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BEST OF 2021(21~30位)

2021年の年間ベストを書きました。30作選んで順位を付けたんですが、感想の文字数がとても多くなってしまい一つの記事にすると読みにくいので、3つに分けてアップしていきます。まずは21~30位です。ジャケ画像にbandcampのリンクついてます。サブスクのリンクは貼ってないんですが検索してもらえればほとんどあります。続きは明日か明後日にはアップします。ではどうぞ。



30. C. Diab『In Love & Fracture』

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カナダのバンクーバーを拠点に活動するマルチ楽器奏者/プロデューサーCATON HOWER DIABによるアンビエント・プロジェクトC. Diabによる作品。Lucy Railton、Clarice Jensen、Judith Hamann、Louise Bock、Oliver Coates、Ptrick Belaga、Hildur Guðnadóttir、Okkyung Lee...アンビエントやエクスペリメンタルに分類されるような作品を発表してるチェリストって今すごい逸材揃いで面白くて、今年初めて知ったC. Diabもその流れでフレッシュな存在!と思ったんですが、この人どうもチェロではなくホールを塞いでピックアップを取り付けたアコースティックギターを弓弾きしてるみたいですね。これ書くために調べるまで完全にチェロと思って聴いてました…だって聴いた感じかなりチェロじゃん……。でもまあ先に挙げたアーティスト好きな方なら聴いてみる価値あると思います。今作は和声的にはずっと明るめのトーンで、弓弾きで奏でられるサウンドも切れ目なくゆったり進むメロディーだけでなく拍節感のしっかりしたフレーズが結構あるので、いい感じに躍動感も感じられるチェンバーアンビエント?みたいな作品になっててとても聴きやすいです(ただエクスペリメンタル度は低めか)。1曲目の終盤の歪んだ音色でスラーで繋がった音程移動続く場面はシューゲイザーへの親和性感じるサウンドだなと思ってましたが、ギターなら尚更というか当然か…。


29. Wild Up『Julius Eastman, Vol.1: Femenine』

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ロサンゼルスの音楽家集団Wild Upが、近年再評価(というより初めての適切な評価といったほうがいいかもしれない)の進んでいる作曲家Julius Eastmanの「Femenine」を演奏したアルバム。「Femenine」はEastmanの作品でも特に有名なもので、2016年にFrozen Reedsより1974年に録音された音源がリリースされて以降は、現行の演奏家によるバージョンが続々リリースされています。その中でも個人的に印象深かったのが、ベースの引力によって楽曲のダンスミュージック的性質が引き出されたensemble 0 & Aum Grand Ensembleによる演奏(Sub Rosaよりリリース)だったのですが、本作はそれとはまた全然違ったアプローチでこの楽曲を捉えていて刺激的でした。「Femenine」は70分ほどに及ぶミニマルかつ長大な楽曲なのですが、本作では(演奏自体は連続しているものの)それが10のパートにトラック分けされていて、パートごとに演奏傾向の変化や新しい要素の追加などが起こり(それを示す副題も付いています)、演奏の変化や進行を視覚的に確認しながら聴くことができる設計となっています。即興あるいはアレンジの介入できる余地がかなり広いと思われる「Femenine」に対し、Wild Upのアレンジはこれまで聴いたものの中では思い切ってドラマチックかつエモーショナルなものなんですが、この設計によって感情的な奔流に飲み込まれることなく俯瞰して受け止めることもできるようになっていて、そのバランスが個人的にはとても好印象でした。


28. Scotch Rolex『Tewati』

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ヨーロッパをメインにDJ Scotch Egg名義で活動する日本人プロデューサーShigeru Ishiharaが、新たな名義Scotch Rolexとして発表した一作。A4コピー用紙さんの年間ベストで興味持って聴いたらハマりました。この方の名前は初めて知ったのですが、過去にはSeefeelの2011年の作品に参加していたり(というかメンバーということみたい)、Kiki Hitomi(元King Midas Sound)とのユニットWaqWaq Kingdomとしても活動していたりとなかなかヤバい人…。2019年にNyege Nyege Villaでのレジデンスのためにウガンダに招待された後に組み立てられたものとのことで、Nyege Nyege TapesのサブレーベルHakuna Kulalaからリリースされており、DumaのLord SpikeheartやMC Yallahも参加と、Nyege Nyege周辺の雰囲気を生々しく取り入れた仕上がり。どの曲も荒んだトーンで、でも身軽に展開していくビートがかっこよくて、特にLord Spikeheart参加の曲に完全にやられた…Dumaの曲より好きだ…。


27. Thomas Strønen, Ayumi Tanaka, Marthe Lea『Bayou』

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ノルウェーの打楽器奏者Thomas Strønenと、ピアニストの田中鮎美、そしてクラリネット、ヴォーカル、パーカッションなどを操るマルチ奏者のMarthe Leaによるアルバム。2021年のECMはJakob Bro, Arve Henriksen, Jorge Rossy『Uma Elmo』、Vijay Iyer, Linda Oh, Tyshawn Sorey『Uneasy』、Andrew Cyrille Quartet『The News』、Ayumi Tanaka Trio『Subaqueous Silence』など何気に傑作が多かったんですが、個人的にはこれが頭一つ抜けてました。Thomas StrønenはTime Is A Blind Guide名義で2018年に出した『Lucas』が素晴らしかったんですが、弦楽三重奏+ピアノ+打楽器なそちらと比べると本作はかなり空間の空いたサウンド構成で、凄みは減じたもののStrønenの特徴的な打楽器演奏、特に通常のドラムセットに組み込まれたものとは別にクラシックで用いるような大きなバスドラムを使ってじんわり広がり伸びていくような低音操る感じとかが認識しやすく、サブウーファーがしっかり働くようなちょっとECMのイメージにはない感じのサウンドデザインでありながらしかしECMらしい静謐さを存分に感じさせるところがすごく気に入りました。幼少期から民謡に親しんだというMarthe Leaのボーカルもそれ自体非常に存在感のあるものでありながらピアノや打楽器をその背後に従属させてしまうような引力は持たず、いい意味でワンオブゼム的に響いてくるのが興味深い。


26. Oren Ambarchi『Live Hubris』

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オーストラリア出身、灰野敬二とジム・オルークとのトリオでの活動や、Editions Megoからのリリースなどでご存知の方も多いかと思いますが、一言で表そうとするとどうにも形容の難しい音楽家Oren Ambarchiによる作品。本作は彼が2016年に発表したアルバム『Hubris』の再現ライブの録音盤。オリジナルの『Hubris』も大好きな作品だったのですが(というか彼の2010年代の作品はマジで傑作が多い)、本作はそれとのメンバーの違いなどが私の好みには完全に吉と出ていて、もう単純に「Part 3」にサックスが入ってるのがヤバい。オリジナルではギターが受け持っていたアドレナリン(もしくはエモーション)喚起的な役割をMats Gustafssonが一人で全く不足なく演じ切っています。こんなん反則……。Mats Gustafssonのブローイングがぶっとく炸裂してるってとこではFire! with Oren Ambarchiの大傑作『In the Mouth - A Hand』と兄弟作的に聴こえる感じもあるりますね(メンバー全員『Live Hubris』にも参加してるし)。


25. Ulla『Limitless Frame』

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West Mineral Ltd.やExperiences Ltd.などから作品をリリースし、現行の「ミニマル・ダブとアンビエントの新たな蜜月」といえる流れを代表するような作家であるUllaことUlla Strausによる新作。本作ではこれまでの作品に比べギターや鍵盤、そしてサックスといった楽器の音を積極的に用いており、それらを靄がかかったようなダビーな空間系エフェクトや電子音と織り交ぜ、彼女にとっての新境地であり、同時にダブ/アンビエントにとっての新たな一手と取ることもできるフレッシュな一作になっています(2021年はこれ以外にもダブ/アンビエントの流れで新たな展開を予感させる作品がありました)。本作について感じることはより上位に出てくるYosuke Tokunaga『9 Mezzotints』とかなり近くて、似たようなこと書くのも面倒なので気になる場合はそちらを読んでほしいんですが、こちら特有のものというところでは8曲目のサックスの響きがわかりやすくリラクシンな演奏でないにも関わらず不思議とアンビエントな雰囲気を阻害せず素晴らしかったです。


24. Joy Orbison『still slipping vol.1』

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Joy OrbisonってJames Blakeが1stアルバム出す前、2009か2010年辺りにUKクラブミュージックの新鋭みたいに並べて紹介されてたの見た記憶があるんですが、なんとアルバムとしてはこれが初めてになるんですね(まあこれもミックステープってことらしいんで「アルバム」ってのとはまた意識違うかもしれませんが)。こういった音楽を語る語彙を全然持ってないのであれなんですが、2曲目のベース入ってきたとこでひゃ~かっこいいとなって後は流れで全部聴かされちゃう感じ。7曲目辺りも好き。UKのガラージっぽい音って以前から好きではあったんですが、流れのあるミックスとしていい感じに接することができる音源は上手く見つけられずにいたのでこういうのほんとありがたい(ミックスされてないアルバムとしてはこれとかよく聴きました)。


23. Sam Gendel & Sam Wilkes『Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs』

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2021年異常なペースでリリースを続けたSam Gendelですが、関連作では私はこれが一番好きでした。理由はジャズ的なアドリブの「スリリングさ」みたいなものが摂取しやすいからかなあ(?)それをSam Gendelに求めんでも…という気もしますが。でもそういうの自分やっぱ好きなんだな~と思わされました。そのスリリングさ込みで、掴むとこと緩めるとこの塩梅が一番しっくりきた作品です。


22. tau contrib『encode』

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Ullaのとこでも言及した、現行の「ミニマル・ダブとアンビエントの新たな蜜月」といえる流れにおいてエッジーな尖端となっている英マンチェスターのレーベルsfericから出たtau contribによる作品。この人拠点やキャリアなどあまりよくわかってないんですが、本作の前にOtiloって名義でアルバム『6402』を2019年にリリースしてて、そこから名義変わって初のアルバムってことみたいです。2021年のsfericのリリースでは本作とTIBSLC『Delusive Tongue Shifts - Situation Based Compositions』が特に気に入ってて、上半期ベストではそっちを入れたんですが、最近聴き直したら若干こっちに気が傾いたんで今度はこっち入れます(まあどっちも同じくらい好きです)。先述した流れにあるサウンドってよくディープとかって形容される印象で、自分も深海や靄みたいな、底もしくは先が見えないイメージ(≒ディープ?)を浮かべること多いんですが、本作はそれらとサウンドは確実に近似性がありながらもめちゃくちゃ透き通った浅瀬でその底ではなく水自体の動き戯れを見つめるみたいな、掴み切れない全体性ではなく細部に無限に没入していくような類のディープさがある気がします(多分ジャケの感じにめちゃくちゃ引っ張られてる!つまりジャケット大事!)。アルバムの中で自分の好みは液状化が進んでクラブミュージックとしての概形が遠のきまくってるトラックに傾いてるんですが、例えば5曲目のわりかしゴリっとしたリズムの断片が液体に紛れて流れ込んでくる感じとかは、なんなら溶けたIDMみたいに聴くこともできそうですし、ここ1、2年で目立ってきた感のあるIDM再興の流れと「ミニマル・ダブとアンビエントの新たな蜜月」の流れの交差点を想像させたり。


21. Felicia Atkinson & Jefre Cantu-Ledesma『Un hiver en plein été』

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これは出たのが12月ってこともあってまだ考えをまとめたりしたくないので何も書きません。ただめっちゃいいです。気が向いたら個別で何か書くかも。



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