[小説]不死身-欲

私たちの体は不死身だ。肉体が朽ちることもなく死ぬ事もない。文字通り永遠の命を手に入れた生物だ。

生物学的にはホモサピエンスとかいう私たちの体そっくりな生物が進化した結果が今の私たちではないかと推察されているが、はっきりしたことはわかっていない。
そもそも私たちの世界はわかっていないことが多すぎる。一体私たちはどこから来たのか、どうやってこの社会が作られてきたのかもはっきりとはわかっていない。ちゃんと生真面目な人が紙に書いておけば済むはずなのに呆れる事に、それすらも私たちにはどうやらままならないらしい。

歩いていると一人のお洒落な綺麗な女性に会った。
「こんにちは。とっても素敵な鞄ですね。」
「こんにちは。ありがとう、この間の仕事のボーナスに買っちゃったんだ」
笑顔で彼女はそう言うと彼女は私を頭から爪の先まで一通り見た。
「もっと素敵なお洋服を着れば、あなた、もっと素敵になると思うわよ。素材は良いんだから、もったいないわねぇ」
初対面の人に随分とズケズケものをいう人だと思ったが、おっしゃる通り私はコンビニに行くような格好をしていたし、彼女はとっても煌びやかなお洋服に包まれていた。
とりあえず疑問に思ったことを聞いてみる。
「”もったいない”って、何が”もったいない”んですか」
不思議そうな顔をして質問した私に対して彼女も不思議そうな顔をして答える。
「何がって、もしあなたがもっと素敵になれば、どうなると思う?」
私が答える前に彼女は答えた。
「もっといろんな人から愛されるようになるわよ。いろんな人があなたを認め、受け入れてくれることになる。それって素敵なことじゃないかしら」
「確かに誰かにそうして貰えたら、とても嬉しいです」
素直に納得した私がそう答える。
「そうでしょう。私はそれこそが生きていく上で最も幸せなことなのだと思うの。誰かに愛される、必要とされる、認めてもらう。そうされたい、だから努力する。私がもっと素敵なお洋服や化粧をすればもっと誰かは私を愛する。私がもっとたくさんな事をできるようになってスキルを上げれば、もっとたくさんの人が私を必要としてくれるわ。そうやって色々なことをして積み上げていった私の実績によってたくさんの人が私を認めてくれるようになるの。私にとってそれはとても幸せなことのなのよ」
彼女の目はとても輝いていて、私は羨ましかった。
「あ、もう行かなくちゃ、それじゃ」
そう言って立ち去ろうとする彼女に慌てて聞いた。
「あの、どうすればあなたのように幸せになれますか」
振り返って彼女は言った。
「あなた仕事はしてる?」
「いいえ」
「仕事は良いわよ。全ての望みを叶えてくれるわ。本当にもう行かなくちゃ。話せて楽しかったわ、さようなら」
「さようなら」

そうか、仕事か。一人そう呟くと私は歩き始めた。


それから私は仕事をするようになった。とにかく働いた。彼女の言っていたことは本当だった。仕事をして給料をもらうと、そのお金を好きなことに使うことが出来た。美味しいものを食べたり、行きたいところに行ったり。素敵なお洋服を買って、それを着ていると周りから声をかけてもらえることが多くなった。素敵なお洋服だと、とても似合っていると。嬉しかった。

一生懸命仕事をしていると出来ることが増えていく。次第に職場の同僚からも信頼されるようになった。あの人は仕事が出来ると。困ったらあの人に聞けばいい。そうやって頼られるようになった。

仕事をたくさんこなしていくとその実績が評価されて認められるようになった。嬉しかった。自分は幸せだと思った。そう思いながら数百年仕事をしてきた。

仕事帰りに歩いているとある男性に出会った。



この話の続き


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