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「ゆめおさんの家」 はらまさかず

「ゆめおさんの家が、また見つかったよ」
ある日、沼水さんから電話がありました。
『ゆめおさん』と、ぼくらが呼んでいるのは、建築家の夢尾五郎のことです。
といっても彼のことを知っている人はほとんどいません。
趣味で建築家をしていたのですが、彼の家はどれも普通だったので、誰も気にとめなかったのです。長く住んでみないと、彼の家の良さはわからないのでした。
「すぐいく」

ぼくらは、早速待ち合わせて、その家に行ってみました。
それはやはり、普通の家。
家主さんは、
「わたしも、この家が、建築家の方にたててもらっただなんて知りませんでした。ただ、ちょっと変わった家だなって」
といいます。
「どこが変わってるんですか?」
「実は、年に一度だけ。毎年、暑さがやわらいで、雨がふり、空気に初めて秋のにおいがした日。夕方に、階段がのびるんです。そうそう、ちょうど今日みたいな日」
家主さんがそういい終えると同時に、玄関にさっと、下へいく階段が伸びました。
「あっ」
ぼくらが驚いていると、
「さ、どうぞ」
家主さんを先頭に、ぼくらは階段をおりていきました。

そこは、とってもにぎやか。
夏祭りが、終わる前のような。
家のなかではなく、外にいるようです。
「今年はコロナで寂しかったから心配してたんだけど、ここには長い間の、夏の記憶がしまわれているんだなあ」
家主さんがいいました。

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