秋深き隣は何をする人ぞ④
さて、また続き。
大学に進学した世間知らずの少年を待ち受けていたのは世界の広大さだった。
4月はどこの大学も同じだと思うけれど、新入生をサークルに勧誘するためのライブが学内の至る所で行われていた。
そこで18歳の青年は、今まで見たことのなかったものに数多く遭遇する。
SRVスタイルのブルースを轟音で弾き倒す人、満面の笑みでひたすら速弾きする人、野外ライブでノイズインプロの傍ら木に登り始める人…。
なんだこの世界は。
そう、おれは普通の人だったのだ。
決定打になったのは、ふとしたきっかけで知り合った学科の同級生が、自分なんかと比べ物にならないくらい素晴らしいギターを弾いたことだった。
当時から今に至るまで、本当に彼には敵わないなとずっと思っている。
結局大学ではその同級生とブルースのサークル(とは名ばかりで、古めの音楽を主としていたという程度)に入り、だらだらと音楽を続けることとなった。
そのサークルは全員が本当に音楽を大好きなのだけれども、普段は酒を飲んでばかりで、たまに学祭や追いコンに向けてその時限りのバンドを組んだりするような、つまりはとてもゆるい集まりだった。
すると、どこのサークルも似たようなものだ(と勝手に思っている)けど、バンドを組むのにあのパートが足りない、このパートが足りないみたいなことがよく起きる。
バンドでベースやドラム(時にはキーボード)を弾くようになったのは、そんな流れからはとても自然だった。
ここまでで書いてきたように、ギター以外の楽器もたまに弾いていたし、他の楽器を弾くことで音楽の捉え方が広くなることも知っていた。
だから頼まれたものはほとんど断らずに、やれることはなんでもやるというスタンスだった。
そんなこんなしている間に、ベースを弾くことの面白さにだんだん目覚めていった。
サークルが曲がりなりにもブルースのサークルだったためか、周囲の友人の多くがブラックミュージックに傾倒していたのも、ベースの魅力に気づいた理由の一つだと思う。
そして学生としての時期を終える頃には、自分のアイデンティティはベーシストになっていた。
まだ続くよ。
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