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復刻版 ノンキナトウサン

現在、麻生豊『ノンキナトウサン』の復刻版を制作しています。

『ノンキナトウサン』(報知新聞出版社出版部版)

今年は関東大震災から100年ということで、同年に始まった『ノンキナトウサン』も連載100周年になっており、それを記念した復刻になります。
当初は、9月1日に合わせて出す計画だったのですが、レタッチ作業に手間取り、10月になんとか出せそうです。

麻生豊が描いた漫画『ノンキナトウサン』略して『ノントウ』は、大正12年4月に報知新聞の日曜漫画欄で『呑気な父さん』として連載が始まり、9月1日に関東大震災が起こるまで週一連載されていました。関東大震災後も10月28日より連載が再開され(この時はまだ週一連載)、11月26日からは日刊連載となります。この日刊連載が人気を呼び、報知新聞の部数を倍増させたともいわれます。
同時期に連載が始まった同じく日刊連載であった『正チャンの冒険』と共に大正末期に一大ブームを起こし、日本における日刊連載新聞四コマ漫画の嚆矢となった作品です。
その人気からメディアミックス的なことも行われており、喜劇俳優の曾我廼家五九郎(そがのやごくろう)が舞台や映画で演じて当たり役となり、五九郎の出身地の徳島では五九郎まつりとして、ノントウのコスプレをして練り歩くお祭りが毎年開催されていたりします。また、キャラクター商品(多くは無許可であったと考えられます)も大量に発売されました。

曾我廼家五九郎(※ノントウと関係ない写真だがノントウに良く似ている)


あくまで子供向けの物語マンガであった正チャンと比べ、家庭を舞台にして、ほぼ一話完結で毎回きちんとオチがつくノントウは、大人も子供も楽しめる漫画として、より幅広い層に浸透し、現在も続く新聞四コマの基本形を作った作品と言えるでしょう。
また、ノントウの単行本は関東大震災に被災するところから始まり、その後の被災地での市民生活をつぶさに描いて居るという意味でも、高い資料性を有しています。

関東大震災のシーン

今年は正チャンも100周年なので、他所で新聞連載版の復刻の動きがありますが、それと比較して読むのも意義深いのではないかと思います。

復刻するのは、大正13年に刊行された報知新聞社出版部版で、1、2巻分を1冊にまとめて出します。
底本は大分県立歴史博物館所蔵の資料で、麻生豊マンガ資料コレクションとして下記でデジタル公開されているのでご興味ある方は読んでみてください。
麻生豊マンガ資料コレクション ノンキナトウサン_単行本

すでにデジタル公開されていて、そこで読めるなら紙の本をわざわざ出す必要はないのではと思われるかもしれませんが、国会図書館デジタルのような大規模なサービスならまだしも、現在のインターネットサービスの継続性や管理する美術館・博物館の状況を鑑みると、上記サイトが2~30年後も存続している可能性は低いと考えざる負えません。紙の本で出して、国会図書館などに入れた方が確実に作品として残り、参照もしやすくなるでしょう。

なお、すでに宇佐市教育委員会が今年の4月に、報知版の1巻を原本に近い形で復刻しましたが、図書館などに配布するための非売品だそうで、一般販売はされないようです。
宇佐市民図書館 連載開始100年記念「ノンキナトウサン」の復刻について

今回の復刻では資料性を考え、これまで未収録であった関東大震災以前の日刊連載のエピソード15話分と、新聞掲載されながらも単行本に未収録になっている2巻分までのエピソード全6話分も収録し、作品の概略と、新聞掲載版と単行本版の対照リストなども付します。
特に、日刊連載初回となる11月26日のエピソードが、単行本には収録されていないのは、あまり知られていないかもしれません。

日刊連載初回のエピソード(1923年11月26日掲載、漫画資料室MORI所蔵)

未収録エピソードの一部は漫画資料室MORIさまのご厚意により、当時の新聞切り抜きから高解像度スキャンしレタッチしました。そういう意味でも資料性の高いものになっております。

『ノンキナトウサン 復刻版』
著者:麻生豊
出版社:夜鳥文庫
装丁:142ページ(予定)、単色、B5判ソフトカバー
価格:1500円(予定)
発売時期:2023年10月上旬予定 好評発売中です

販売方法などが決まりましたら、追ってお知らせいたします。現状は自分でイベント販売や、ウェブでの通販を行う予定ですが、お取り扱いいただける書店さんなどございましたら、ご連絡くださればと思います。