見出し画像

ヨンゴトナキオク41 2021.9.4

奇跡の風、吹いた ~藤井風フリーライブを聴いて~

以前から楽しみにしていた藤井風のフリーライブをyoutubeで観ました。一時は有観客で企画されたコンサートだったのが、緊急事態宣言の延長により不可能になり、完全な無観客ワンマン弾き語りになりました。だだっぴろい横浜日産スタジアムの真ん中にたった1台のグランドピアノと風くんがただ一人いるモノクロの画面で始まった瞬間、とにかく心配したのは、雨はどうなん?ということでした。始まった時はほとんど降っていなかった雨が少しずつピアノの上にかけてあるアクリルのカバーの上に落ち始め、一時は画面にも映るほど降りしきっているのをまったく気にすることもなく、鍵盤にも雨が落ちているのに、風くん自身はほとんど濡れているようには見えず(実際はびしょ濡れだったはずなのに)、相変わらずの岡山弁と英語のMCを訥々と挟みながら、1時間余りにわたって見事なライブをやり遂げました。本当に、泣けました。この時のリアルな視聴者は18万人に近づこうとしていました。7万人収容できる日産スタジアムの軽く倍の数字を叩き出したのは、地の利も何も超越して世界で一斉に観られるyoutubeであったことも大きいでしよう。

まずは音響のよさが際立っていました。一瞬たりともトラブることもなく、ピアノとヴォーカルのバランスも最高。そしてマイクに乗った彼の歌声が完璧でした。途中でピアノから離れ、『優しさ』の一節を歌っては広い芝生の上を走っていく、その動きにも声がぶれることはなく、ピアノに戻って伴奏した瞬間、全くピッチが外れていなかったのは、さすがというほかありませんでした。もちろん子どもの頃からピアノの訓練で絶対音感を培った賜物だとは思うけれど、あの雨の中でも平常心で歌うことができるシンガーとしての実力を思い知らされました。もちろんライブとしての臨場感もたっぷり。伴奏にはアドリブも入る。立ち上がって深呼吸したり、なんなら芝生に寝転がってしまったりして、雨さえも味方につけているその自由さが、正真正銘の「フリーなライブ」の姿だったのだなぁと実感しました。こんな奇跡の現場に立ち会えて、幸せでした。

個人的に嬉しかったのは、9/4という日付と(笑)、スタジアムのカメラのアングルが常に「E14」というゲート番号を映していたこと。14日生まれの風くんを意識してのことなんだろうか。それとも偶然?

曲と曲の間の沈黙にカラスが何度か鳴いていました。ドローンの映像や、地味ながらもカメラワークに演出が施されていて、視覚的にも飽きさせませんでした。どれだけの人がこのライブのために力を注いだかと思うけど、雨の中でカメラを回すスタッフ、ピアノの鍵盤を拭きに走ってくるお兄さん以外はほとんど見えない。文字通り独りぼっちの風くんだけ。けれども、彼はおそらく故郷の岡山にいたころからそれこそ聴衆もいない小さな部屋でyoutubeに動画をアップし、世界に送り出していたわけで、その時の心持ちと今も何ら変わっていないんだと思います。どこまでも規格外な才能です。

そういう演奏力に安心できるからこそ、彼の、ちょっとこそばゆいヒーリング効果抜群な言葉に何一つ嘘がないと思えるんだと思います。それでも、こんなにすごいことをやってのけているのに、彼はお父さんからの「おめえがやるんじゃねぇ。やらせてもらっとるんやと」戒めの言葉をちゃんと胸に刻んでこのライブに臨んでいました。家族に愛されて育ったからこそ、他人にも優しい言葉を億面もなく口にできる。だから聴衆も素直に受け取ることができるんですね。その伝播のパワーも規格外。雨粒が黒々とした髪の毛の先に集まってキラキラしていました。着ているシャツはところどころ穴や破れがあって、足元はビーサン(笑)。着飾らなくても、歌う姿がこれほど美しい人もいないでしょう。

なんだかんだ書いても言葉では伝えられないのが口惜しいです。ただただ雨の中、歌ってくれて「ありがとう」というほかありません。なんとこのフリーライブ、終演2時間後にはアーカイブがアップされていました。もったいぶらないところも素晴らしいです。10月からいよいよ始まるアリーナコンサートツァー。私も申し込みました。抽選次第ですが、どうかどうかよい結果が届きますように。あれだけ雨に濡れて身体も冷え切ったでしょうに、夜になってTBSの『ニュースキャスター』にこのライブが取り上げられ、終演後の風くんがインタビューに応えていた姿を見る限り、全然元気でしたね。それにしてもこの番組のスポンサーが日産だから、日産スタジアムの宣伝を目論んで取り上げられたんだろうか、なんて邪推をしてしまった私。彼自身はホンダのCMを歌っているんですけどね(笑) そうそう、そんなことは関係なくみんな幸せ。風くんという風が運んでくれたポジティブシンキングでいきましょうや。それにしても、まだ24歳。今日のことはまだまだほんの序章に過ぎないのかもしれません。3曲目に披露してくれた新曲もなんてカッコイイんでしょう~!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?