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ポヨポヨアザラシ・フライング・オーバー・スカイ

テーマ「結末が『ふんわりと白い雲がひとひら、悠々と流れていく』の一節で終わる話」
(1400字程度)

現在世間で注目されている人気アイテム「ポヨポヨアザラシくん」。柔らかい材質で製造されており、一定の高さから落下させるとゴム毬のようにポヨポヨと弾む。このポヨポヨアザラシくん(以下、ポザラシくん)特有のゆるい空気感はストレスを抱える現代の人々の心に突き刺ささった。

ポザラシくんは若者達のトレンドとなり、街に出ればこれを抱えて持ち歩く十代の少年少女で溢れていた。

「ウチのポザラシくん、みてみ? あたまんところリボンつけてデコってんの」
「あーしのポザラシくんの動画ママに見せたらめっちゃ爆笑してたわ」

また、ポザラシくんは一人暮らしの高齢者達にもヒットした。

「子供達が家を離れ寂しかった我が家ですが、このポザラシくんが来てからは毎日の生活が楽しくなり、ペット同様に可愛がっています」

このように、日本のポザラシくんのブームは根強く続いた。だが、それと同時に大きな問題も生まれた。「偽ポヨポヨアザラシくん問題」である。

一見、ポザラシくんそっくりの偽ポヨポヨアザラシくん(以下、偽ポザラシくん)だが、よく見ると目つきが少し悪く作られている。そして何より通常のポザラシくんより弾んだ時の反動が尋常じゃないほど強くて大きいのである。これを全力で地面に打ち付けた時の速度は180km/hを軽く越える。いくらポヨポヨしているからといってもこの速度はあまりにも危険すぎる。街で偽ポザラシくんを解き放ってしまえば超絶スピードで飛んでくる偽ポザラシくんが通行人の身体を吹き飛ばしてしまうだろう。

実際に、「誤って偽ポザラシくんを拾ってしまった不幸な家族四人が部屋で全身を打撲した状態で死体となって見つかった」といった事件がニュースで報道された。更に、「都内の小学校で捕らえられた不審者のリュックには二体の偽ポザラシくんが入っていた」、との報道もあった。

そして最悪なことに、裏社会ではこの街で道歩いても疑われるリスクの低い最強の凶器として偽ポザラシくんの高額な売買が行われていた。

日本は今、とてつも無いほど危険に晒されているのである。

こういった「偽ポザラシくん犯罪」によって愛する家族を失ってしまった元刑事の男は部屋で怒りに震えていた。偽ポザラシくんさえいなければ。
男は失った家族の写真を胸ポケットにしまうとこの無念を晴らすべく、一人で裏社会へと足を踏み入れた。

「自分のことはどうでもいい。とにかくこの偽ポザラシくんで家族を殺した奴が憎い」

彼はこの復讐に一日でも早く終止符を打つために己の身を削りながら元凶である輩を探し続けた。そして一年後。

「お前か。偽ポザラシくんを高値で売り捌いていたのは」

彼は遂に犯人を見つけ出した。男は全身をブランド物で揃えており、こんな服を買う為だけに多くの命が奪われたのかと考えただけで反吐が出た。男は必死で命乞いをしていたが彼は一切耳を貸さなかった。

「お前を殺す方法はこの復讐を決意した時から既に決まっている」

彼は必死で頭を下げ続ける男の持っていた偽ポザラシくんを拾い上げるとそれを大きく振りかぶって相手の方向へ叩きつけた。全力を込めた偽ポザラシくんのスピードはもはや目で追えない。彼の一撃は男の胸の骨を砕き、そしてそのまま窓を突き破った。男を乗せた偽ポザラシくんはやがて月夜の空に消えていった。

ふんわりと白い雲がひとひら、悠々と流れていく。

(1370字)


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