0524

朝起きたら床に四体の死体が転がっていた。彼らはカチカチのカーペットの上で気持ちよさそうにガーガー寝息を立てている。ついでにレモン堂鬼レモンの空き缶がその周りでゴロゴロしている。

とても見覚えのある四人だった。宅飲みをしたとき必ず次の日の昼まで居座る四人だ。

宅飲みをするとき大概の人間は11時になったら終電で帰るのだが、この四人は終電で帰ることはせずにそのまま飲み続ける。特に生産性のない会話を繰り返し、深夜二時になったら腹が減ってないのに近くのラーメン屋でこってりラーメンを食べる。そして次の日の昼に起きるという阿呆たちだ。

これが大学四年生の春なのか、思っていたのと違う。

ベッドから這い出して、むさくるしい男の匂いが立ち込める室内からいち早く抜け出したかった。しかし、ここは自分の部屋であった。

昨日ここで開いた後輩の誕生日パーティーには二十人もの人間がつめかけ、八畳の下宿は地獄のような有様だった。八畳の部屋に二十人なんて集まったらゆっくり座れるわけなんてない。それぞれが立ちながらひたすら酒を飲み、オリジン弁当のから揚げプレートをつまんでいった。

去年の総勢15人の誕生日パーティーも酷かったが、今年の二十人は当然ながらもっと酷かった。飲み会は酷く盛り上がり、ピザが10枚部屋に届いた。

リモコンを手に取ってテレビをつける。つかない。思い出した、誰かがテレビのコンセントを酔ってへし折ってしまったのだ。同様に開かれた去年のパーティーで被害を受けたのはベッドのスノコだったが、今年はまさかのテレビだった。

テレビのコンセントを折られたときに「オリンピック見れねえじゃん!」と絶叫した記憶がある。

今になってみると、オリンピックなんてどうでもいい話だ。被害を受けたことを強調するために「オリンピック見れねえじゃん!」という心にも思っていない叫びを発したのだ。

昨日部屋に集まったむさくるしいサークル員たちは
「オリンピック見れねえじゃん!」という自分の叫びに対して
「オリンピックなど滅べ」といった趣旨の罵詈雑言で返してきた。

スポーツ好きでもなんでもないのに勝手に巨額の税金を使われ、加えてコミケに影響があるというのだから、オタク趣味(ゲーム同人v周辺)な彼らがそう言うのはもっともだと思う。

冷蔵庫から麦茶をとりだしてグイっと飲んだ。二度寝した。気が付いたら日が暮れていて四体の死体はそれぞれの巣に戻り、飲み散らかっていた部屋はきれいになっていた。

「ラグビー観ようぜ」
ゼミのグループラインが動いた。

やっぱ、ラグビーはみたかったなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?