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アルバムレビュー - Petter Eldh『Koma Saxo』

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スウェーデン出身で現在はベルリンを拠点に活動しているベーシスト/プロデューサーPetter Eldh率いる5人組のバンドプロジェクトKoma Saxoの初作品。メンバーには近年刺激的な活動で注目を集めている音楽家が参加していて、中でも近年関わった作品で悉く耳を引く演奏を披露しリーダー作でも傑作が続いているChristian Lillinger、2018年に発表したリーダー作『Y-OTIS』が素晴らしかったOtis Sandsjöは個人的に注目しているプレイヤーだったのでクレジット見た段階ですごくテンション上がりました。リーダーのPetter Eldhについても前述の2者の作品への参加をはじめいろいろなところで名前を目にしていたので待望のリーダー作という感じでした(連名などでなく単独のリーダー作としては初のリリースだと思います)。サックス奏者3名という編成を活かした無骨なブラスリフが印象に残る曲が多く、そこにChristian Lillingerのビートミュージックを昇華したトラッシーかつグルーヴィーなドラム演奏が加わることで前のめりな推進力を感じる音楽になっています。リフの推進力が全体を引っ張る音楽って意味ではSons Of Kemetなんかとも通じるように思いますが、こちらはレゲエ/ダブ的なグルーヴは用いずレイドバックしたノリでの演奏も少ないので、その辺りが大きな差異といえるかなと。故に突進力というか、聴き終えた時の爽快感みたいな部分では本作に分があるように思いますし、各曲が短めにまとめられていることも相まってビートテープ聴くような感覚でラフに接することができるアルバムのようにも感じます(そういえば音質もどことなくそんな感じ)。ほんとあっという間に聴き終えます。



また、Petter Eldhはサイドマンとしてこれまで多くの刺激的な作品に参加してきており、ドイツを中心としたヨーロッパのジャズシーンでアブストラクトな音楽性を指向している作品やシーンを追う際にはキーマンといえるような存在かと思います。なので以下に彼のこれまでの参加作で目ぼしいものをいくつか紹介してみます。


・Christian Lillinger『Open Form For Society』

先のレビュー文章でも言及したドラマー/作曲家Christian Lillingerの作品。9人からなる風変りな楽器編成でそれぞれのサウンドを点的に配置していくような手つきが感じられる、いわゆる重奏とは異なるパースペクティブで描かれた独自性の強いアンサンブル・サウンドがとてもエッジーで面白いです。


・Otis Sandsjö『Y-OTIS』

先のレビュー文章でも言及したサックス奏者Otis Sandsjöの作品。エフェクティブな奏法やビート・ミュージックを昇華したアプローチなども巧みに用いられ、正に現代的なハイブリッド・サウンドといった仕上がりです。こちらにレビューも書いています。


・Anton Eger『Æ』

Phronesisのメンバーとしても活動している凄腕ドラマーAnton Egerのリーダー作。電子的なサウンドをめちゃくちゃフレキシブルに操る様が圧巻。パートがバシッと切り替わるような構成もいちいちかっこいいです。レビューはこちらにあります。


・Lucia Cadotsch『Speak Low』

スイス出身のジャズ・シンガーLucia Cadotschの作品。スタンダード集なのですががバックを支えるPetter Eldh、そしてOtis Sandsjöの演奏が本当に素晴らしい。もしかしたらOtis Sandsjöの只者でなさはリーダー作よりこっちのほうがわかるかも。


・Enemy『Enemy』

近年ECMからも作品を発表しているピアニストのKit Downes、イギリスのドラマーJames MaddrenとのピアノトリオEnemyの作品。エレガントな印象のKit Downesのピアノに対しPetter Eldhが結構前に出てくような演奏で絡んでいるのがとてもかっこいい。


他にもいくつかあるのでそれらも含めプレイリストに纏めました。ECMから作品を出しているDjango Bates Belovèdはこれまで彼の参加を意識せずに聴いていましたし、Richard SpavenやJameszooの作品にも(ぞれぞれ1曲ずつですが)参加していたのは驚きました。想像以上に活動範囲広い。ジャズにおいてベーシストってサイドマン/セッションワーク的な感じでいろんな演奏機会を行き来するのが他の楽器より多くなりそうなイメージあるので、いざ発表されたリーダー作ではそういった活動の中で出会った重要なプレイヤーが集結するみたいなケースが起こりやすいように思いますし、あまり掴めてないシーンを探りたいって時はベーシストのリーダー作をチェックするのって結構有効なのかもしれませんね。


最後にPetter Eldhのウェブサイトを貼っておきます。バイオグラフィーなどは是非こちらで。http://pettereldh.com/



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