見出し画像

資料性博覧会17への出展と新刊のお知らせ

8月10日に秋葉原UDXで開催される、資料性博覧会17に夜鳥文庫として出展いたします。サークル番号は73番になります。

資料性博覧会17の詳細は下記をご覧ください。
https://www.mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/17/

このイベントに併せて開催される、川勝徳重先生のトークショーへに聞き役として登壇することになりました。
川勝先生が『MANDARAKE ZENBU』で連載していた「夢と重力」の完結を記念したものです。
生存している人類では10人もいないと思われる、ナカムラ・マンガ・ライブラリー&ナカムラ絵叢書全100冊を読破された川勝先生が、戦前の子ども漫画の話を縦横にしてくれる楽しいイベントになっています。こちらも是非ご参加ください。

夢と重力 ナカムラ・マンガ・ライブラリーの軌跡1933~1943 連載完結記念トークショー

それで、資料性博覧会17ですが、既刊の麻生豊『ノンキナトウサン 誕生百周年記念復刻版』を販売します。
これに併せる形で、小寺鳩甫「ターちゃん」の復刻を新刊として準備していたんですが、思いの外忙しくて間に合いませんでした・・・。

代わりと言ってはなんですが、今回のトークショーの内容に合わせて軽いものを一つ復刻しました。

芳賀まさを「将軍ト子供」(復刻版表紙)

『将軍ト子供 復刻版』
著者:芳賀まさを
原著:中村書店、1942年
復刻版出版社:夜鳥文庫
装丁:B5判、中綴じ、36ページ、オールカラー
※別紙解説付き
ISBN:978-4-9913348-1-8

BOOTHにて通販の予約受付を開始しました。
芳賀まさを「将軍と子供」復刻版

既刊の「ノンキナトウサン 誕生百周年記念復刻版」と一緒に購入したいという方の為のお得なセットも用意しています。一緒に買いたいという方はこちらをどうぞ。
「ノンキナトウサン」と「将軍ト子供」復刻版お得セット

本作は中村書店が戦時中に出していた、ナカムラ絵読本というシリーズの一作を、ほぼそのままの形で復刻したものです。
中村書店は戦前の一大漫画叢書「ナカムラ・マンガ・ライブラリー(以下NML)」で知られた出版社です。「のらくろ」に代表されるように、大戦前にはスラップスティックで楽しい漫画がたくさん作られていたのですが、その荒唐無稽で児戯的な暴力描写などが、保護者や教育界などから不興をかっており、戦時体制下に入ると内務省より「児童読物改善二関スル指示要綱」(昭和13(1938)年)が通達され、表現への規制が行われるようになります。
「児童読物改善ニ関スル」となっているように児童向けのコンテンツ、特に赤本漫画がやり玉にあげられ、”健全”になるように”浄化”が行われるわけですが、ナカムラ絵読本はそうした時流に対応して創り出されたシリーズでした。(詳しくは川勝先生の「夢と重力」を読んでください)
本書はB5判と大判でパッと見は絵本なのですが、「絵読本」というシリーズ名にあるように、絵物語と漫画が入り混じったような作風になっており、読みの感覚は漫画に近くはあるんですが、表現としては絵物語や絵本のようでもあります。
それは指示要綱で漫画はよろしくないとされたためで、漫画とみなされるであろう2大要素、吹き出しとコマ割りが、表面上は使われていないように見える工夫がなされているからです。戦中の漫画表現では、このような漫画的な要素を隠蔽した、漫画表現の模索が様々行われていました。


芳賀まさを「将軍と子供」本文ページ

こうした、漫画として見られない工夫をしたためか、本作では戦前の定型化したコマ割りから脱却して、戦後漫画的な自由なコマ割りになって見えるのも面白いです。ナカムラ絵読本は、タイトルごとに作風が結構変わっており、国会図書館とかでも読めるので興味のある調べてみてください。

内容は田舎の町(芳賀の故郷の弘前だと思われる)に陸軍の大将が来て、子供たちがその姿を一目見ようと右往左往するといったものなのですが、子供の服装に社会階層が見えたり、ずっと天狗のお面を被っている子供がいたりと、なかなかにエモい要素が多く、個人的に絵読本の中でも好きな作品です。

作者の芳賀まさを(1905-1965)は、戦前に『少年倶楽部』などで活躍した漫画家で、昭和13年から『講談社の絵本』で連載した「カバサン」が代表作です。昭和15年に急逝した吉本三平から「コグマノコロスケ」を引き継いで描いた作家としても知られています。
中村書店の仕事としては、NMLがナカムラ絵叢書に変わってからの「ドウブツ学校」(昭和14年6月)、「南極ペンちゃん」(昭和15年6月)、「雪国の兄弟」(昭和17年12月)の3冊を執筆。絵読本も本作の他、「りんごの便り」(昭和18年5月)を執筆しています。単著以外でも「漫画の〇〇」タイトルのオムニバスにも幾つか描いているようです。
戦後も漫画家として人気を保ち、『幼年俱楽部』や『漫画少年』などの多くの子供向け雑誌に作品を書いていますし、描き下ろし単行本も結構ある作家です。
後進の育成にも力を入れていて、弟子たちのグループどんぐり漫画研究会には永田竹丸が参加しており、のちに義理の息子なりました。同会に参加し永田と結婚した娘の芳賀恵子も漫画家として活動しています。

なお、本書はもともとはホチキスで平綴じしたものに表紙を巻きつけた造本で、背表紙のある本なんですが、復刻に使った本は背がほぼ欠落していたのと、読みやすさを考慮して、今回は中綴じにしています。

川勝先生のイベントに合わせて中村書店のものを復刻してみようと思い立ち、自分の持っているナカムラ絵読本の中のうち、新関健之助の『夜ノ動物園』と迷いましたが、『将軍ト子供』の方は図書館などに収蔵されていないようなので、今回の復刻に選びました。(『夜ノ動物園』はデジタル化されて国会図書館(館内限定)で読めるので是非!)
ナカムラ絵読本は、これまで復刻されることのなかった資料なので、この機会に興味を持っていただけると良いかなと思います。ちょうど8月の戦争を考える時期でもありますしね。

それでは会場でお会いできるのを楽しみにしております。