夜風見、天啓を受ける

 日に二つ、多ければ五つのアイデアを身勝手に生成する私の脳であるが、制作速度と気乗りと完成ビジョンの観点から、それらが形になることは殆ど無い。物理的、計画的、精神的不足を乗り越えて初めて作品として着手することになる。
 まず精神的不足、即ち気乗りの壁を超えたアイデアのみが次の壁に行けるのだが、日々生まれるアイデアの90%がここで脱落する。倍率十倍の難関である。今までの作品の全てはここを乗り越えてきた。
 その後でようやく完成ビジョンの壁へと行き着ける。ここを超えられないが、非常に意欲的なアイデアが湧いてきた場合には、それは熟成されながら数ヶ月の時を経ることになる。途中で意欲まで途切れてゴミ箱行き、ということもあるが。
 完成ビジョンまで完成した場合は、いよいよ物理的に作業時間、制作速度との戦いとなる。時間が無い場合には泣く泣くここで足踏みする上、ここでの制作優先度は気乗り度合いに左右されるため、ここで腐っていく作品も数多存在する。

 さて。未だ完成ビジョンすら描けぬ見切り発車で始まったものの、高すぎるポテンシャルと意欲から半年以上寝かされていたプロジェクトに「Illusion of a missing summer」というものがある。小説を先行作品として、その後に楽曲を数曲添えるといった物語形式の作品群なのだが、あらゆる点で考証が必要だったためにいつまで経っても完成ビジョンまで辿り着かないという牛歩の進捗を見せてきた。いよいよお蔵入りも近い、と呻きながらアイデアを捏ね回すこと数ヶ月。もはやどうにもならないと思っていたその時だった。

 夜風見、天啓を受ける。

 俗に、3B(バス、風呂場、ベッド)と呼ばれる場所では思いがけぬ発想が降り立ちやすいという。その要領で、長風呂すること40分の夜風見にいよいよ天啓が降りたのである。
 そのお陰で、完成ビジョンと制作速度の壁を二段飛ばしで乗り越え、遂に着手に至ったということをここに報告する。

 元々、夜風見は音楽の土壌のみならず、一定数風景画や脚本、小説を作ってきた人間だ。最近一年はずっと音楽ばかりやっていたため、そろそろ他のこともやっておいて肩慣らしをしないとゆるゆる腕が腐っていきそうな気がしたのである。
 現在は執筆のための文献を集め、隙間の時間で目を通しながらプロットを書いている。恐らく連載になるだろう、一定数を描き溜めてから週ごとに出すかもしれないし、途中で投げ捨てるかも知れない。全ては未来の自分次第としか言えないが、結末から逆算して作られているため展開が迷走して放り出すことはないだろう。ほぼ確実に投げ出すときは、飽きたときに他ならない。

 今後、小説もやっていけたらな、という願望の話であった。ただ、それだけではあるものの、上手く行けば誰かしら何かしらに巻き込める気がしたため、だらだらとご報告しておく。

 一応ジャンルについて明示しておくと、
「夏と狂気と少しラブロマンス」みたいなものになる。うん。ラブロマンスを主成分としたサイコホラーだろう、現時点ではそうなる。

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