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トニカクカワイイ

 トニカクカワイイという漫画がある。面白いのだけれどその面白さの構造もちょっと面白いので書いてみようと思う。

 14巻までは思わせぶりな描写はあっても基本主人公カップルがただいちゃつくだけの漫画だ。「からかい上手の高木さん」の系譜といえば伝わるかもしれない。主人公カップルはいきなり結婚する、という設定なのにヒロインの背景はほとんど語られない。

 そして15巻で隠されていたヒロインの背景が明かされる。16巻以降は明かされた背景を生かした内容が描かれ現在17巻が発売されている。そしてこの15巻以降が特に面白い。

 要するにこの漫画は前振りに14巻というページ数を突っ込んでいる。前振り=カップルのいちゃつきだけで読ませるだけの内容はあるのだけれど、それでもなかなか贅沢な構成である。いつ打ち切りになるか分からない漫画という媒体でここまで引っ張るのはかなりの度胸が必要だ。

 テコ入れのや方針転換結果として漫画の前半が前振りだったかのようになる作品はわりとあるのだけれど、トニカクカワイイは最初から狙っている。そうでなければあのオープニング(1巻)にはならない。何巻前振りをやるか、は調整可能な設定ではあるけれど。14巻という巻数は前振り部分だけでそれなりに好評だったからだとは思う。

 そして、15巻以降の展開が面白いのは前振りに十分な長さがあったからだと思う。前振りが2巻くらいで現在の展開に入っていたら、さほど印象に残らなかったのではなかろうか、と。

 「壊される日常」描写が映えるのはその日常描写が十分に濃いか、長いときだ、と思う。トニカクカワイイの場合は、壊されるというよりは「変化した、でも変わらない日常」みたいな構成だけれど。まあ、表現はどうあれ、前振りである14巻は成功したと思う。

 あと、トニカクカワイイが面白いのは「背景は明かされたけど、それはそれ」として前振りパートであるいちゃつきに戻れるという構成もあると思う。割と大き目の伏線とその回収があっても、変わらないお話はつづく、みたいな。

 そういえば脳噛探偵ネウロって漫画は連載期間ごとにプロットを用意していたって話(最終巻あとがきより)だけれど、これも最初から全体の構成を意識していた漫画だなあ。これも面白い漫画だ。同作者の暗殺教室よりちょいとグロ寄りではあるけれど、それは好みの問題だろう。

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