映画評 中島哲也『告白』

2022年度「サギタリウス・レビュー 現代社会学部書評大賞」(京都産業大学)

自由部門 特別賞作品

「与えられた理想は凶器になる」

野村紗香 現代社会学部現代社会学科 2年次

作品情報:中島哲也『告白』(2010)

 『告白』は「少年犯罪」「いじめ」「家庭内暴力」「感染症」などのさまざまな社会問題をテーマに、登場人物の罪を独白形式で表現した作品である。

 中学校の担任を務める森口悠子は、冷淡で現実主義者である。そんな彼女が終業式の日にある"告白"をした。それは自分の娘を生徒AとBに殺されたという衝撃的な内容であった。名前さえ伏せられていたものの、森口が発する犯人の特徴で生徒はおおよそ誰が殺したか察していた。生徒Aは自作の電気ショックで娘を気絶させ、Bが娘をプールに投げ入れて殺害した。森口は二人に対して復讐を宣言し、学校を去った。

 ここからは生徒Aや生徒Bらの告白が独白形式で披露されていく。生徒Aこと修哉は工学の研究者である母を持ち、夢のために自分を捨てた母親に執着していた。工学で純粋に称賛されることよりも、残酷な事件を起こす方が世間は注目するということに気づいてからは残虐な行為を厭わない。生徒Bこと直樹の家庭環境は非常に良好であり、母親から無償の愛を受けている。ところが冴えない自分にうんざりしていた。子供ならではの視野の狭さや単純さから引き起こされるエゴイズムは時に残酷で全てを狂わせる。

 登場人物それぞれの欲望や孤独から生み出される「罪」の連鎖は、最悪の形でクライマックスを迎える。

 この作品は少年犯罪を通して、それを取り囲む社会問題までも広く取り扱っている。特に育児に関する描写が多く見られる。作中ではDVや育児放棄をした母親、子供に過剰な期待と愛情を与えたがために精神崩壊した母親、一般的な母親と三人の母親としての葛藤を事件と関連付けて描くことにより、育児の難しさを訴えている。

 この作品は内容だけでなく映像のバリエーションが豊かで芸術的である。作中では時折フィルムカメラで撮ったようなシーンが散見される。それは少年少女の儚さや、誰もが抱えるノスタルジックな気持ちを表現しているのではないだろうか。また基本的に映像の明度が低く、陰影を利用したシーンが多く見られるため、暗闇の中でもがき苦しむ登場人物の心情が表されていると感じた。まるでホラー映画のようにクラスメイトが発狂するシーンや、容赦のないいじめの描写は学校や社会が抱える異常さの暗喩である。

 ポップでグロテスクな映像観であるため賛否が分かれるだろう。それゆえにこの作品は15歳以下は見ることが出来ない。指定が付いたことは仕方ないが、取り扱う内容や作者が伝えたいメッセージは親世代だけでなく、青年たちに向けられているのではないだろうか。ターゲットの層に伝えることが出来ないもどかしさが非常に残念な点である。またこの作品を彩るポップな映像演出は時に空回りしているように感じた。内容の奥深さを上回る過剰な映像演出は、視聴者の集中力を欠き、映画としての本質を見失っているように思える。

 この作品を通して現代社会が抱える闇や課題を紐解くことができる。『告白』のテーマである「少年犯罪」「いじめ」「家庭内暴力」「感染症」は日常に潜み、決して目を逸らしてはいけない課題だ。十年前の作品でありながらもSNSの発達による誹謗中傷、若者の自殺、新型コロナウイルスなど今も形は変わりながら、社会問題の本質を突いているのではないだろうか。

〈審査員の評価ポイント〉
批評はもちろんのこと、作品を通じて社会問題を見つめ、映像効果や演出からその意図を独自に考察しており読み応えのあるものだった。

©現代社会学部書評コンテスト実行委員会