読んでない人たち〜『『罪と罰』を読まない』

とある辺鄙な地方の公共図書館で、司書の仕事をしています。司書資格を有しているとは言え、昨今のご多分にもれず非正規枠での雇用。それでも1年毎の契約を、かれこれ15年以上更新させてもらってはいるのですが、この一時代とも言えるそこそこの年月の間、驚くほど給与は上がらず(確認してみたら、この間およそ2万5千円ほど基本給は上がっていたけれど、採用当初にはあった、なけなしの賞与が無くなっているというカラクリ)、これほどの低空飛行で仕事を続けている意味って…と、つい考えてしまいがちな日々です。仕事自体にはやりがいを感じてはいるので、あまり深く考えずにこれまではやり過ごしてきたつもりだったのですが、このところ、長く同じ職場に居続けることの弊害を意識せざるを得ない場面が増えてきて、実はちょっとしんどい。。できれば転職したい。。けど司書って潰しが効かなそうだし、かと言って他に取り立ててできることもないし……と、もやもやとくすぶっていた近況を、知人にちらっと漏らしたところ、「ブログでも書いてみたら?」という斜め上なアドバイスが飛んできまして、今こうして駄文を書き散らし始めている次第です。

知人曰く、直接仕事には関わらないとしても、何かを「長く続ける」ことには何かしらの生活改善効果が期待できる(かもしれない)、的な、、その時はだいぶふわっとした印象のアドバイスに感じられたのですが、それでも、もやもや雲で頭の重かった私にとっては、何だかすごい妙案!って気がしまして。すっかりノリノリになってしまった私は、その場でブログのテーマも決めてしまおう、そうだ、私司書のくせに全然本読んでないから、いっそ自虐な感じで本に絡めたブログとかいいかも?うん、それがいい、それにします、と自ら進んで枷をはめる始末。。確かに本にまつわるエピソードには事欠かない、と言うかそれしかない仕事ではあるのですが、いざ文章でまとめようとするとなかなか大変ですよね…はい、今ココですよ。

さて、前置きが随分長くなりましたが、こんなテーマのブログ初回にはこれしかない、という本をつい最近読みましたので、1つ目の作品はこちらを取り上げます。『『罪と罰』を読まない』。本当は二重鍵カッコを重ねたくはないのですが、著書のお一人、岸本佐知子さんのあとがきでは、こちらの本の表記を『』の入れ子パターンで表記してあったので、ここではそれに倣います。書名には意地でも『』を付けたいです。どうでもいいことですが、たぶん司書あるあるです。

このタイトル、一見小説かな?みたいな匂いを漂わせているようにも感じられますが、さにあらず。簡単に言ってしまえば、バリバリ最前線で小説に関わる職業にありつつも『罪と罰』を読んだことのない4名の諸氏、三浦しをん・岸本佐知子・吉田篤弘・吉田浩美(敬称略)が『罪と罰』を読まないままで、小説の断片から内容を推理する座談会を試みたが、やっぱり読んでみたくなり、読後に再度座談会をし、さらに盛り上がる、という記録です(味と素っ気プリーズ…)いやいや、読まずに読むってそんなことできるの?それって面白いの?という疑問が即座に浮かびましたが、ちゃんと「読めて」いる上、しっかりと面白いというそこはさすがの最前線クオリティです。とは言え、吉田篤弘さんの前書きにもことわりがあるとおり「インディーズ・バンドのノリ」的やらかし感もなかなかのもので、終始笑いっぱなしでした。

前半の想像パートでは、『社長 島耕作』(ロシア編)や、NHK影絵版『罪と罰』(ものすごく簡略化してあったらしい)情報なども交錯し、言ってみればしっちゃかめっちゃな展開で繰り広げられていく4人編の『罪と罰』が楽しめます。かく言う私も、当然のことながら(開き直り)『罪と罰』を読んでおりませんので、諸氏の予想が当たっているか否かは分からず。。なので、当たり外れはほっといて、ここは文学者たちのセッションの凄みに浸りました。特にぐいぐいストーリー読みを引っ張っていく三浦しをん氏の想像力と暴走力は圧巻。ギターソロ、キレッキレやん…状態。こんなふうにしてストーリーを紡いでいくのかな、といった小説作法風なところも垣間見られて、そこもすごく興味深いです。前半では、小説の一部をランダムに指定し、その断片をヒントに予想していくというルールが取られているのですが、ページ指定を一手に担っているのが岸本さんの語呂合わせ(モーイイヨの114ページとか、ニクヤで298ページとか)というところなどは、小学生みたいで大好きでした。

後半の読後パートでは、ひたすらに4人の読書会の面白さに酔いしれました。『罪と罰』の数多いる登場人物たちが、なぜか予想外に近所に住んでおり、やたらすぐに集まってくる様を「『男女7人夏物語』みたい」と評したところなど、ふつうに茶を吹きました。あと、4人が揃いも揃って推しまくるスヴィドリガイロフ(愛称:スベ)という登場人物の幻想的な魅力に、読んでもいないうちからスベ推しになってしまいそうになるおっさん好きな私。そして、やはり本職にバリバリ関わる皆さんだけあって、いずれも凄まじいメモを取りながら読んでおられますね。「ラスコーリニコフは、何かが上から落ちてきて、下敷きにされたような気がした」という部分には、「ドリフか!」といった的確なツッコミメモが笑。これほどまで面白げに語られて、読みたくならない人なんていないんじゃないかしら?!と感じてしまうほど、楽しすぎてズルいくらいです。やはり餅は餅屋と言うべきか、小説のプロの方たちの気づきって素晴らしいんだな、と尊敬せずにはいられませんでした。

そもそも私は、こちらの本の著者である吉田ご夫婦が手掛けられてきたクラフト・エヴィング商會のファンだったこともあり、こういう工夫のある企画が大好物ではあるのですが、そこを差し引いたとしても、本を読むってこういうのもアリなんだねー、と、きっと楽しくなってもらえると思うし、『罪と罰』が猛烈に読みたくなることは必至です。『罪と罰』は読んだことがない、読みたいとも思わない、途中で挫折した、という三大非読者こそ、まずはこちらの本を手にされると良いかと思います。ある本に対して、何らかの意思を傾けた瞬間から既に読むという行為は始まっているのかもしれません。…と、いう感じの素敵を綴っておられる三浦しをん氏のあとがきが最高なので、そちらも余さずしっかりと読んでいただきたい。

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さて、初回からつらつらと書いてきましたが、読書ブログとはどれくらいの文量が適切なのかをこれからぼちぼち探りながら、細く長く続けていければと思います。ただ、楽しいことは始めようとするまでが最高!と感じてしまう典型的な前夜祭体質な私のこと、(今回読んだこちらの本も、読む前から絶対面白いことがわかりきっていたため、なかなか読み始められず、『『罪と罰』を読まない』を読まない、という情けない状況が続きました…)こちらのブログも、グフグフ♡と書き始める瞬間を楽しみにし続ける一方で、なかなか手をつけようとしないというケッタイな有様が今後も予想されます。そこで、冒頭に書いたこのブログを始めることを勧めてくれた知人と、最低でも2週間に1回のペースで更新する、という約束をしましたので、そちらだけは守っていきたいと思っております。これからどうぞよろしくお願いします。


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