「freq」MARK FELL, KAKUHAN, RIAN TREANORの雑感
九州大学大橋キャンパス音響特殊棟録音スタジオで度々行われているイベント「freq」に久しぶりに行ってきました。過去にはこのイベントですずえりさんやHARDCORE AMBIENCE(ナカコー+ダエン)や日山豪さん、そして同大学で音にまつわる研究をされている方々の様々なパフォーマンスを観ましたが、今回はなんと来日ツアー中のMark FellとRian Treanorの親子、そして日野浩志郎と中川裕貴によるデュオユニットKAKUHANが出演というヤバい組み合わせ。演奏もかなり面白かったので覚え書きです。だいぶまとまりないです。
既に書いた3組の出演、18:00スタートという情報だけ持って会場へ。オープンするとこのイベントの主催となっている芸術工学研究院 音響設計部門の准教授である城一裕さんが案内に出て来られたんですが、その際に「録音をしているのでお喋りは禁止で」とのアナウンスがありました。私はトイレ行ったりでそこから3~4分遅れて演奏が行われる部屋に入ったんですが、この時点で既に電子音が鳴っていて、音数はそれほど多くなく音量も控えめだったことから誰かのソロ録音をしているのかな?という印象。私が入った時点で既に定員50名(完売)のうち30人くらいは入っていて、長方形の部屋の4隅をメインに多数置かれたスピーカーと、中心に置かれたアンビソニックマイクの間に円になるように座ってじっと聴き入る雰囲気が形成されていました。
私はちょうど中川さんが演奏すると思われるチェロとペダルエフェクター類のすぐそばにスペースを見つけたのでそこに座り込み、流れている音(疎らな電子音やパーカッション系の音色があるものの変化はほぼなし)を聴いていると、数分後に中川さんがチェロの元に現れキシキシといった弦の軋みを控えめに鳴らし始めます。この時点で私はやっと長方形の長辺の中心辺りにMark Fellがいて、短辺の中心辺りに中川さんとRian Treanorがいるという設定になっていることを認識します。
中川さんは軋みのような音からはじまり、弓をとっての掠れた音、ピッチカートというかパーカッシブな音なども出しながらそれらを逐次ルーパーに通して徐々に不整合な生音クリック・ハウス?みたいな響きが出来上がっていきます。その間に最初から鳴っていた電子音やパーカッション系の音色もバリエーションが増えており、どうやら既に「演奏」が始まっているらしいことを掴みます。自分の位置からは遠いのではっきりとはわかりませんが、Mark FellとRian TreanorもそれぞれPCとミキサーの前に座り、たまにそれらを触っている様子だったので、何かしらの音も出しているっぽい……ということはこれは中川さんとMarkもしくはRian(またはその両方)との共演ってことなのか?ということは予想していたMark Fell(ソロ)、Rian Treanor(ソロ)、KAKUHANの3アクトということではないのか?と戸惑います。
そして演奏はそれまでとは明らかに違うタイプの電子音やブツブツといったノイズが入り徐々に様相を変え、中川さんもループを使わない演奏に移行してはまた戻って別のループを形成したり、掴みどころなくサウンドを変化させていきます。そしてそういった音の連なりの中から不意に、ピアノの和音が一度聴こえてきます。どうもピアノ1を誰かが演奏したようなのですが、私の位置からはその鍵盤の方は全く見えずよくわからない。明らかにスピーカーからの音ではなかったはずだが果たして…?
あれこれ戸惑っているうちに、演奏はまた様々に変化し、場面によってはMark Fellらしい勾配の変化するリズムが表れたり、まためちゃくちゃ明瞭な鳴りのキックとサブベースが入ったり(私はすぐそばにドでかいウーファーがあったのでマジで迫力凄かった)、だんだんとこれは多分Markの音、これは多分Rianの音というのが掴めてきます。ただ中川さんの音に関しては目の前にいるので最も掴めているはずが、抽象的な電子音、つまりMarkかRianのものかと思って聴いていた音が中川さんが手元のミキサーで音下げたら消えた(つまりそれはどうも中川さんの音だった)ということが度々あり、掴めそうと思ったところで何度も戸惑いに引き戻されます。またピアノの音が今までとは違う位置から聴こえ、どうもピアノ2もたまに鳴っているらしい。しかしその前には誰もいないはずだが?と思いましたが、鍵盤が動くのがかろうじて見えたので、こちらはおそらく自動演奏だろうと一応納得(わかったのは終演後ですが、このピアノはYAMAHAのMIDIを受け取れるタイプのグランドピアノで、RianがPCからMIDIを送って演奏していたそうです)。
演奏は音色の性質、音量、そしてそれらの繋がりの滑らかさと急速さまで、何度も変化しているためここに逐一書き出すのは無理ですし、第一覚えてもいないんですが、様々な音が密に重なり合い音響体としての強さを感じる時間もあれば、それ自体今この瞬間で何かを表現しているわけではないというか先の音を探るもしくは録音されたものを何かしらに使うことで事後的に価値を帯びる「素材」を録っているかのような力感を感じる時間もあったように思います。
で、演奏の変化の中で音量の沈み込みによる「終わりか?」と思わせる時間や、威勢のいいキックや冒頭にも耳にしたパーカッション系の音色など同系統のアプローチと思えるサウンドの再起なども経たのち、ふとピアノ1の下を覗き込んだところ演奏者の足が見えたので、こちらは自動演奏ではなく人間、そしてメンバーの構成からおそらくそれは日野さんだろうということをやっと掴み、出演者全員による集団即興を行っているのだということに辿り着きます。ピアノが鳴る箇所が決して多くはなかったこと、またそこから聴こえてくるサウンド(主に和音をポーンと鳴らす程度)が、自分が日野さんの音楽(といってもYPYはあまり聴けていないのでgoatやKAKUHAN、そして日野浩志郎名義の作品)から受けていた印象とあまり結びつかず、勝手にそこにいるのは日野さんではないだろうと思っていたためこの確信を得るのにめちゃくちゃ時間がかかりました(とはいっても時計とか全く見ていないのでこの時点でどれくらい時間が経ったのかはよくわからない)。そして確信したその瞬間、日野さんってピアノ使うとこういう演奏するんだという驚きが沸き起こりました。
そこから更に幾度かの場面の移り変わりを経て、なんとなく魔がさしてスマホで時間確認したところ19:40頃だったので90分ちょっとくらいは演奏してることに。自分の感覚として絶対1時間以上はやっているけどそれを少し超えたくらいな気もするし2時間以上になっている気もする……といった感じでほどよく(?)時間感覚ぼやけてきてたので、一切確認せず最後まで聴いてもよかったなと今更ながら少し後悔。結果的には20:00を少し回ったところで音が止まり、おそらく30~40秒ほど無音が続いたところで拍手が起きて演奏終了。何の予告もなしに2時間ぶっ続けというなかなかタフなライブでしたが、その中で様相の異なる戸惑いが何度も訪れ、それに抗うかのように焦点を探って音を聴いていく時間が本当に面白かった。
演奏終了後には出演者と城さんによるトークがあり、この演奏が当日会場入りしたMarkやRianの意向で急遽決定し、設定などもそこから考え組み立てた場当たり的な発想によるものであったことなどが説明されました。中川さんは(ペダルなども多く用いながら)アコースティック楽器を演奏する方で普段のKAKUHANの演奏などでも即興の割合は相当高いでしょうから十分対応可能だったように思われますが、PCを用いていたMarkとRianについてはどうも当日組んだMaxパッチを用い、日野さんも普段の演奏で用いる機材ではなくピアノとオシレーターとノー・インプット・ミキシング・ボードを使用していて、かなり珍しい(というか間違いなくこの日しか聴けない)音が出ていたと思います。
トークでは(全然英語聴き取れないのでだいぶ推論入ってますが…)Markさんが演奏者間はもちろん観客も含めた「反応」や「即興」などの論点も交えながら、私が先に「場当たり的」と表現したようなその時その場所にある様々な要素(今回でいうなら様々な種類のスピーカー、MIDIを受け取れるピアノやオシレーター、アンビソニックマイクなど)を活かしていくことの面白さや重要性を語ったりもされていて、私もライブやる時は一応やりたいこと準備して行くものの当日会場入って面白いものやアプローチ見つけたら基本それを優先的に取り入れる人間なので(Tokinogake Nightでもそういうことやってめっちゃ楽しかった)、僭越ながらとても強く共感したりしました。
あと演奏について気になったこととして、このような演奏者が観客を取り囲んだり、その間に疎らに入ったりといった成り立ちのコレクティブ・インプロヴィゼーションでは、観客が自由に移動しながら聴くことが了承されていたり、むしろそれを促したりそれを前提としたりといったアプローチも多いと思うんですが(例えばマージナル・コンソートや、大友良英などが関わるアジアン・ミーティング・フェスで度々行われている円形になっての集団即興などはすぐに想起されますし、正にこの場所での「freq×HardcoreAmbience」で以前松浦知也さんが行われた演奏もそのような聴き方で接することを促されるとても興味深いものでした)、今回は入場時の「お喋り禁止」のアナウンスに観客側が配慮したのか、それとも主催や演奏者が促したものなのか、移動しながら聴こえ方や、更には演奏の全容と部分的な認識の変化を行き来しながら楽しむといったことができる雰囲気にはなっておらず、観客は個々にその場でひたすら聴き入る、どちらかというと場全体のよく言えば集中力が、悪くもとれる言い方をするなら緊張感が印象付けられるものでした。ただこの演奏では出演者4名の出す音は、部屋の4隅それぞれに複数の種類置いてあるスピーカーから基本的には対角線上に同じ音が出るような配置となっていたようなので、演奏者の出す音がその立ち位置にそのまま紐づいたタイプの演奏に比べると場所によっての聴こえ方の違いは程度として抑えられていると推測され、だとするとこの聴き方はベストだったという風にも考えられます。この辺り意識してたのかトークの質疑応答で聞こうか迷ったものの、時間がなく叶わず。
演奏の全容については書き起こすの無理があるのであれとして、私は目の前で中川さんがチェロという視覚的にそこから出ている音を受け取りやすい楽器を演奏されていたので、その音の操作が終始とても印象に残っています。通常の弓だけでなく、自作されたという毛が片方しか固定されていない(それ故張力や湾曲の度合いを自由に変えられる)粗い作りの弓なども使い、弦を抑えず触れただけの状態で踊るように指や掌を動かして、フラジオと掠れた雑音がランダムに入り混じるような音を出したり、またそれらをループ化やピッチシフト、歪やテープエコーなどと組み合わせて(足の指でエフェクターのツマミを要領よく操作して)いろんな音を作っていく様子が間近で観られたのは本当にラッキーでした。
「freq」は今後も継続的にアーティストを招聘してイベントを行っていくそうなので、同行気になる方はこちらをフォローしておくといいです。このイベント基本無料で面白いもの観れるので本当にありがたいです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?