怪物。

是枝監督の最新作『怪物』を観に行ってきました。
ネタバレ全開で語っていく予定なので、今後見る予定の人は全力でブラウザを閉じてください。









さて、『怪物』何かと話題になっているのでその名を耳にしている方も多いと思いますが(というかここまで読んでくれている人は見た人であって欲しい)監督は『万引き家族』や『誰も知らない』『そして父になる』などで有名な是枝裕和監督、そして脚本は『最高の離婚』『それでも、生きてゆく』『カルテット』などで名を馳せた坂元裕二さん、そして劇伴は故・坂本龍一(遺作かな)というとんでもない布陣で世に放たれた映画です。

是枝監督の作風として、日常の裏側、人間の深層に迫るストーリーがどれも印象的ですが、今作に関しても類を見ないほど全開でした。そこに坂元さんのちょっと複雑な脚本が見事に融合していて、更に劇伴がベースの部分、映画への没入感を支えており、えも言われぬ作品に仕上がっていました。

物語は小学5年生の湊とその母・早織を中心に物語が展開していきます。ちょっと様子のおかしい息子に話を聞こうとするも、なんとなくはぐらかされ、ちょっとずつ日常が崩れていく。

一言で言うなら「時事問題詰め込み欲張りセット」な映画です。こんな言い方するとちょっとチープかもしれないけど映画への落とし込み方がまあすごい。
俺が観測しただけでも

・シングルマザー
・イジメ
・イジメに対する教師・学校の対応
・同性愛
・老人の車の運転、そしてその運転によって引き起こされた事故
・ネグレクト
・虐待
・虐待家庭に介入できない学校
・不倫
・放火

たぶん他にもあります。こう言う視点は?等あったらコメントで教えてください。

印象に残ったシーンを挙げていきます。

まず、より(湊の友達の男の子、キーとなる人物)の服装と靴。これは典型的なネグレクト・虐待の象徴で、新しいものが買ってもらえないからしょうがなく靴はかかとを潰し、服もボロボロ。5年生なのにどこか子どもっぽい服ばかり。親としては痛々しくて見ていられなかった。

前半、母親の早織視点で物語が進むんだけど、まあとにかく学校側の対応が酷いように見える。おそらく視聴者の大半はそう思うと思う。それもそのはず、それはあくまで「早織視点」であり、一元的なものなのだ。彼女の思い込みなども細部まで反映した描写に(どもってはっきり喋らない先生、実際はそんなことない)なっており非常に巧妙に描かれている。「早織視点」では、「湊はイジメを受けている、あろうことか教師もグルになっている、その上学校側は何も対応しないどころか隠蔽しようとしている。ありえない。ふざけるな。」と言ったところ。しかしながら事実はそうではないと言うことがだんだん明らかになっていく。

湊の担任の堀先生はただのいい先生、新米教師。ただ彼もまた、些細な思い込みなどからミスリードを生み、不幸な人生を歩むこととなる。

湊はイジメられてなんかいなくて、イジメられているのは友達のより。イジメに加担したくないけど、よりと仲良くしちゃうと自分も標的になる、クラスにさらなる歪みが生まれるから、よりに対して「学校で話しかけるな」と言う。これが小学生のリアルだよ…同じような経験がある。ちなみに俺はイジメられたこともある。

湊はよりに対しての気持ちが友達以上のものであることに気づく。5年生、まだ恋愛のいろはすら何もわかっていないのにこれは相当きついんじゃないだろうか。でも、これも似たような経験、あると思うんだよなあ。

よりもその気持ちに応えようとするけど、湊はそれがなんとなく普通のことではないとわかってしまうので拒絶し、怒り、どうしようもない気持ちをぶつける。母親に、生まれ変わったらどうなる?とか意味深な質問をするようになり(おそらく、普通に女の子を好きになれるようになりたかったんだろう)母親は怪訝な表情をする。

湊のお父さんは亡くなっていて(不倫相手とのドライブ中での事故死、こんな重い情報がさらっと出てくるところが是枝イズム…)バースデーケーキをお供えするシーンがあるんだけど、そこで母親の早織が湊に「お父さんに近況報告して」って言われて口ごもっちゃうシーン。ちょうどその同性愛のことで葛藤している途中なのに、言えるわけないよなあ。ましてお母さんの前で…
湊が「僕はお父さんみたいになれないよ」ってしきりに言うシーンは、最初はラガーマンだったお父さんみたいにたくましく、って意味だと思っちゃうんだけど、お父さんみたいに「女の人を好きになる」ことなんだよね。

秘密基地で一緒に遊んでいる湊とよりは本当に楽しそうで、めちゃくちゃノスタルジックな気持ちになると同時にどこかそれが刹那的なものであることを感じずにはいられなかった。

台風が上陸して、危険な状態であるにも関わらず、よりへの気持ちに気付きさらにそれを受容した湊は家を飛び出し、嵐の中秘密基地に向かう。よりはその日も虐待を受けていてとても痛々しい(よく生きてたなって感じだけど…)


そしてラストのシーン。嵐が明けて、秘密基地から出た2人は眩い光の中外に出て走り出すシーンで終わる。

このシーン、涙無しには見られなかった。2人が来た時にはあった大きな立ち入り禁止の柵が何故か無くなっているのと、ビショビショで泥だらけだったはずの2人の服がめちゃくちゃきれいになってて、髪も乾いててサラサラで…2人が死んだことの暗示に他ならない。


『怪物』と言うタイトル。これは誰しもが持っている怪物性、と言う意味合いでのタイトルと解釈している。何か一元的なステレオタイピングをしてしまった時、その人は怪物となる。怪物とは誰だったのか?そんなものは何の本質も捉えていないのだ。

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