ、はたまた学生時代にたくさん飲んで二日酔いした、など色々なイメージがあると思います。本来酒はその土地のもので作る土地と密着したもの。日本の酒を代表するものが日本酒であったはずです。
それが人口減に伴う胃袋減少と共に縮小しつつある酒類の中で、更に拍車をかけて縮小する日本酒市場。その原因は業界構造にあったのです。
日本酒は本来「米・米麹・水」で作るもの。それが戦中にアルコールが添加されるようになり、更に戦後味の調整のために、ブドウ糖などの食品添加物が加えられるようになりました。そのため「二日酔いしやすく、こぼれたらベトベトする酒」になってしまったといいます。
更に地方の酒蔵が大手メーカーに作った酒を「桶売り」として売る商習慣が広がりました。そのため地方の酒蔵の「顔」が見えにくくなってしまいました。
こうした戦後の「量や利益を最優先したビジネスモデル」により、日本酒業界そのものの魅力が薄れ縮小してしまった経緯が分かりやすく書かれています。
2.寺田啓佐さんが乗り越えた3つの壁
そのような中で寺田本家を継いだ23代目当主寺田啓佐さんは、自身が大病を患ったのをきっかけに「本物の酒造り」を目指して3つの壁を突破する試みを始めます。
「菌がいきいきと働ける環境を作り、きちんと発酵させれば腐らない」という信念の元、酒造りに3つの変革を起こしていきます。
一つ目が材料を変える。当時はほとんど栽培されていなかった有機無農薬米をこれまでの米の3倍の値段で手に入れて酒造りを行います。
二つ目が造り方を変える。「生酛づくり」という製法への挑戦です。自然の乳酸菌に発酵を任せるため、大変な時間や労力がかかる製法に挑戦されます。
三つ目が売り方を変える 。これまで10本に3本付けるという売り方をしていたものを、値引きはなしにして本当にこの酒の価値を理解してくれる人にだけ売るようにします。
詳細は本書を読んでいただきたいのですが、ひとつひとつの試みに寺田さんの工夫と「本物の酒造り」への信念が感じられます。
3.菌が教えてくれる「多様性が活きるチームづくり」のコツ
寺田さんのアクションはリーダーシップに通じるものがあります。菌にはそれぞれの役割があり、自分の役割を全うすれば次の菌にバトンタッチして見事な発酵をしてくれます。これこそが多様性を活かしたチームづくりであると感じました。寺田さんが心を尽くしたのはそれぞれの菌が力を出せる「菌にとって快適な場づくり」。決して「人間中心」ではなく「共存するべき相手が力を発揮できる環境づくりを、人間がお手伝する」ということを取り組まれました。
「あるべき姿」を明確にして、生き生きと働いてもらうために働きやすい環境をつくる、というのはリーダーシップに通じるものがあると思いました。
寺田さんが既存の業界構造に疑問を呈し、試行錯誤をする過程はとても人間味があり、普通の人間でも「本当にあるべき姿」を考えてアクションをしていくことで道が開けることを教えてくれます。
酒類業界に関わる者として、チームを預かるリーダーとして二重に勉強になる本でした。
まだまだ寒い2月の夜に熱燗片手に読んでみてほしい本です。
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