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異郷が故郷になるとき

「世界のあらゆる場所を故郷と思えるようになった人間はそれなりの人物である。だが、それにも増して完璧なのは、全世界の至るところが異郷であると悟った人間なのである」

ユーグ・ド・サン・ヴィクトール

この言葉を頼りにしてきたところはある。やみ難い望郷の念を託す故地がないのであれば、漂泊するしかない。

ポール・ボウルズは繰り返し、あまりに遠くへ行き過ぎて還れなくなった姿を描く。そこに魅了されてきた。困難を経て帰還するオデュッセイアだけが物語ではないのだから。

先日、鹿児島のしょうぶ学園を訪れた際、福森伸さんの家に招かれ食事をした。帰り際にこう言われた。
「ここは君のホームなのだから、またいつでも遊びにきなさい」

血縁と地縁によらず還る場所ができたのかもしれない。掴もうと手を伸ばせば消えてしまうかもしれない。けれども、忘れ難き故郷の匂いを私は嗅いだ気がする。



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