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そういうことになりました

塀から生えてた女の子

まだ銀杏も紅葉していない暖かい秋のある日、いつものように娘を塾に送って行く時に、小区の門の脇にある店の塀(トタン板をつなげただけのもの、多分違法)から猫の鳴き声が聞こえた。
かなり熟練の「猫おばさん」になってきたと自負している私は、反射的に「あらあらだあれ?」と声に出してあたりを見渡した。この辺りにも馴染みの外猫が何匹かいるので、お見送りをしてくれたのかと思ったからだ。
しかしそれにしては声がデカくて幼い。
今はすっかりご隠居様の雰囲気の黒チッチがまだ街の超人気女子だった頃に「こんなん出ました〜」と見せに来てくれた子猫たちくらいの声色。

諦めない猫おばさんこと私は「赤ちゃんかなあ?ママを呼んでるの?」と呼びかけると、どうやら上の方から声がする。
もしや木登りして降りられない系か?!と頭上を探すと、

高さ2mほどのトタンの隙間に1匹の赤ちゃん猫が挟まっていた。

力の限り叫んでいるのに母猫の姿はない。
困っていそうだから助けてあげたいが、高すぎて届かない。オロオロしていたら、娘にとりあえず塾に遅れそうだと言われて一旦その場を離れた。送って戻ってくるともう姿が見えなかったので、なんとか抜け出したんだなと安心して帰宅した。

再び会うと書いて再会

再会の日は結構早くやってきた。
急に気温が下がってきたある日の夜、夫といつものように夜の巡回餌やりに回っていると、また聞き覚えのある声がする。今度は私の住む棟の入り口付近。
熟練した(以下略)私は、大きな業務用の室外機の中と睨んだ。街の超人気女子だった頃の黒チッチが赤ちゃんたちを収納していた場所。案外広くて生後1、2ヶ月の子猫が4匹収納できるのは実証済みだ。雨風も凌げるし良し悪しは別として排水ダクトが横にあるので飲み水も確保できる上、敵の侵入を防げる好物件。ここを見つけるとはできる子である。

夜なので真っ暗な室外機の中をスマホのライトで照らしてみると、先日塀から生えてた子の模様が見えた。1匹だけだった。
大きな声で鳴くものの出てくる気配はないが、柔らかいフードをちょっと入れてあげるとすごい勢いで食べるのでしばらくスプーンで掬って中に入れる。熟練してるので外猫専用ご飯バッグ(LLビーン)には使い捨てスプーンと幼猫用フードも常備されている。猫の出産は通年だからだ。

キジトラのその子は元気そうだけれどやっぱりまだ小さかった。うちの小区の子猫達は母猫がしっかり面倒を見ることが多いのだが、2、3ヶ月になるまで隠されていて滅多に出てこない。
母猫の母乳だけでは足りなくなり、疲労困憊の母猫がこいつらにご飯あげといてもらえます?とお披露目し始めるまで、取られないようにしっかり守られている。
我が家で落ち着かなすぎ猫と呼ばれるクロリンという真っ黒の雄猫がいるが、この子は半分ちゃんという超超気の強い女子と夫婦になって以来ずっと落ち着かないながらもせっせと子供達の面倒を見ている。難点は子供達の周りをうろつきすぎて常に自分のごはんを子供と妻に横取りされてしまうところだ。それでも怒りもせず困ったように私に訴えるだけで哀れを誘う。何が言いたいかというと、猫はとても愛情深くてきちんと子育てをするということだ。しかしそうじゃないこともある。
初めてのお産だと、母猫本人もなんだかわからず動く💩が出てきたとばかりに怖がって逃亡することもある。そういう子も結構見てきた。だからこのキジトラちゃんも、母猫に置いて行かれた子じゃないかと思った。

「こんなに小さいのにひとりぼっちだなんて」と私が言うと間伐入れずに夫は「うちはもう無理、もう2匹いるんだから」と言った。別に連れて帰りたいとか言ってないんだからこういう時は「そうだね、かわいそうに」とか言ってくれたらいいんだよもう!とぷりぷりしながら帰宅した。
まあ全くもって夫の予想通りだったんだけれども。

三度会ったら運命

さて数日見かけないと思ってたキジシロちゃん、今度はうちの棟の逆サイドの植え込みの中にいた。
ここも子猫にグッドな場所で、手頃な穴があってその昔黒チッチが(以下略)なんだけども、最近ここにちょっとオシャレなベーグル屋ができて全く関係なかったはずのその穴を改装工事中に埋めてしまった。なのでキジトラちゃんは植え込みの中でプルプルしていた。
相変わらず一人で、周りに馴染みの猫が数匹いるのにみんなキジシロちゃんを威嚇して近づけないようにしていた。今思えば怪我と病気ののせいで、うつらないように外猫達は抵抗していただけだと思う。
ご飯もあまり食べず、ジリジリと少しだけ後退りするだけで前よりも元気がなくなっていた。
「かわいそうに。こんなに寒くなったのに一人だなんて」私が言うと、夫が「捕まえられたら連れて帰っていいよ」と言った。

実際このくらいの子猫のすばしこさと言ったらものすごくて、10倍速くらいで動き回って止まることはない。だから夫もどうせ捕まるわけがないと思っていたらしい。

けれども私が手を伸ばすと、逃げるどころか彼女は頭を伸ばして頭突きしてきて私の手の中に収まった。片手で簡単に掴める小ささ、タオルくらい軽い感じ。
捕まえられた自分も超びっくりしたけれど、言い出しっぺの夫が「は?え?」と挙動不審になっていた。
とりあえず家に連れて帰ることになったが、まだご飯パトロールが終わってないのでひとまず玄関前に簡易ケージを出して入れておくことにした。黒猫を引き取った時に使った子猫用のものである。感染症などの心配があるから、うちの子達と一緒にはできない。
玄関前に個室のようなスペースがあって助かった。
私はダッシュで簡易ケージを取りに行き、手早く広げてペットシーツとタオルを敷いて水を置いた。自室で勉強中の娘に伝える饒波後にすることにして、ひとまずご飯パトロールをに出かけた。

パトロール中も一応外猫達にあの子のお母さんを知らないか聞いて回ったが、有力な情報は掴めなかった。猫は毛皮の模様は様々だが顔つきは絶対に親に似るので、絶対に両親どちらかがこの小区にいるはずなのだ。
けれども今現在まだ親と思われる子は見つかっていない。

帰宅すると家の中で娘が怯えていた。どこかでうちの子達ではない猫の声がするという。幽霊じゃないかというので、玄関を開けてキジシロちゃんを見せた。触らないように言って、とりあえず駆虫薬をつける。これで害虫がうちの子たちにうつる危険は無くなったが、念のためうちの子達にも駆虫薬をつけた。とんだ災難である。
夜遅かったので獣医に連れて行くのは翌日にしたが、玄関前は外と同じなので室内に移したい。我が家はそんなに広くないのでうちの子達と隔離したいがどうすれば…と思っていたら、スーパー賢いうちの子達は違う猫の匂いを察知してスーパーダッシュで寝室に篭った。隔離完了。
キジシロを居間の隅に運んで、ありったけのタオルや毛布で寒くないように囲み、子猫用のトイレを設置した。このくらいの猫が食べるようなフードやミルクがないのでネットで注文。とりあえずうちの子たちのおやつ用のチュールをあげた。あっという間に食べて、設置したトイレで用も足せた。喉のぐるぐる音がものすごく大きい子だった。意外と順応性があるようで、夜泣きもせずケージの隅で寝てくれた。この子も超賢い。さすが。

近いけどヤブにするか遠いけど普通にするか


さて翌日夕方。私一人で獣医に連れて行くのは難易度が高いので夫の帰りを待って獣医に連れて行った。
数年前からのペットブームで近所にも数軒獣医があるのだが、私たちのチョイスは2箇所だ。
小区内の獣医(超至近)かその獣医の本院(車で15分ほど)か。
近いほうが人間にも猫にも負担が少ないが、いかんせんここの医師がわたしは信用できない。
以前は台湾系の評判の良い医院だったのだが、コロナで医師が帰国してしまって現在は日本も資本投資していると噂のチェーン医院の一つになってしまった。綺麗に改装されているがどうにも獣医がへっぽこ。
以前うちのキジシロくんを連れて行ったら嫌がって抵抗するキジシロくんを保定できず、私に保定を頼んできたことがある。患畜の飼い主にやらせないでしょ…
そもそもこの国は15年ほど前まではペットを飼うという選択肢が思い浮かばない(飼うものは小鳥か小魚)ところだったのだから、腕の良い獣医というのはほぼ存在しないと言っていいと思っている。でもだからといって最初からヤブだとわかっているところに連れて行くのは良心がとがめるが、スポンサーは夫。私は夫の機嫌を損ねないようにこの子にかかかる費用を出していただかねばならぬ立場。ちなみに本院は24時間営業。でも夫の気が進んでいない…

というわけで気乗りしなかったが、夫が翌日から出張で疲れてるから近場で済ませたいという。どうせうちで飼うわけじゃないんだからと。

そう、この時私は夫に「一旦保護して里子に出そう」と言っていたのだ。もう自分的には「これはもううちの子にするしか」という気持ちだったけど、ここは異国で私達がいつ帰国になるか、手続きが間に合うかもわからない。3匹目になるし、誰か優しい方にお迎えしてもらった方が幸せになれるかもしれない。だから結論はまだ出せないと思った。

一抹の不安を抱えながらもひとまず近場に行くことにした。とりあえずの健康チェックだからきっとヤブでも大丈夫だろうと信じて。保護して2日目、名前もついてない子。名前は?と受付で聞かれて無いというと野良猫という意味で「田園猫」と書かれた。キジトラちゃんはずっとぴいぴいと鳴いていた。

2年ぶりくらい2回目のヤブ蔵医師はやっぱりほんのりヤブだった。カバンからキジトラちゃんを出すと「うわぁ小さい…」と呟き、体重を測る。970gだった。1kgも無いなんて…、と思ってると、ヤブ蔵も「1kgも無い…」と呟いた。ヤブ蔵は体格はいいのだが声が小さくボソボソ喋るので基本何を言ってるかわからない。でも猫の小ささにはやられてしまったようで、ニコニコしていた。生まれて二ヶ月くらいだろうとのこと。やっぱりまだお母さんと一緒にいる頃だ。
そして私が状況を説明すると「はあ?」と言うのに、夫が同じこと言うとちゃんと答える。けれども夫はずっとそばで見ていないから詳しい現在の状況がわからない。看護師さんが私の言ってることを理解して通訳してくれると言う不思議な世界が展開した。
まず血液検査をしてほしいというと、小さいからできないという。予防接種を、というと小さいから(以下略)うちの子たちはこのくらいからいろいろ検査していた気もするが…

しばらく体を点検していたヤブ蔵が「ん?」と言ってお尻あたりの毛を刈り始めた。怪我をしてると言う。確かにお尻の辺りがいつも濡れていて、トイレを失敗しているのかと思っていたら、噛み傷か刺し傷のような小さいけれど深い傷が現れた。
誇らしげにほれみろ、俺の言った通りだろと言う視線を向けてくるヤブ蔵。いや、そのために連れてきたわけですしおすし。
化膿止めの抗生剤を打ち、体液を採取して感染症がないか確認することになった。塗り薬も出た。
看護師さんが毛をかき分けると黒い点がいっぱい出てきて、全部死んだノミだという。昨日駆虫薬をつけておいたから全部死んだらしい。よかった。

キジトラほんにんはおとなしくずっとぴいぴい泣くだけだった。
傷口を舐めないように看護師さんがエリザベスカラーを持ってきたが、ここでヤブ蔵が本領を発揮した。
「これはこの子にデカすぎるから俺が作ったる!」
机の横に並んでいた病院のパンフレットをウキウキとまあるく切り取ってセロテープでキジトラちゃんの首にくるりとつけた。
プラスチック製のカラーを投げ捨ててまさかの厚紙。ご飯食べて汚れたらアウトやん。私の中の関西人がアップを始めてしまった。

もうこいつに何を言っても聞かないのは重々承知しているので、お礼を言って赤ちゃん用のフードを受付で買って帰った。お会計を待つ間ネットで赤ちゃん用のカラーを探しまくった。
帰宅するとすぐに厚紙を取り外して捨てて、クリアファイルで作った。とりあえず新しいものが来るまでのつなぎだ。お尻の傷で濡れてしまうので、ミニタオルをいっぱい敷いた。キジトラちゃんはずっとぴいぴい泣くのでとりあえずぴーちゃんと呼ぶことにした。
ぴーちゃんは傷が痛むのかずっと隅で蹲ってばかりいる。

子猫を飼ったことのある方から色々聞いて、一回洗ってあげた方がいいと言うので翌日の日中に洗面所で洗ってみた。
使い捨ての一番大きいタッパーで余裕で洗えた。せっかくなので念入りに隅々まで洗っていると、後ろ脚に何か挟まっていた。
棘のような結構大きいものががっちりと肉球の間に挟まっていたので、力を入れて引っ張ると抜けた。抜けた瞬間、ぴーちゃんの鳴き声が止まって大きな目で私を見た。これは誓って言えるけれど、「助けてくれてありがとう!」の顔だった。顔がパアーッと明るくなったのだ。私は鶴の恩返しを思い出した。
タオルでしっかり拭いてあげるとぴーちゃんが突然アクティブに動き出した。どうやら足が痛くて鳴いていたし動けなかったようだ。
ヤブ蔵め…と私が思っても仕方なかったと思う。感染症検査の結果も問題なかった。予防接種は1kg越えないとできないというので、2週間後に打ちに行くことになった。

猫の恩返し


子猫を飼うことになったらやってみたいと思っていたことがある。ご飯の時にクリッカーを鳴らして、ご飯の時間を覚えさせることだ。
ぴーちゃんはとっても賢いのでこの法則をすぐに覚えて、クリックすると飛んできるようになってわたしは大変満足している。ひっそりと先住猫も覚えていて、音がすると静かに自分のご飯のお皿の前に座っている。かわいい。
結局カラーは小さすぎて合うサイズがなく(XXSでもダメだった)、ハムスター用のものを買った。ピッタリだった。ちょっとお地蔵さん味もあってよく似合っていた。ハムスターサイズの子が外でひとりで…と思うと泣きそうになった。

足が痛くなくなったぴーちゃんは死ぬほどアクティブでやんちゃだった。
とにかくずっと忙しそうにしていて、突然電池が切れたように寝る。10分くらいすると起きてまた暴れる。予防接種が終わってないのでケージに入れているが、ケージの中の水もトイレもひっくり返し、毎朝起きるとびしょ濡れになっているし、小さなキャットタワーのてっぺんに登ってケージを下から押してこじ開けようとする。歯が痒いのか私の膝に乗ってずっと手を齧る。ご飯を食べる。用を足す。暴れる。ケージをびしょ濡れに…の繰り返しで私は結構疲労困憊だった。子供が赤ん坊だった頃を何度も思い出し、孫の面倒は見られないと言おうと心に誓った。

先住猫たちはぴーちゃんの存在に怒り、ハンスト状態で抗議した。私には絶対近づかないし、ケージの中からどんなに鳴き声が聞こえてもなかったことにしていた。簡易ケージなので、暴れるとケージから飛び出さんばかりに前足を伸ばして戦いのポーズを取る。
こいつどうするんすか?と彼らの顔が訴えていた。
ごめんね、しばらくの間よろしくね、と心で手を合わせつつ過ごす2週間だった。傷はすっかり良くなって、予防接種をしてもらうことになった。狂犬病を頼みたいのにまだ小さすぎて早いと言うヤブ蔵。まーじーでー?と思っても私が強行できるわけではないのでとりあえず猫用混合注射を打ってもらった。また2週間後、で計3回打たなければならない。
新生児を抱えて寝不足で疲労困憊のママの気分を思い出しつつ、2週間後を迎えた。

中国語でいいと言ったからヤブ蔵だったのでは、という結論に達し、今回は夫と英語の先生でもいいと言ってみた。けれどもやっぱり現れたのはヤブ蔵だった。
お尻の傷はもうすっかり良くなっていたので、注射をしてもらった。生まれて初めての注射で訳がわかっていないぴーちゃんは途中まで元気だったが、ぶすりと刺された瞬間に硬直した。痛かったよねえ。えらかったねえ。
注射はまた2週間後。しかしケージに閉じ込める限界を感じた私は、少しずつ外に出る時間を増やしていった。
警戒して先住猫たちはほとんど隠れていた。ぴーちゃんは仲間のところに行きたいからどんどん追いかけていくが、大抵威嚇されるか軽いパンチで返される。そうするとぴい、と鳴きながら私の膝に戻ってくる。この瞬間、プライスレス。
ケージから出るようになったせいか、くしゃみをするようになった。寒さが増しているし、風邪を引いてしまったかもしれない。私はまた猫風邪がどれだけ大変な病気で病院に行く必要があるかを夫にプレゼンし、病気の治療なので←本院に連れて行くことを提案した。

どこに行っても同じは同じ

幸い週末だったので、夕食後にタクシーを呼んで本院に行った。夜だからか比較的すいていて、外国人と言うことで英語のできる医師に見てもらえた。
ここでちょっと混乱したのが、医師は英語のできる中国人なので私に英語で話しかけるのだが、私が答える前に夫が中国語で答えてしまうので医師がどちらで返事をするべきか迷ってしまうのだ。英語で返すからやめてと言うのに、脊髄反射で答えてしまうらしい。途中で諦めて全部中国語になった。なぜ英語のできる医師にお願いしたのか問題は永久に謎のままになった。

検査の結果やはり風邪を引いていたので、抗生剤を処方された。処方された薬はカプセルに入っていたのだが、やっと1kgを超えた猫の顔の半分くらいある普通の大きさのカプセルでびっくりした。カリカリですか普通サイズの四分の一位の大きさの赤ちゃん用しか食べられないのに、こんな大きなカプセル飲めるわけない。
私たちの戸惑い顔を見て、医師が中身を出して直接飲ませてもいいよ、と言った。よかった。
帰宅して確認すると、中身は塵のように小さかった。小さすぎて振っても音が鳴らないくらいのナノサイズ。見失わないように慎重にカプセルを開けて、喉の奥に放り込んだ。その後フードを食べさせればそのままゴックンしてくれて助かった。先住たちは薬が大嫌いでいつも流血沙汰の大格闘をしなくてはいけなかったので、これは大違いだと思った。
久しぶりの本院で感じたのは、本院は大きくてとても感じがよく、先生も親切だった。でも結局名医ではない、ということだった。しかし贅沢を言ってはいけない。ここで一番大切なのは普通であると言うことだ。普通だったと言うことは最高に良かったと言っても過言ではない。
夫と帰るみちすがら、「やっぱりヤブ蔵は予防接種が終わったら終わりにしよう」と言い合った。

こんな日々の中、毎日外猫ご飯パトロールの際は、夫に「こんな寒空にまだぴーちゃんがひとりでそとにいたらもう死んでしまっていたかも」作戦を行っていた。よかったねえ、おうちにはいれて。あの子たちよりずっとちいさいもんね、心細かっただろうね。かわいそうに。

そしてぴーちゃんもうちに慣れるにつれてパワーバランスを正確に把握したようで、夜になると夫の布団の足下に来てふみふみを披露したりした。
夫はこのふみふみが何よりも大好きである。先住より遙かに小さい子猫が、自分の足下でふみふみする。とんでもない至福の光景である。
ついに夫が「うちの子になるか?」とぴーちゃんに聞いた。私は布団の中でガッツポーズをしていた。ぴーちゃんは純粋無垢の瞳でひたすらにふみふみしていた。ふみふみのプロだった。

夫をクリアしたぴーちゃんは、先住たちとのコンタクトを積極的に試みるようになった。まずはより優しい兄猫に。ちょっかいを出しては様子をうかがい、甘え、くっつき、一緒に寝るようになるのにそんなに時間はかからなかった。そして、偏屈な弟猫にチャレンジしたが、こちらはなかなか心を開かないので現在も挑戦中である。けれども、ぴーちゃんが存在することは許してくれた様子で、3匹並んで寝るようになった。先住猫たちの気持ちと体調が最優先だと思っていたので、ここをクリアできてようやく私もうちの子として迎える覚悟ができたと思った。

あたらしいかぞく

うちに迎えるにあたっては、市内にただ一つの指定動物病院でマイクロチップを入れてもらい、登録して狂犬病の注射を打たなくてはいけない。いつもお願いしているペットショップに相談すると、狂犬病は3ヶ月から打てるという。ヤブ蔵は6ヶ月からといっていた。これは見解の違いなのでヤブ蔵のせいじゃないことは重々承知でやっぱり心の中でヤブ蔵…と思った。思っただけなので許してほしい。

病院に行く日を予約して、ようやくマイクロチップを入れてきた。
担当はとても優しそうな女医さんで、「あらあ小さい、かわいい、おりこうちゃん!」といいながらあっという間にチップと注射を終えてくれた。小さいからわからない…といってばかりだったヤブ蔵が(以下略)
そしてヤブ蔵のところで注射を打つと翌日必ず熱を出して寝込んでいたのに今回全く熱も出さなかったのは、きっとぴーちゃんが成長したからだろうと思うことにした。

とにかく、これで我が家は人間も猫も三きょうだいになった。責任も重大である。でも、このご縁を大切にして、みんなで仲良く暮らしていきたい。できれば日本にいる上の子たちにも猫を早く会わせたい。

そういうわけで、あたらしいかぞくをよろしくお願いします。
これを機に、snsでは猫たちを上から猫一、猫次、猫美と呼ぼうと思います。2024年をこの子たちと迎えられる幸運に大感謝です!