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神号!3詩人の「詩とは何か」が読める。『詩人会議』11月号

▶草野信子さん、瀬野としさん、上手宰さんによる詩作アドバイス

 今月号(2023年11月号)の『詩人会議』は、特集「表現のよろこび―詩を書きはじめたひとへ」ということで、初心の方へのアドバイスが満載です。

 前半ページの詩作品18篇は、多彩な詩人たちが、詩を作るよろこび、苦労、どんな気持ちで詩を書いているのかなどを題材とした作品が並び、共感したり、ハッとしたり。連載コーナーも「詩の実作教室」「詩作案内」「詩作入門」と、詩を作る上でのヒントがてんこ盛りですが、なんといっても目玉は「エッセイ」コーナーです!

 今月号のエッセイは、草野信子さん、瀬野としさん、上手宰さんのお三方による詩作アドバイス。このお三方が来たか!、なんという豪華チョイス! 私の憧れの、凄腕の、素晴らしい詩を書かれるお三方の、保存版エッセイです。

▶草野信子「若いひとたちに語りかけたこと」

 草野信子さんは「若いひとたちに語りかけたこと」と題して、ご自身の詩「カレーライス」を題材に大学(教育福祉学部)で行った講義の内容を書かれています。

「カレーライス」草野信子

カレーライスを
ひとにめがけて
ぶっつけたことがある。
一瞬
泣きそうな顔をみせて
そのひとは
皿を拾い
ごはん粒を拾い

ごはん粒を拾い
胸のカレーを拭いた。
こするほどに
黄色い染みがひろがって
食べ汚した幼な子のようだった。
それから
ゆっくりと
トレーナーを脱ぎ

トレーナーを脱ぎ
裏返して
それを また
すっぽりと着たのだった。

記憶が匂いを放つので
カレーライスの日は
あの夜
私を送る電車のなかで
「匂うね」
と 笑ったひとを
思い出す。

ひょいと
トレーナーを裏返せば
何もなかったのも同じ。
くらしとは
そのように
許すことなのだと
私にもわかった
いくつもの
いくつもの夕暮れの中で。

草野信子「カレーライス」

 詩や文学が専攻ではない学生さんに向けて語られた、行替えのこと、連のこと、書いたものの中に<詩>があるかどうか、などは、詩を作る者が読んでも当然わかりやすく、むしろ、草野さんの洗練されたお考えを端的に知ることができて貴重です。
 学生さんから受け取った感想(授業のレポート)に対して草野さんが書かれたお返事がなにげに深くて、何度も読み返してしまいました。

▶瀬野とし「詩を読み詩を書く楽しみ」

 瀬野としさんの「詩を読み詩を書く楽しみ」では、まず最初に中桐雅夫『詩の読みかた詩の作り方』の中から、三好達治「雪」をどう読むか、4人の詩人(阪本越郎、伊藤信吉、安西均、中桐雅夫)それぞれの解釈を取り上げた上で、瀬野さんご自身の解釈を紹介しています。

「雪」三好達治

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

三好達治「雪」

 さて、この太郎と次郎は同じ家にいる?、別の家?…私もこの「雪」が大好きですが、偉大な詩人たちと私の解釈は全然ちがいました(笑)。たいへん面白かったです。でもそのように、違うことの素敵さをあらためて実感させてくださる内容でした。

 瀬野さんご自身の詩「打楽器」も掲載されています。インドの古い打楽器に人間の頭蓋骨を使っているものがあるそうで、それを題材に作られた詩です。憎み合った人たちが、愛し合った人たちが、結ばれなかった人たちが、死んだあとに奏でる音色。今見えている世界がぐっと広がるような、とても素敵な詩です。

▶上手宰「ててっぽっぽうの聞こえる朝―詩の中の事実と虚構」

 書き出しからクスっとしてしまいます。こうやってユーモアを入れるのも、上手さんならではの読み手に対する配慮ですね。本当に、すごい方だと思い知らされます。

 今回のエッセイは特に、上手さんがいかに繊細に気を配って詩をお作りになっているのかが大変よくわかる内容で、もしかしたらこちら↓の詩集の奥義が書かれている…?といってもよいのではないかと思います。

 「文は嘘を製造できる装置」「詩と小説の嘘の許容度」「齢端の行かぬうつくしいむすめ」「詩は誰もが知っていることを言う」「事実か虚構かの判定を超えて」の各章には、詩とは何かを考えるヒントが満載です。私は、詩は小説と違って現実と陸続きの臨場感が支えている世界であることや、詩が嘘を作れることを逆手に取った例などに深く感動しました。

 また、上手さんが一番好きな愛の詩として取り上げた永瀬清子「あけがたにくる人よ」についての考察は、詩作に迷ったらここに戻ってくればいいというような内容で、2ページ弱の文章ですが膨大な情報量。この詩は、愛する人と駆け落ちを約束したその朝に、その人が来てくれなかった心情を書いた詩です。そのことに対して永瀬清子は「あけがたに誰かがくると云えばこの「詩」が来てくれた事が一番あたっていると云えよう。」と述べました。愛する人ではなく、「詩」が来てくれた。これに上手さんは「胸を打たれた」とおっしゃっていますが、私もとても胸にグッときました。「世界は書かれたことのないすばらしい「当たり前」に満ちている。」という上手さんの言葉にも感激。うまい言葉ではなくても、自分の言葉・自分の感覚と向き合って詩を書いていこうと励まされました。

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