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そのときわたしたちは-その17

子供達と夫に連絡を入れた。無事に家に着いたよ。

夫からすぐ返信があった。

お疲れ様。夕食にピザでも差し入れしようか?

私たちのマンションの一階に美味しいイタリアンレストランがあるのだ。そこのピザを買って守衛の渡しておいてくれるというのでありがたくお願いする。さすがに今日は何もしたくなかった。食糧も無いだろうし。

下のイタリアンはコロナで休業中だったが、テイクアウトだけ受け付けているらしい。店に到着した夫から今できるメニューを電話で教えてもらいながらオーダーし、ついでにスーパーの買い物も頼んだ。料理ができる間待っている夫とひさしぶりに話をした。日本にいる時も自宅の道中もメッセージだったから。


ホテルは空調が切られてて寒いよ。ランドリーサービスも今やってないみたい。レストランもやってなくて、ルームサービスはあるみたいだけど。。

エアロゾル感染防止のため、空調が集中コントロールの建物は切られているのだった。まさかのホテルが集中コントロールだとは思わず、夫も私もびっくりした。3月とはいえまだ寒い。

ルームサービスのメニューも限られているので、すぐに飽きそうな気がする、と夫が言った。

ところで家の様子はどう?一応俺なりに片付けてはいたんだけど。。

うん。「俺なり」だった。私は答えた。

まあそこは勘弁してよ。猫はちゃんと面倒見てたよ。うん、そこは充分。猫がいつも通りふわふわで元気だった。

そうなんだけど。。私は言った。

冷蔵庫壊れてるよね?

やっぱり?

そう、冷凍庫は大丈夫なのだが、冷蔵機能が働いていないことに帰宅してすぐに気がついたのだ。外より暖かい冷蔵庫、中身の大半が傷んでいた。

道理ですぐにものがダメになると思ったんだよね、と夫。気がついてよ〜!と思う。しかし、外出禁止令に伴って住人以外の敷地内への出入りは全て禁じられていた。要するに修理屋は呼べない。

壊れた冷蔵庫は備え付けのもので元々容量が少なかったので、ドリンク用のミニ冷蔵庫を買ってあったので、そこに肉魚類は入れてドリンクや野菜は物置に置いておくことにした。寒い季節で助かった。

ピザできたからこれから届けるけど、やっぱり俺は入れないから守衛にわたすね。その時着替えを何組か代わりに持たせてくれる?慌てて荷造りしたから足りない気がして。

しばらくするとうちの担当の守衛が荷物を持ってきてくれた。こうやって運ぶから何でも言ってくれよ!と胸を叩いて笑ってくれた。ありがとう、早速だけどこれを夫に渡してくれる?


OKOKと気持ちよく持っていってくれた。あの守衛だったら気分良く過ごせそうだな、と思う。

次女と熱々のピザを食べながら、やっと帰ってきたね、2週間頑張ろうね、と言い合った。ネットスーパーもあるし宅配も頼めるし隔離も意外と楽なんじゃないの?とこのときは思っていた私たち。

自宅隔離中一番大変だったのは1日2回の検温だった。午前に1回、午後に1回と言う話だったけれど、いつ来るかわからない。地区委員会から派遣された人が来るのだが、午前と午後で人も変わる上その人の裁量で回る順番を好きなように決められるようで、朝8時に来たり10時に来たり。ひどいときは11時に来て12時半ということもあった。

また、額で測る非接触型の体温計だったので、一度は日当たりの良い自室でカーテンを開けてオンライン授業を受けていた次女の体温が37度を超えてしまって焦ったこともあった。二人でしどろもどろになりながら、日光に当たって頭が熱くなっちゃって!と言って別の場所で測らせてもらって難を逃れた。37度を本当に超えていたら娘一人で指定病院に強制入院なので必死だった。

初日の検温、午前中は問題なかったが、午後の検温の人が何故か呼び鈴を押さず小さくノックを数回して帰ってしまった。私はちょうどドアの近くを通ったときだったが、物音がしたような。。?と微妙で、ゴミ回収の方とかち合ってもいけないだろうと思って知らんぷりをした。

するとすぐにスマホに電話がかかってきた。拙いながら日本語で、「あなたは今出かけていますか?」地区委員会からだった。さっきの物音!と思い当たったけれどもう遅い。私は、出かけていないこと、ドアのノックが聞こえた気がしたけれど音が小さくてよくわからなかったこと、呼び鈴があるので使ってほしいと伝えて欲しいと言った。「わかりました」と電話は切れて、数時間後にもう一度検温にやってきた。

私と次女はそれですっかり怖くなって、検温を中心に全てが回るようになってしまった。午前の検温が来るまでリビングでテレビもつけず、掃除もそこそこに待機した。次女もオンライン授業中でも検温に出ないといけないので、各教科の先生に自宅隔離中である旨を伝え、途中で検温に抜けることがあると伝えた。午後の検温も終わるとようやくホッとして、自由に動けた。

夫は毎日仕事を終えると洗濯物を持って立ち寄るようになった。もちろん会うことはできない。私は自分たちのために不自由を強いられている夫への申し訳なさから、夫の来る時間に合わせて保温の弁当箱2個に夕飯と翌日の朝食とお弁当を詰め、守衛に洗濯物と交換に渡してもらうことにした。家中の大掃除をしながら夫の洗濯物も洗い、食事の支度もするので、なんだか家に夫がいるよりも忙しかった。3回くらいなんで?と思ったりした。

大掃除で出たゴミが多すぎるとゴミ処理の人に怒られたりもした。段ボール箱は出すな!と言うので困って夫に相談すると、守衛が非常階段のところに置いておいたら自分が処分すると言ってくれた。宅配などであれこれ頼むこともあって毎日段ボールが出ていたので助かった。きっと守衛はそれを売って小遣い稼ぎをするのだと思うが、チップと思えば安いものだ。

そんな感じで過ごしていた隔離期間も後半に差し掛かろうかと言う頃から、次女の様子がおかしくなってきた。独り言が止まらない。異常にテンションが高かったり、部屋にずっと閉じこもったり、猫をしつこくかまって追い回したり。

食欲はあるし元気そうに見える。でも何かがおかしい。。

どうやって切り出したら次女の気分を害さずに話を聞けるだろう?と考えていたら、次女が部屋から出てきて言った。


おかあさん、私夢中になれるもの見つけた。