いつかの記憶

ふと、涙の温度って何度くらいなんだろうと思った。あまり長くもなく、密度も濃くないまつげに今朝せっせと塗った新品のマスカラのパッケージには”お湯で簡単にオフ!化粧落とし楽々!”と大きな文字で派手に書いてあった。そんなことを思い出してしまうくらいには,頬を伝う涙が表す感情と,脳内の思考は乖離している。

目から涙がぽつらぽつらと流れているのに頭はひどく冷静だ。 

ふたつの感情を持つ自分がいて,それはそれは不思議な気持ちになる。 

ああ、このままじゃまつげに塗ったマスカラが全部とれちゃうかもしれない。ひどい顔になってしまう。そんな顔では帰れないよ。

実際問題そんなことはどうでもいいから泣きじゃくればいいんだ。涙の海に身を沈めてしまえよ。誰にどんな顔を見られてもどうだっていいし。

そんな感情をいったりきたり。

心と頭は違う意思をもっている。 

そんな自分が嫌になる。感情を外に丸投げできない,かといってうまく隠すこともできないし。本当に呆れる。

人生で一番すきだった人とさようならをした瞬間。

そんな時くらい心の声に従ってもよかったんじゃあないかと今になっては思う。

大人になればなるほどに心の声は小さくなり頭が発する声が大きくなっている気がする。そういうものなのかな,なんか,いやだなあ。

涙はぽつらぽつらと流れ続ける。



いつかの記憶。



#エッセイ #いつかの記憶

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