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公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か(日本版)

振り返りまとめを書きました。まずそちらをご覧ください

ピーター・ターチン「公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か」(2020年3月23日)で紹介されている手法をベースに日本のコロナ対策を評価します。

注意書き:使用している手法はごく単純なもので結果をすぐに真に受けるべきではありません。使っている理論やツールに関して私は初心者なので、間違いの指摘等はコメント欄等で歓迎します。またこれはあくまで個人的な活動です。所属機関とは関係ありません。

更新:2020年4月18日に更新しました

SIRDモデル

まず背景にある数学的モデルを説明します。理論的な話に興味のない方は飛ばしてください。

ベースになっているのはよく知られているSIRモデル(susceptible, infected and recovered model)です。これはこのように考えます。S[t]を時点tで未感染の人の数、I[t]を今感染している人の数(アクティブ)、R[t]を回復した人、D[t]を死亡した人の数とします。感染している人は各時点である確率βで未感染の人に病気をうつします。今感染している人はある確率aで回復し、確率dで死亡します。一旦回復すると免疫がついてもう病気にはかからなくなります。これを式にまとめてみましょう。

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新型コロナウイルス の感染症で難しいのは、かなりの割合の人に症状がない、ということです。また、検査能力も限られているため、完全に感染者数を把握しているとは考えられません。また、感染を封じ込める一定の政策が取られるはずです。

そこで検出率qを導入します。知られている感染者I0[t]は

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とかけます。また、検出した感染者のうちで回復する人はa I0[t]と書け、亡くなる人の人数はd I0[t]と書けます。

また、βやqは時間と共に変化すると考えます。変化はsigmoid曲線に従うと仮定しいます。つまり、

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ターチンは最小二乗法を使ってパラメーター推定をしていますが、私はベイズ推定を使いパラメーターの誤差の範囲を求めています。

モデル選択

パラメーターを推定するだけでなく、そもそもモデルが正しいかどうか検証する必要があります。ここでは1) 一定の割合で指数関数的な増加をするモデル、2)  βやqが変化するがqは最初0と仮定するモデル、3) q0に仮定を置かないモデル 4) β, qが2つのsigmoid曲線の重ね合わせになっている場合(つまり2回おおきな変化をするモデルの4つを考え、統計的に妥当性を検証しました。

モデリングに用いているStanは推定が収束したかどうかを判断する自己診断データ(Rhat, n_eff)を出力します。モデル2)や4)では推定自体が収束しませんでした。1), 3)についてWAICという尺度を用いて評価を行います。

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start-q0が3)、expが1)に対応します。WAICは小さいほど良いのでstart-q0が最も良いモデルであることがわかります。LOO-CVという尺度でも同じ結果が出ます。ただしどちらの計算でもモデルがロバストでないので値は信用できない、という警告が出ます。真の感染者数がわからないので、検出率がsigmoid曲線に従うという仮定からデータのわずかな変化を捉えて検出率は推定されています。したがって、あまり信用できるものではないでしょう。

日本のコロナ対策の効果

このモデルを使って、βやqの推移を見てみましょう。どの程度日本の対策が有効であるかを見ることができます。まず、モデルを使って現在の感染者数(回復者を除く)を予測させてみます。青線は実際のデータです。

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比較的一致していることがわかります。モデルを使って推定した増加率βと検出率qの推移です。増加率

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検出率

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増加率は最初の大変大きな値から2月始めに急減していることがわかります。感染症対策が取られるようになったことを示しているのかもしれません。しかし増加率はその後も1日1割を超えており、感染爆発を防ぐには不十分です。

また検出率の変化を見ると3月中頃から急減しています。クラスター対策が限界に来たことを示しているのかもしれません。

まとめ

このモデルは非常に単純化したモデルであることは間違いなく、結果はよく検討すべきです。ただ個人的には感染爆発を抑えたいならば、一般企業の閉鎖や未発症者への大規模な検査というようなより強力な政策が必要だと思っています。

モデルと計算結果は全て公開しています。

データはジョーンズ・ホプキンス大学のものを使用しました。またTokyo.Rの皆様、Twitterの皆様に様々なご教示をいただきました。


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