2020/08/08(土)

一年に数回、記念日などの大事な日に行くお寿司屋さんがある。あまり値の張らないお寿司屋さんだけど(「わりと庶民的な値段」なのだそうだ)、自分にとっては贅沢な時間。ひらめのえんがわや青森のうにの握り、うなぎの白焼きやキスのフライなどを食べた。ここに来てビールの小さいのを飲んでいると、「大人になった」と思う。気に入りの店で、自分をねぎらう。わたしはおばあちゃんになったら、このお店のことを思い出すのだろうな。若い頃はあのお店でお祝いするのが楽しみで、みたいに。

おいしい、となんども思った。自分がそう思えることが嬉しかった。食が細く、胃腸が弱いので、あまり多くは食べられない。それで最近ではもう食にたいしての興味が弱まりかけていたのだけど、おいしいお店に出会うと、食の喜びを思い出させてもらえる。「生きているうちにもっと食べたいな」と思う。それは純粋な欲だ。自分を生きることにつなぎとめる、強い力を持つ欲。わたしは昔それを怖がっていたけれど、今はその欲が欲しい、と思う。欲を持つことは、叶えられない苦しみをも引き受けることだが、欲を失うことは、生きる喜びを手放すことだ。

「おいしかったです。ごちそうさまでした」
いつもそう言ってお金を払って帰る。お寿司屋さんを出るとものすごく暑かった。またここに来たい。それまで生きよう。

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