[日誌]5月3日『木星からの物体X』1 切削作業Ⅰ

 私は稽古場が初めて行く場所のとき、大幅に早く着いてしまうタイプの人間です。今回も開始時間の30分以上前に着いてしまったので、周囲を徘徊して見回し、頃合を見計らって稽古場に入る。
 「これからはここが多くなる」とすでにベンチに座っていた犬飼さんはおっしゃる。徘徊のチャンスが減ってしまうことに少し残念な気持ちになる。
 稽古開始時間を少し過ぎて出演者の方々が揃う。挨拶がてら、私のTシャツの立体感が話題になった。どういうTシャツかを文書化するのは至難の技だが、これからの稽古で着ていくTシャツのハードルが上がってしまったことは確かだ。

 『木星からの物体X』は過去に二回、早稲田小劇場どらま館とテアトロコントで上演されていて、本橋さんはどらま館、浅井さんはテアトロコント、西山さんはその両方に出演している。私はその2つとも実際に拝見していないため分かりかねる部分も多いが、どうやらその2つの演出の方向性が少し異なっていたようだ。今回はどの方向性でいくのかという話題を西山さんが出す。犬飼さんがおっしゃるところには「携えている刀を抜こうとして抜かない」感じらしい。
 出演者全員が一度は上演を経験しているため、一度軽く読み合わせてた後はすぐに立って稽古を繰り返す。全体に対する細かい修正や指示の中で、話題は本橋さんの話し方に集中した。

 「言う内容よりもその場にのせる」「言葉の意味よりも状況をみせる」「台本を信じないことで、普通なら無意識に存在するニュアンスのようなものを捨てない」等々さまざまなことばが尽くされていたが、中心は主にリアリズム的な演劇の中に突如現れる「不自然」をどう効果的にみせるかということのような気がした。
 「自然な」演技というのは普段の日常生活という大きな目標ないしは前提があるため、そこに限りなく近づける、あるいは限りなく近づいているように観客にみせることである程度達成させるものである(それが簡単というわけではないが)。一方でそのようなリアリズムから逸脱するような言動――例えば今回なら突如観客は話しかけるようなメタな言動――は何を目指すのか。そもそも何かを目指すものなのか。本橋さんのやることはそのような難しさを孕んでいる。

 稽古終盤、その「不自然」を際立たせる一つの側面として「小道具」というテーマが挙げられた。これはどらま館公演での記録や今回の他の稽古でも話題に上がっている。これを宿題に今回の稽古は終わる。

追記:本橋さんからの差し入れのヌテラのディップが非常に美味しかったのだが、ヌテラの知名度が微妙だったのでここに記す。

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