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よんのばいすう6-20 2021.6.20

修学旅行よ、どこへ行く

ラジオが好きでよく聴いているが、いつもは聴かない時間にふとradikoをつけて、たまたま興味深い番組に出合った。ABCラジオの『サンスター文化の泉 ラジオで語る昭和のはなし』。日曜日の夜10時から11時までの1時間番組だが、何がいいって、博学で有名な女優さんの宮崎美子と元NHKアナウンサー石澤典夫というMCお二人だ。特に石澤典夫さんは、長年NHKで活躍され、定年後もNHKの『ラジオ深夜便』でパーソナリティーを務めているけれど、実は私は現役時代から石澤アナの大ファン。今は月に一度の水曜日、石澤さん担当の深夜便が特に楽しみだ。ソフトで理性的で、でも時々ユーモアを交えた語り口は、さすがアナウンサーのお手本だと思う。ABCラジオでは民放らしく、タイトルコールとともに「この番組はサンスターの提供でお送りします」とスポンサー名をアナウンスする石澤さんがとても新鮮で、思わずそのまま聴き入ってしまった。

この番組はタイトル通り、昭和の文化を語り合うというコンセプトのようで、この回では『思い出がいっぱい 昭和の修学旅行』というテーマになっていた。公益財団法人日本修学旅行協会理事長の竹内秀一さんをゲストに迎え、修学旅行の歴史や現状を語っていただくという趣旨となっていた。何よりも、そんな協会があったとは驚きだった。宮崎美子さんも初めて知ったとおっしゃっていた。中学・高校で実施される修学旅行や臨海学校などの野外活動の行事をひっくるめて「教育旅行」と呼ぶのだそうだが、それらの円滑な実施、学校・受け入れ地や旅行会社への情報発信やアドバイス、実施状況の調査報告などを行っている財団だそうだ。竹内氏も元校長先生とのこと。うーむ、何やら天下り団体っぽい香りがしないでもないけれど、こういう組織があるからまた「教育旅行」たるものの歴史を紐解いたり過去の流れを系統立ててデータ化されるのだと解釈しておこう。

竹内理事長によると、修学旅行の始まりは、1886年2月に現在の筑波大学の前身にあたる東京師範学校で行われた「長途遠足」だそうだ。なんと11泊12日間にも及ぶもので、東京から千葉の銚子方面まで歩いていったというえらく大変な遠足だった。当時は富国強兵の時代。遠足といっても楽しいイメージではなく、兵隊訓練のように徒党を組んで歩く、「行軍訓練」の色彩が強かった。それも教育の一環だったのだ。道すがら気象の調査や鉱物採集、貝類の観察・採集、文化財や遺跡の見学などもあったそうだが、第一義的には心身ともに鍛え、お国のために役に立つ人間を育てるのが目的だったという。

その後は、いつからか徒歩から鉄道を使われるようになり、戦後の高度成長期には貸し切り列車や新幹線も登場していく。今では飛行機は当たり前、国内はもとより海外旅行の様相も呈してきた。ここ数年は、大阪方面ならUSJが、東京方面ならTDLといったテーマパークも1日組み込む学校も増えてきていた。それは学習なのか、見学なのか、遊興なのか見分けもつかないありさまだけれど、家庭ではできない経験をさせてもらえるのもまた修学旅行のよさなのだろう。

歴史的にも長い修学旅行の、記録が一時途絶えたことがあった。それは昭和19~20年の戦時中。一億総火の玉と、学徒勤労動員として子どもたちも軍事工場で労働させられていた時代だ。不平不満を言おうものなら、「修学旅行なぞ、悠長なことを言っている場合か」と非国民扱いされたのかもしれない。子どもたちも時代の波にのまれるように、たとえ教育という錦の御旗があろうとも、修学旅行など行われるはずもなかった。

翻って、令和の世。新型コロナウィルスとの闘いのために、去年も今年も修学旅行はおろか、運動会も中止を余儀なくされている。つまり、今は正真正銘戦時中以来の文字通り緊急事態なのだ。一見平和そうに見えて、「欲しがりません、コロナに勝つまでは」とばかり国民全員が我慢に我慢を強いられている。それも名目は、誰もはっきりとは言わないけれど、このコロナ禍で東京オリンピックを強行するためだ。旅行どころか授業もままならない毎日。首都圏では、夏休みをいいことに観客動員としてのオリンピック観戦も強要されていると聞く。戦争を知らない子どもたちが、平和の祭典といわれるオリンピックでこれほど不幸な月日を送っているとは、なんて皮肉なことだろう。もっとも番組はもっぱらMC二人と竹内氏を交えた懐かしい思い出話に終始している。流れる音楽は舟木一夫の『修学旅行』(笑) 何しろ「思い出がいっぱい 昭和の修学旅行」がテーマなのだから。

ちなみに、私の修学旅行は中学では信州、高校は長崎だった。オランダ坂で友達と撮った写真が残っている。あの頃は本店で買うのが自慢だった福砂屋のカステラをお土産に買って帰ったものだ。徹夜で話し込んだおかげで、朝食の味噌汁の匂いに気持ちが悪くなり、結局何も食べられなかったという笑い話のような思い出もある。

テーマの締めくくりに最後に流れたのは、山口百恵の『いい日、旅立ち』。旅をしたくてもできない、「可愛い子には旅をさせよ」と思っていても行かせることができない昨今だけに、あまりにも切ない選曲だった。とにかく1日でも早く、子どもたちが修学旅行先で思い出作りができる時代に戻ってほしい。この番組はradikoのタイムフリーで6/21の22時57分まで聴くことができる。もしご興味ある方は宮崎さんと石澤さんの穏やかなトークを一度聴いてみてはいかがだろう。

サンスター文化の泉 ラジオで語る昭和のはなし | ABCラジオ | 2021/06/20/日 22:00-23:00 https://radiko.jp/share/?sid=ABC&t=20210620220000




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