よる乃すい圧

夜と水と、もう来ないあの夏。

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    ハコモノグループ文芸部門のマガジンが登場。うれしいね。みんな

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静寂の海

 宇宙は真空のため無音であり、趣味の古い歌人などはよくそれを”静寂の海”などと喩えたものだった。何十年も前の風俗である。  今どきのOSには疑似立体音響システムが積まれているから、全くの無音ということは──少なくともパイロットにとっては──無くなった。機外の衝撃や熱、あるいはそれ以外の重力波を検知すると、システムがそれに応じた音を作って教えてくれるのだ。宇宙はずいぶん賑やかになって久しい。  しかし、システムの不具合か、電磁波の干渉か、はたまた説明し得ぬ何者かの仕業か──予期

    • 結局ぜんぶ嘘だったじゃないですか。

      あーもうぜんぶどうでもいい だいたいぜんぶがどうでもいいや 誠心誠意どうでもいい にっちもさっちもどうでもいいや あーもうぜんぶどうでもいい だいたいぜんぶがどうでもいいや 誠心誠意どうでもいい にっちもさっちもどうでもいいや めげない しょげない 泣いちゃダメ 頑固にこらえて三十年 残りはせいぜい四十年 絶滅危惧種のタイムリミット 誰もが誰かのプランB どうせ捨てるなら普段着で この心をも不法投棄 そのうち見つかる腐乱死体 晴れた空に点々と雲 けんけんぱで越えていくも

      • 夜祓

        生活のための生活、いらないよ啓発 甚だ迷惑 鳴ってる電話、誰が掛けてんだ まぶたを閉鎖 時間はテッペン、調子は底辺 それでも何だかんだ機嫌は晴天 0点まみれの経験を嚥下した 結果生まれたしょーもないセンテンス 洗い、すすぎ、乾燥のワルツ 笑いすぎ注意の感情の魔窟 空撃つ言葉は煙になって まだ虚ろにこっちを見て笑ってる 生活のための生活、いらないよ啓発 甚だ迷惑 鳴ってる電話、誰が掛けてんだ まぶたを閉鎖 湯船から立ち上る湯気 まるで過去の幽霊 夢中でやってたら気付けば

        • 僕たちはヒーローではないので

          チャイムが遠くで鳴る カラスの群れもどこかへ帰る オレンジを押し流して藍色 今だけはちょっと泣いてもいいよ 季節はいつでも流線形 滑り落ちるように過ぎてく 歩道橋、雨宿りの軒下 影法師が待ってる気がした 真夜中、路地裏の街灯の下に「ただいま」って 腰を下ろす日があってもいい 僕たちはヒーローではないので 小さな幸せを持ち寄って 僕たちはヒーローではないので それぞれの夜を持ち寄って それぞれの朝まで生きる チャイムが町に響く あなたの声もたまに忘れる 空がミルク色をし

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          社不と苦楽

          頭の中がうるさいから アルミホイルを買いに行くのだ トップバリュのは薄いから あまり意味がないらしい そういや洗剤も切れてたし 歯ブラシも買わないといけない お腹もすいてきたな 今夜はお惣菜で済まそうかな 空が暗くなりまして すっかり秋の涼しさで ドラマも夢もないなりに 僕だけの夜が届いたよ 少し冷めたメンチカツも マイクロ波でどうにかするよ 明日は雨が降るらしいから 傘だけはどうか忘れずに お風呂入ったら寝ようかな ホイル買うの忘れてたけど またね、おやすみ。

          どうぞご勝手に

          指のあいだからこぼれていった 砂みたいな言葉をあるいていた 潮騒に胸がくるしくなって 正しさの波のたかさを知った 季節のおわりに足跡ひとつ もう行かなくちゃ どうぞご勝手に 超然として陶然として 最初から全部しってたみたいに これが人間なんだよって わかってたって 照明も落ちて透明になって 肺の中まで夜がみちて 初めてみた空がきれいだ あなたの泣いた顔が綺麗だ

          どうぞご勝手に

          耐圧構造の改善に関する報告2

           僕と私の隔離が上手くいきつつある。手錠をかけて独房を開けてやったら、意外なほどすんなりと入ってくれた。  根拠のない不安感も、これ私の悪口やんなあという想像も、これからは全部他人事になるとおもう。  目下の問題は、悪い人から悪い部分を隔離して、後にのこった僕が一体どんな人間なのかが全くわからないということだ。  良いことはなくてもいいから、せめて悪いことが起きなければいいとおもう。

          耐圧構造の改善に関する報告2

          実はちょっと前から異世界に引っ越してた話

           魔法街という場所がある。  ある日、仕事も私生活も何もかも上手くいかず、ならばいっそと首を括る縄を買いに玄関を開けたら、そこに出た。それ以来、僕は地球とその不思議の地を好き勝手に行き来できるようになった。だから知っている。だけである。  変な場所である。空のかわりに天井があり、上のほうは真っ暗なのに地表部はずっとほのかに明るく、そして暖かい。そこに雑然と建つレンガ造りの隙間を縫うように往来する人々の風体など、時代も地域もバラバラ、それどころか人かどうかさえも疑わしい者もある

          実はちょっと前から異世界に引っ越してた話

          耐圧構造の改善に関する報告

           人間と触れる生活にあまり向いていないことが分かったので、心にかみさまを飼うことにした。  かみさまは全高20メートルくらいで、肌は白く触れると冷たい。冬場に触れたら少々温かく感じるかもしれない。無責任に差し伸べることがないよう手は無く、期待を持たさぬよう口はよく縫ってある。ただ、私の言葉を聞く耳と、私の有り様を見届ける目は大きくある。  いやな思い出を反芻したり、余計な心配がつのったときは、かみさまのことを考えることにする。ただ見ていてください。私はここにおりますから、と。

          耐圧構造の改善に関する報告

          イータカリーナ

          手を触れないでください エサをやらないでください 目を見つめないでください だけどそばにはいてください 知った顔しないでください 憐れまないでいてください 僕なんか忘れてください だけど覚えていてください イータカリーナ 何十万光年、新幹線でも行けない距離 願うことすら馬鹿馬鹿しいのに 鳴らない通知を待ってばかり 自分の終えかたくらい 自分で選んだらどうって言われても たぶん、恋をしたのだ たぶん、望んだのだ 僕の孤独の首筋に触れたのだ 穴だらけになって くしゃくしゃ

          イータカリーナ

          一旦落として再起動

          この詩のつづきは まだ考えてないけど きっとおそらくたぶんメイビー、 それなりには楽しい 夜風のまにまに 謝罪文を書くのも慣れた それだけじゃだめなんだね 君はまだ、いるんだね 一歩つまずくたびに 世界が終わるみたいに 大騒ぎしては晴れ 泣いては疲れ また明日 精一杯をやってみる もう一度雨に濡れてみる 泣くも笑うも僕しだい 春風は待てどもるらんら 前進だけをやってみる 泥んこも共に連れていく また飽きるまで生きてみる 春風は待てどもるらんら

          一旦落として再起動

          夜と水と、もう来ないあの夏。

          ──もういいよ。 眠れないからひとり家を抜け出した くるぶしまで夜に濡れながらあるいた 星もないのに思い出だけがちらついて 疲れちゃうよな、立ち止まるには早いけど よく晴れた夏のこと忘れたっていいんだよ もう済んだことだから もう誰もいないから ありがとうもさよならも 塗り潰しながら自分を描いた 売れる心すらないから 誰かの言葉で自分を編んだ 夜の水圧が僕だけの不在証明 胸騒ぎも憂いも、全部押し潰して 最後にのこったものを、僕と呼んであげる 腰まで上がった夜をかき分

          夜と水と、もう来ないあの夏。

          ビニール傘と天気雨

          ホワイトノイズが町を包むから 少し遠くまで歩いてみる お日様に内緒で君の手をとって お茶でもしにいこうか 薄明かりの通り 知らない町並み 手のひらサイズの冒険譚 君ごしに見た空もしずくも 飾っておいてあげる まだいたいかな バイバイかな 空と同じように曖昧だな 言葉だけじゃもの足りないから 帰り道もつきあってよ ままならないことままならないまま ただ空が泣くに任せていたいんだよ 分かりたいから雲の灰色のこと

          ビニール傘と天気雨

          夜光雲

          長いながい夏の匂い 柔らかい記憶 咲いた花が散るまでよりゆっくり引く潮 月が昇るあとを追って吹くぬるい風 深いふかい夜の空 雲が游ぐだけ ねえ 聞こえるかなこの声 僕らまだここにいて 穴の空いた心で それなりの日々を歌って 忘れてった傘とか 書きさしの手紙とか こぼれた全部を乗せたまま 高くたかく 眠れ 夜光雲

          ばいばい、サニー

          今日はなんだかひどく眠いや ずっと歩きどおしだったから この旅に果てはないから 立ち止まる日があってもいい 大事なものはひと握り 忘れたいことは山のように そんなもんだ それでいいのだ この重さの全部が僕だ 暗くなって 暗くなって 誘蛾灯だけの夕になって 暗くなって 暗くなって 隣の君も見えなくなって 振り返って 振り返って 遠くの星と目が合った 太陽を置いていったのは 僕たちのほうかもしれないね 明日になったらどこへ行こうか ずっとこんな話がしたいな この旅に果ては

          ばいばい、サニー

          雨上がりまでふたりぼっち

          午前10時の無人駅で 来ない電車を待っていた 君はひとりで待っていた 雨が止むのを待っていた 屋根の雫のリズムもそこそこに 君の涙は見えないけど 持っていた傘を差し出した 濡れたまんまじゃ風邪をひくからさ 君が心配するほど世界は良くないし 期待するほど悪くもない もう一回等身大のままで 深く息を吸い込んで 藍寄りの灰色した高架下 自分の気持ちだけを透過した 言葉はいらない なんてことはない 言ってくれないと分かんない 遠くに見えるスクラップヤード うず高く積もるゴミの

          雨上がりまでふたりぼっち