100歳まで生きないとダメだとしたら・・・

俺にはあと50年も時間が残されていて。
後半戦突入!だなんて笑ってもいられない。
毎晩、酒飲んで。ずっとやめていたタバコも吸い始めた。
唯一の趣味の音楽も相変わらずの下手の横好き。人前で歌うこともほとんどなくなりギターもホコリをかぶったまま。
ふと思いついて、なにか書けないものかとnoteに再々・・再登録。

家族を愛した。嘘もついた。大切なものを失う可能性もあった。
やりたいことをやり、言いたいことを言い合う。
そんな時代だとはわかっていてもやれないことも多い。
あと10年、いや20年若かったら・・・俺は動画を撮って上げたり、顔を晒して配信したり、毎日くだらないことをつぶやいていたんだろうか。

親友は言う。「俺には夢がある。その夢のために生きている」と。
ヤツの夢は壮大だ。そんな夢を見ることができる彼をうらやましく思う。
「手に届きそうだけど届かない。夢なんてそういうもんだろ」
俺はヤツにそう言った。二人で話していて面白いな、と思うのは俺は夢を持てない夢想家でヤツは夢を持ったリアリストだって事。
数年前、俺は馬鹿げた、そしてくだらないひとつの想いを持った。
夢ではなく”想い”だ。

会社の納会が終わり、同僚たちにあいさつを済ませた俺は駅へ向かった。
「早く帰ってきてよ」出勤前に妻にはそう言われていたのだけど、
自宅とは逆の方向のホームの階段を上っていた。

繁華街。年末の賑わい。メインの通りを抜け、行きつけのバーへフラフラと歩く。エレベータのない雑居ビル。店は3階。少し息があがる(笑)
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」そう言ってマスターが迎えてくれた。カウンターに座り目の前にキープボトルが置かれる。洋物のウイスキー。残りが少なくてうんざりする。
「今日もロックでいいですか?」
「う、うーん・・・薄めの水割りで(苦笑)」
「かしこまりました」
「あ、やっぱりロックで。それと角瓶おろしてもらおうかな」
「ありがとうございます」

ロックグラスにまん丸のアイスをひとつ。バイトの男の子が2杯目を作ってくれている。
木製のドアが開く。黒いコート。白のセーター。髪の長い女性が入ってくる。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
店はほぼ満席で、たまたま空いていた俺の隣の席をマスターが手のひらで指し示した。
「何になさいますか?」
「何か甘めのカクテルをお願いします」
「かしこまりました。苺を使ったものでよろしいですか?」
「はい。それでお願いします。苺は大好きなので」

大き目のグラスに苺とオレンジのゼリー。店の控えめな照明に彼女の白いセーターが否が応でも横目に入ってきてしまう。
この店は男であれ女性であれ、一人で来る客も少なくないが、俺はいつもはあまり話しかけることは無い。マナーというかモラルというか・・・
「タバコ吸ってもいいですか?」

隣の彼女に一言ことわってタバコを取り出す。
「大丈夫ですよ。私もタバコ吸いますので」
なんとなく意外な気がした。はじめて視線が合う。
白いセーター。半分ほどになった苺のカクテル。そして長い髪。

店には1台のピアノがある。マスターの伴奏で客が歌うことができるのだ。
一人客が多いのはそのせいで、ギターケースを担いで来る客もいる。いわゆるセッションだ。俺は音楽的才能は皆無だが歌うことが好きでこの店に来ている。夜11時を過ぎたあたりからマスターはピアノとカウンターの中を行ったり来たりするようになる。酒が進み気分がよくなる客が各々歌うからだ。

「マスター、ビール1杯奢るよ」
「ありがとうございます。今日も何か歌われますか?」
「うーん・・・気が向いたら歌わせてもらうね」
誰かがMr.childrenの曲を自前のギターで弾き語っている。
人前で歌うような人種はやはりナルシストが多い。俺も含めてのことだけれど。ただ俺の場合は自己愛・・・というよりも英雄気取りっていうほうがしっくりする気がしているんだけど。

「この店はよく来られるんですか?」
彼女が少し座りなおして話しかけてくる。
「たまに顔を出す感じです。とてもいいお店ですよ」
「私は初めて来たんですけど楽しいお店ですね」
とても耳障りのいい声だった。

「よかったら1杯奢らせてください。ビールでもウイスキーでもなんでも」
(思わず言ってしまった。少し飲みすぎたようだ。俺の自己評価はうざい中年オヤジ。失敗した、言うんじゃなかった・・・)
「ありがとう。でもビールは苦手なので、これいただきます」
彼女が俺の前のボトルを指さして微笑んでいた。

(ここまで書いて当時のことを思い返してみた。俺は彼女の笑顔が好きだった。長い髪も声も。ホントに好きだったな。)

彼女と少し話した。この店には前から来たかったとか、職場はこの近くなんだとか、お酒は好きだけどそんなにたくさんは飲めないとか、音楽は聴くほうばかりでカラオケ行っても歌わないとか、楽器は何もできないとか。

「マスター、あれ弾ける?陽水と清志郎の”帰れない二人”ってやつ」
「いいですね。たぶん演れますよ。歌いますか?」
「うん、ピアノお願いします」

”もう星は帰ろうとしてる 帰れない二人を残して”

歌い終えた俺は席に戻る。小さく拍手してくれている彼女。
水割りのグラスは空っぽで。バイトの男の子が彼女の黒いコートを用意していて。終電の時間が近い。”帰れない二人”って曲を選んだのは俺と彼女のことを歌いたかったわけではなくて。

「じゃあ、私お先に失礼します。お酒ごちそうさまでした。」
「あ、いえ、はい、気を付けて。」
「はい。ありがとうございます。あ、お歌ものすごく上手でした」
「あ、いや、あの・・・ありがとう。」
「では、また」

これが彼女との出会いです。ここから先、続きの話は書けたら書きたいです。ただ当時も今も俺は既婚。いわゆる”不倫”ってことになってしまいます・・・なのでこの文章は虚構、中年男の妄想として読んでいただければと思います。(読んでくださった方がいたならですが)
現実的にはほんとに始末の悪い話なんです。
でも、「好きになったら止まらないし止められない!」って方も多かったりしませんか?俺の周りにもけっこういるんですよ。たとえば同窓会のあと、大人の関係がはじまってしまったとか。

あ、そうそう井上陽水さんの「帰れない二人」とてもいい曲なんで、もしよかったらググって聴いてみてください。では、拙い文章で失礼しました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?