見出し画像

Visual abstractソフト版「arriba-lib」

 EBMと出会ってから患者さんと薬の効果や使用目的をお話しする際、単に「血圧を下げる」、「合併症の予防」などの一点だけの説明だけでなく、時間軸も含め、数値を交えたお話をするようになりました。例えば高血圧なら今のままと薬を始めた場合で脳卒中になる確率が何年後にどのくらい下がるのか?などを説明するようになりました。その時、根拠としている論文を直接患者さんに見せることはほとんどありません。なんとなくですが見慣れない医療論文を見せられてもあまりピンとこないかなと。ただやはり言葉で話しているだけよりはパンフレットのようなものがあるといいなと思っていました。最近、twitterで疫学データを絵で分かりやすく表現した「visual abstract」というものを教えて頂きました。医学雑誌のNEJMが作成している論文情報を数分のアニメーションでまとめた「Quick take」という動画もあり、無料で見ることができます。文字と図表だけの論文より見やすく、何より見ていて結構楽しいです。
患者中心の医療や説明と同意という概念はほぼ定着し、現在の状態や今後の治療方針を説明することは当然の時代となりました。ドクターからの説明に対して患者さんやそのご家族から質問が出てそれに答え、最後に「わかりました」というやり取りを当然のように見てきましたが、レントゲンや血液検査の結果を見せながらのやり取りはありますが疫学データを見せている場面というのは自分も含めてほぼ無いことに気づきました。上述したように一般的に見慣れない疫学データを出しても患者さんの理解が深まるような気がしないので出されなかったように思います。この「visual abstract」はその問題を解決し、より患者さんの理解を深めるかもしれません。
既に海外では多くの疫学データのvisual abstractが作成されていますが、ドイツでソフトとして開発されているようです。さらにそのソフトを使用しての支援効果を検証した論文がありましたので今回ご紹介します。

Acceptance of shared decision making with reference to an electronic library of decision aids (arriba-lib) and its association to decision making in patients: an evaluation study1. PMID: 21736724

Arriba-lib: evaluation of an electronic library of decision aids in primary care physicians2. PMID: 22672414

Arriba-libがどのようなソフトなのかを説明します。心臓血管疾患の予防、心房細動、冠状動脈性心疾患、経口抗糖尿病薬、通常あるいは強化されたインスリン療法、単極性うつ病の6項目の決定支援が用意されています(※この他にPPI使用支援やポリファーマシーのモジュールも開発中のようです)。左に年齢、性別、リスクファクターなどのチェックがあり、そのチェックに応じて右のスマイルマークが変化する仕様になっています(図1)。その場で自分の当てはまる項目によって変化するのでわかりやすいですね。例えばタバコを吸っていれば赤丸(悲壮な表情のマーク)表情が増えるといった具合になるので臨場感が出てきます。

図1

 調査方法ですが、29人の開業医と192人の患者が参加しました。疾患別の内訳は、心血管疾患予防は128人(67%)、糖尿病は43人(22%)、冠動脈疾患は8人(4%)、心房細動は8人(4%)、 うつ病は3人(2%)でした。
検証した項目は大きく分けて治療方針の詳細さ、意思決定に至った時間、arriba-libへの満足度の3つでした。1つ目の治療の詳細さは5項目を4段階で評価しています(表1)。

表1 治療方針の詳細な説明の有無


 この結果を見るとリスク、治療の選択肢の説明と今後のプランについては約7割の方がよく説明してもらっていると思っていますが、現状の問題つまり悩みや不安については約6割の方が話し合えていないと答えています。ここからは結果に対する私の推測ですが、医療従事者はリスクや治療法といった自分の土俵で話してしまっており、肝心の患者さんの病気になった心中を察していないのではと。悩みや不安の話は時に返答に困るような質問が来ることもあります。自分が対処できない話が出ることを避けてしまっているのかもしれません。
 2つ目の意思決定に至った時間と議論の詳細さとの関連を示したのが表2です。

表2 意思決定の主観的期間と議論の詳細さの関連


 詳細な説明をすればそれだけ時間がかかってしまうとうごく当たり前の結論でした。
 最後にこのソフトへの満足度調査です。研究調査の2か月後に電話インタビューで「arriba-lib」で再度説明してもらいたいかを尋ねました。その結果65.2%の人がarriba-libで再度相談したい、18.9%はどちらとも言えない、15.9%が特に必要ないと答えました。特に年齢、性別による差はみられませんでした。6割弱の人が使用してよかったと答えているのである程度情報を受け入れやすくするためのツールとして使用できると思われます。私も是非使用してみたいと思いました。開発中のモジュールも魅力的でした。 

1. Hirsch O, Keller H, Krones T, Donner-Banzhoff N. Acceptance of shared decision making with reference to an electronic library of decision aids (arriba-lib) and its association to decision making in patients: an evaluation study. Implement Sci. 2011 Jul 7;6:70. doi: 10.1186/1748-5908-6-70.
2. Hirsch O1, Keller H, Krones T, Donner-Banzhoff N. Arriba-lib: evaluation of an electronic library of decision aids in primary care physicians. BMC Med Inform Decis Mak. 2012 Jun 6;12:48. doi: 10.1186/1472-6947-12-48.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?