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新説 測量船「村」

テーマ「三好達治『測量船』「村」の本文のイメージを用いて、自由に創作、リメイクする。」
(1200字程度)
【本文】「村」
鹿は麻縄をしばられて、暗い物置小屋に入れられてゐた。
何も見えないところで、その青い眼はすみ、きちんと風雅に座ってゐた。
芋が一つころがつてゐた。
そとでは桜の花が散り、山の方から、ひとすぢそれを自転車がしいていつた。
脊中を見せて、少女は薮を眺めてゐた。
羽織の肩に、黒いリボンをとめて。


試合中断から約十数分。リザーバーとして急遽トーナメントに乱入してきた鹿は、己の背丈の三倍以上は遥かに超える相手の攻撃を物ともせず一撃でノックアウトした。恐るべき野生のパワーである。

しかし、闘いを制した筈の鹿の勢いは止まる事を知らず、その刃物の様な角は相手の首をスパリと斬り落とした。

「きゃあああああああ!」

騒然とする観客達。これまで、この小さな村で密やかに行われていた『村最強生物決定戦』だったが、死者が出たケースは今回が初となる。『武器の使用以外ルールなし』、といったルールはあったものの、野生の世界にはそのルールすら存在しなかったのだ。

その後、更に暴れ続ける勝者をトーナメント参加者が十人がかりで抑え込むことで、なんとかひと段落ついた。鹿は麻縄をしばられ、そのまま会場を後にした。
そんな彼の『強さ』に観客達は雄叫びを上げ、会場全体のバイブスは最高潮にまで達していった。

鹿は次の試合までの間、戦艦と同じ強度を誇る檻の中へ入れられることになった。だがこれも彼からすればなんて事ない、木製の物置小屋ほどの薄さなのだろう。
しかし、驚くことに暴れる様子は一切なく、その青い眼はすみ、きちんと風雅に座っていた。『強者』としての余裕を見せつけたのである。

彼が姿を消した場には、首だけが一つ、芋のようにゴロリと転がっていた。

集落のそとでは桜の花が散り、山の方から、ひとすじそれをバイクが敷いていった。いや、それだけではない。政府のロゴマークがデザインされた大型バイクが百台、大型車が五十台、ヘリコプター二十台、更に戦車までもが数台、同じ経路を辿って一つの方角を目指していた。

彼らの目的はただ一つ。この国で自分達より『強い』存在がいると、風の噂で耳にしたのである。この国で最も強い存在は政府であり、少しでも力や支持される者が現れようとした途端、そこに向かっては対象者を減らしているのである。

「ここが対象者のいる村か」

政府のリーダーに値する男は村を手当たり次第見回すと、村に火を放つように指示を下した。次第に炎は村全体に広がった。

「村の連中は『奴』の支持者かも知れん、若い女以外は全部殺せ」

政府の部下達は支給された銃火器を手に持ち、それを逃げ惑う住民達にむけて放った。炎に包まれた集落の中からは呻き声が聞こえていたが、次第にその声も聞こえなくなった。

ーーーーーーー

政府の大型車に乗せられた村の少女は窓から外を眺めていた。背中の方で部下達の笑い声が聞こえる。今となっては形見となってしまった羽織の黒いリボンを強く握りしめた。

その時。

「うわっ!なんだ!うわああああああああああああああ!」

車が大きく揺れ横転した。少女の前の傾いた窓から、藪のほうに青い何かが二つ、微かに揺れているのが見えた。

「おい!『奴』だ!ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

青い何かは光速で動きながら政府のリーダーの方に向かってきた。やがて藪から姿を現すと、瞬時に刃物のような角で相手の首をスパリと斬り落とした。

『鹿』の眼が青から赤に変わった。

(1246字)

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