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初期デザイン方法 アシモウからアーチャーへ

この記録は『デザイン方法論の試み』吉田武夫(1996)の読書記録です。
デザイン・プロセスとは、「情報の変形過程もしくは変換過程」を意味するとし、近代的なデザイニングを情報の観点から整理することにより、デザイン思考につながる初期のデザイン方法論についてわかりやすく紹介されている書籍です。

クラフトから工学デザインへ(アシモウ)
手工芸から製図版上のデザインへ(ジョーンズ)
無自覚なプロセスから自覚されたプロセスへ(アレグザンダー)
彫刻的なものづくりから工学的なものづくりへ(アーチャー)
の変遷において様々な問題が発生することになる。それらの諸問題を解決する一つの方途として、デザイン方法が出現したと考えることができる。

『デザイン方法論の試み』P103

デザイニングの手順

ジョーンズのデザイン戦略 6つのパターン

①線形(戦略)あらかじめ準備された手順どおりにデザイニングが進められる。
②サイクル状(戦略)のちの段階の結果が出てから前の段階で再度デザイニングが繰り返される。
③枝分かれ戦略 並列的段階あるいは前の段階で得た結果によって、次の戦略を適応させることをある程度可能にする、選択的段階などを含む。
④適応的戦略 出発点で初めのデザイニングのみが決められている。それいこうの手順は、前の結果によって変えうる。
⑤漸進的戦略 適応的戦略を過事実にではあるがやや控えめに修正したもの。従来のデザイニング、特に手工芸にもどづく工業および自動的最適化の多くの手順の基礎ともなっている。
⑥無作為探索 完全に非計画的な手順は、探索をなるべく公平にするために他の探索の結果を故意に無視してそれぞれのステップを選ぶ。この原理はブレーンステーミングの手順の基礎になっている。

『デザイン方法論の試み』P118

モデルとモデリング

モデルづくりとモデルの活用

近代的なモノづくりにおいては、すべてモデル作りとモデル活用(両者の意味を合わせ持つ言葉として「モデリング」が使われる)がデザイニングの中核を成しているという点で共通しているといえよう。

『デザイン方法論の試み』P126

modelの語源であるラテン語のmodusは、今日のmeasureすなわち比較のための基準を意味するのだそう。我々が心の中に思い描いた意図をモデルに表すことは、そうでないものと比較することも可能になると想像を拡張すると納得のいく語源だと感じます。
デザイニングのためのモデルの解釈として以下のように解説されています。すなわち、そのモデルを見て行動できるものこそがデザイニングにおけるモデルと言い得る。例えば、料理本や楽譜など。また重要なポイントとして、デザインにおけるモデルは「操作を加えることができる」ことが大切だと解説しており、「こうである」を表すとともに「こうあるべきだ、あるいは、こうありたい」をも表現し、行動に結びつく必要があるからだそう。
デザインの中核を成す「モデリング」。モデルをつくる、あるいは用いることがデザインの中心課題であるとしている。

デザイニングのためのモデル
アーチャーは、デザインを「ものがこうあって欲しいという在り方の指示モデルである」と定義し、「モデルに対した時、我々は物を、指示したモデルのようにするための行動を起こすことができるかできないかがわかるだろう。できるなら、そのモデルはデザインである。」として、料理本、楽譜、織図、コンピュータ・プログラムを例として挙げている。種々のモデルのうち、行動に結びつくものがデザインであるとアーチャーは主張している。
(中略)デザインのモデルはそれに操作をくわえることができなければならない。すなわち「指示モデルまたは処方モデル」こそが、アーチャーの言うようにデザイニングのためのモデルであるといえよう。

『デザイン方法論の試み』P129

外的モデルと内的モデル

デザイナーがモデルを作る際には、頭の中にあるパターン(内的モデル)を立体・平面モデル等「実体」に起こすことにより操作でき、変更を加えられるモデルとしています。内的モデルは、脳の内部における物事に関する「図式(スキーマまたはシェマ)」のようなもので、一般的にはスケッチに代表されるような外的モデルとして表します。
デザイナーは本質を把握するため物事を明確にするため、操作するため、それを使って実験するために、既に複雑な形で存在しているものを、より単純に安価に安全な形に表現することを望みます。
モデルと実体(現実事象)の関係づけは人間によって行われるのですが、この能力のことを問題解決思考と呼ばれます。類推的思考、論理的思考、因果的思考が含まれており、中でも類推的思考はある問題を解くのに、それとよく似た別の問題を考える方法です。イメージ形成のメカニズムに直結した最も基礎的な思考方法で、類推的思考により異なる二つの事物に関する類似性に気づくためには、直観の働きが重要なのだと解説されています。
つまり、デザイニングにおいては具体的なレベルにおいて活用するモデルとしては、論理的であるよりもむしろ、直観が働きやすい物、言い換えれば内的モデルが働く余地のある表現のモデルが、人間にとって直観的な把握が可能で、類推が働きやすいと言う意味において適していると述べられていました。

内部モデル 頭の中にあるパターン。
外部モデル 存在する、あるいは存在すると考えられる、あるいはまた発生した物または事象を代理あるいは表現する物である。外部モデルは立体・平面モデル、言語、コンピュータ・プログラム、記号など、情報を保持あるいは生成する何らかの「実体」からできている。

『デザイン方法論の試み』P129

デザイン・プロセスとモデリング

造形要素による分類
●様々な描法(アイディアスケッチ、エスキース、ラフスケッチなど)
●図面類(外形図、分解図、透視図など)
●模型類(ラフな模型、縮尺模型、原型模型(モックアップ)、可動模型(ワーキングモデルまたはプロトタイプ)など)

形式的分類
●二次元(平面)
●三次元(立体)
●四次元(動きを伴うもの)

目的別な分類
●study model 内的モデルの外在化、操作、試行、確認などのための検討モデル
●presentation model デザイニングの結果を第三者に説明するための伝達モデル

※デザイン・プロセスにおいては検討モデルが活用される。主として外観(appearance)、主体的、心理的(image)に関係する。

デザインの一般問題における課題意識
一般問題に対しては与えられた状況の中で問題を自覚的に定立し、公式がすることころから始めなければならない。回答は当初イメージできないのが普通である。課題を発見し、その構造を明らかにするとともに、解決を導くための過程を計画し、過程において解決すべき問題を解くための技法を特定または案出することが求めら得る。
(中略)状況から仮題へ、さらに課題へと進むプロセスは「企画」と言った方が適切かもしれない。目下のところ、このようなプロセスを専門とする分野は確立されていないといえよう。

『デザイン方法論の試み』P138


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