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小説「迷惑系YouTuberに迷惑かける系YouTuber」#1

回転寿司に行っても回る皿は取らず、いつもタッチパネルから食べたいネタを注文する。それが向井利光の流儀だ。それなら江戸前の寿司屋に行けばいいとの声が上がりそうだが、やはり回転寿司のコスパは魅力的である。今日も一人でテーブルに座り、タッチパネルを操作する。しかし今日はいつもと違う。どれだけ待っても注文した商品が届かないのだ。

呼び出しベルを鳴らし、店員を呼ぶ。白い衣装を身にまとった学生とおぼしき男性店員が、「お待たせしました」と気だるそうな声で言ってきた。

「注文した商品が届かないのですが」
向井は相手を責めないように、なるべく下手に出ながら問いかけた。
「そうですか。少々お待ちください」
面倒な仕事が一つ増えたと言わんばかりの口調で言い、タッチパネルから注文履歴を確認する。五品注文しているが、向井の前には一皿もないことを店員は確認した。

「大変恐れ多いのですが」
そう前置きした店員の目は、テーブルの至る所に目線を動かしている。おそらく、皿をどこかに隠していると思っているのだろう。

「お皿、戻したりされましたか?」
回転レーンに戻したのかと聞きたいのだろう。十分安くしてくれている回転寿司で、さらに得しようとするなんて発想はない。100円か200円の品で窃盗で捕まるなんて費用対効果が合わない。

「いえ、それはさすがに」
向井は心外に思った気持ちを押し込めて言った。

5皿目に頼んだのはアジである。このお店はあまりこの商品を推してはいないが、向井はこの店の真骨頂はアジだと思っている。そんなアジを口に入れようとしている客がいることに気づいた。回転レーンの上流にあるテーブルに座る、男二人組の一人である。


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