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棚|よるの木木

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#演劇

花弁の迷宮、祝祭と反抗のバラ色 ― 川口隆夫『バラ色ダンス 純粋性愛批判』(よるの木木)

 なにかを「変」だと名指した瞬間、「変じゃないもの」も想定される。なにかを「ふつう」だと思うなら、同時に「そこから外れたもの」が暗示される。それら「変」「変じゃない」の対はいったりきたり、その場・その時・その空間で、膜のように容易にうつろう仮初だ。たとえばステージ上の「異」は、日常で感じる「異」とはちがい、それがどれだけカオスであっても観客にとってはときに「ふつう」である。ステージにはステージの規範、日常には日常の規範……と、わたしたちを幾重にもつつむその場・その文脈の規範の

劇評|自分の中の他人の体、他人の中の自分の体 | 和田ながら×やんツー「擬娩」

 あなたもわたしも、生まれてきた。こうしてここに生きているなら、ともかく誰かから生まれてきたことはたしからしい。動き回るセグウェイは女性の声でそのような問いかけをしたあと、こう提案する。    「産むところからやってみよう」  それにのって妊娠・出産をシミュレーションするのは、十代の女子・男子、成人男性という、妊娠・出産ができない/すると想定されていない役を帯びた四人である。  本作のタイトルでもある「擬娩」とは、妻の出産前後に、夫が出産に伴う行為の模倣をする風習のことだと