第9夜 まち・地域の関係性と建築 伊藤維×市川竜吾×能作淳平×廣岡周平+工藤浩平全体ディスカッション

第9夜は「まち・地域の関係性と建築」というテーマです。今日は、建築単体だけではなく建築とその周辺のコンテクストなど、より大きな視点から考えられればと思います。どのように建築がその周辺に対して関わりを持てるか、ということをオブザーバーの工藤さんを含め、伊藤維さん(伊藤維建築設計事務所)、市川竜吾さん(建築築事務所)、能作淳平さん(JUNPEI NOUSAKU ARCHITECTS)とお話しできればと思います。

TOPIC 1|凄い街をめざして(廣岡周平/PERSHIMMON HILLS architects)

TOPIC 2|ハイブリッドを軸に建築を考えること (伊藤維さん/伊藤維建築設計事務所)

TOPIC 3|そこにある技術と動的な場(市川竜吾さん/建築築事務所・東京都立大学)

TOPIC 4|クリエイションが持続するガバナンス(能作淳平さん/ノウサクジュンペイアーキテクツ)

(以下、ディスカッション)

建築家の職能の拡大。いろいろな方と関わりながら、それでも建築として表現する。

廣岡|全般を通して、一つのプロジェクトだけの説明ではなく、プロジェクト同士をつなげながら活動を語っていたのが印象的でした。これまで建築家が技術や経験を語ることはあまりなかったのですが、そこを語ることがこれからは重要なのかもしれません。同時に、今日の発表者の皆さんは、多年代の人を巻き込みながら活動をしている印象がありました。その場をセッティングすることが重要なのはもちろんなのですが、最終的に物質化したときに何が言えるのか、という挑戦もされていますよね。活動を作りながらも、建築家としても戦っていて、いまの時代の価値観を残す旅路でもあるような気がしました。
工藤|建築を発表する際に、何をどう表現するのか、ってすごく難しいと思っています。伊藤さんに聞きたいのですが、基礎の立ち上がりやモデュール、フェンスの取り合いなどの表現について、教えて欲しいです。
伊藤|ハイブリッドという表現を明確に言語化する前になんとなくイメージするような感覚で設計をしていました。普通のことの組み合わせの中で、できるだけ手数を減らして良い表現をすることを求められたような現場でした。その手数を減らす、ということを楽しみ、目の前にあることにどうリアクションするのかの組み合わせで設計が積み重なっていったような気がします。一貫していたいというよりも、色々な振れ幅で物事に触れて、それでも建っているみたいな感じです。U-35(※)で試みたことは、ハイブリッドで建築を考えているという態度の表明なのかもしれません。でも実際、まだまだ学び続けている段階でレクチャーをするという難しさもあります。(※大阪で開催されたUnder 35 Architects exhibition 2019)

能作|最近、ようやく悩んでいることを人の前で表明するようになった気がします。悩みというか、考えていることとしては、運営の問題があります。建築が出来上がるデザインの前のプロセスはこの10年くらいでだいぶ議論されるようになってきた気がするのですが、竣工後の話はまだそこまで触れられていない印象があります。個人的には、その建物の前後、プロセスも運営も等価な感覚を持っているのですが、一方で、運営に関しては特に、他者にビジネスと捉えられてしまう部分もあります。

お金の価値とは何なのだろうか。

廣岡|ビジネスという言葉が正しいのでしょうか。対価にはいろいろな価値があって、それはお金を得ることだけじゃないと思います。近くの人が野菜をくれるなどのローカルな信頼も大きな価値だと思いますし、報酬のあり方ももっと多様でいいと思っています。
少々話は変わるのですが、市川さんは、研究者としての活動の側面を持ちつつ、伊藤さんはいろいろなプロジェクトをつなげること、能作さんは企画運営まで関わるという、3者3様の違いがありました。僕は最近、高級住宅とか高級路線に対して、そもそもそれを否定すべきなのかどうか、悩んでいます。みなさんは条件の中で最大の効果を出すプロジェクトを実施していると思うのですが、条件が変わったとき、特に少し予算ができた時など思考がどう変化するのか、気になりました。
市川|鋭い質問ですね。一建築家としての思想としては、そこにあるものを使うことで、技術が発掘されたり、その場所の持続性に繋がることとかを大切にしたいと思っています。ちなみにコミュニティ計画者は、できるだけお金を使わないようにするそうです。お金はあくまで何かを交換するときに必要ですが、お金がないときに何を交換するのか、ということを考えるのが重要、という思考にすごく感銘を受けました。
能作|僕は、お金以外にも価値の指標を持ち、対価の種類を混ぜるようには心がけています。経済合理が強い現代社会で、お財布を2個持っている体制を作ることを重要視しています。個人的には、ものづくりをお金に縛られないでするために、商店をやっているという感覚はあります。先程の話で言うと、例えば豪邸建築を設計するとしても、お金の流れ方を変えると作品にも新しい視点が加わる気がします。
廣岡|アイデンティティを交換することで縁が生まれますよね。建築物の所有者がただ満足するだけでなく、交換の原理が優先されることで街の人との関わりが生まれる可能性があるのではないかと思います。
能作|トレードの点のデザインが重要な気がします。寄付する先をデザインする。というのもあるのかもしれません。
廣岡|名誉欲が威厳に変わってしまうとまずいのですが、良い名誉欲を刺激するのがいいのかもしれません。役場の仕事が富の再分配なのであれば、モノのディレクションを一緒に行う建築家の職能が大切な気がします。
能作|小さな規模ではクラウドファンディングは有効ですよね。寄付とか投資、運用とかを街に対して行う動きが増えるといいですね。
廣岡|資本主義だと利益をあげた人が自身のために使う流れがあります。売ったら価値があるけど捨てたら産業廃棄物になってしまう現代社会において、伊藤さんのように産業のプロセスに介入していくことは重要な気がします。
伊藤|実は岐阜に事務所を構えた理由の一つに、活動に倉庫が必要だったことがあります。なので、ここまでディスカッションしていたお金の話に加え、場の話も密接に関係しているんだと思います。
市川|商業の価値にのらない野菜が安く売られてしまっているように、いわゆる廃棄物に新しい価値を与えることができるのは、デザインにしかできないのかもしれません。

モノを作ること、プロジェクトをデザインすること。

工藤|市川さんはモノを作ることに対して凄いこだわりを持っていた印象がありますが、今は研究に軸足をおいた活動をしているとのことでした。
市川|正直、モノをデザインする側から関係性を考える態度と、関係性からデザインを考える態度は、意外に隔たりがあると思っています。ちょっと前まで、それを一致させたい葛藤があったのですが、今はそれを分けてプロジェクトごとに求められている役割で参画するという感覚です。少しずつ両者の間が小さくなるようトライアンドエラーをしつつ、未来にむけた意識を育んでいます。能作さんや工藤さんも、そう言った意味で様々なことに挑戦している印象を受けました。
能作|最近、専用住宅ではない住宅のあり方、例えば兼用住宅や家開きなど希求していまして、専用住宅のようなお金の末端に位置して流れが無いものはちょっと避けていますね。。でも潔癖になりすぎるのもよくないですよね。市川さんのこの「分ける」という姿勢は、ものすごく参考になりました。
工藤|僕は建築家がモノを作るプロセスをきちんと把握できていないことに危惧を感じています。親が施工会社をやっていることもあり、施工に関するコンサルみたいなことをしようと考えています。
廣岡|作ることの日本における自給率は大切だと思います。日本におけるアルミの消費量は世界一なのですが、それに建築産業が担っている部分は大きいと思います。施工過程でどうデザインするのかも含め、広い視野で物事を整理していく必要があるのではないでしょうか。
市川|最後に伊藤さんに質問したいのですが、伊藤さんは海外を見て日本での活動を再開したと思うのですが、建築家自身の態度などの今日の議論はどのように映るのでしょうか?
伊藤|いわゆる「建築家」として期待されている役割が割とはっきりしているという意味で、大きなお金が動くプロジェクトの際に出てくる苦労が、ヨーロッパだと比較的少ない印象を持ちました。でも、多かれ少なかれどこの国にも問題や苦労はどこかの次元でありますよね。一方で、活動のあり方という意味で、日本の建築家が一番有機的で複雑なことをやっているというような感覚もあります。西欧は物事をはっきり表現することが多い印象もありますが、日本はもともと大工というか、アジア的価値観が大きい。戦後の政治や行政などの社会システムを含めた考え方として、輸入された職能としての建築家がどう振る舞う必要があるのかは重要な視点だと思います。
市川|建築家という職能が輸入されてブラッシュアップされているのですが、どこか大工的な職能に近づいてきている感覚はあります。
廣岡|ちょっと角度が違うのですが、今取り組んでいる住田町の現場の型枠業者が農家兼型枠業者なんですよ。
能作|確かにメンバーシップが限られているからやらなきゃいけないことが多い気がします。現代社会では副業を推進していますが、田舎に行くと当たり前にそういう現象を許容している姿に驚きます。
廣岡|時間が経つのは早く、もう25時を回っています。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました!

(編集:佐藤布武、中井勇気)

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