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ないものねだり

隣にいてほしいと駄々を捏ねて、ソファで眠ろうとする人を半ば無理やりベッドに招き入れた。
触れ合わない距離感で「きみのことを好きになりかけているのかも」と、彼は言った。

だけどそれはわたしの思惑通りだったので
申し訳ないけれど驚かなかったし、意外にも思わなかった。

わたしは彼をあの子に渡したくなかった。
あの子のものにならなければなんでもよかった。
あえて言い訳をするとしたら、
ちょっといいなと思っていたのは本当だし
恋は早い者勝ちだから。

付けっぱなしのデスクトップのスクリーンが側の壁を青い光で染めている。
夜風を入れるために開け放たれた窓辺では薄ら白いカーテンが揺れていて、
…ちょっと不気味で怖いな
と思っていたときに、彼の唇がやさしく触れた。

こんな形で得る幸福感なんて明日には薄れると知りながら、わたしはただ目を閉じた。

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