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映画『歩いても歩いても』

ありふれた家族の、ありふれた毎年の集まりを描いた映画。是枝監督の他の映画に比べても展開が少なく、平凡な家族の集まりを淡々と描いていく。

でも、単にすぐそばにある幸せを説くようなほのぼのした映画じゃなかった。

仕事人として生きてきた父の腕の無さが露呈したり、家庭に尽くしてきた母に秘密の趣味があったり、息子の嫁をやんわりと拒絶する家族だけの領域があったり...。

和やかな「家族」の建前と、その奥でそれぞれが少しずつ隠している本音のギャップがリアルすぎて、終始ヒリヒリした。

そしてそれでもこの映画がどこかじんわりと温かいのは、そのさらに奥にある家族思いな本音が垣間見えるからだと思う。例えばこの映画で印象的な料理のシーンには、家族の健康を願う気持ちが感じられる。そして好きになれない所があっても不器用に家族の建前を維持する努力自体、結局家族が好きだからなんだろうなぁと。

映画の最終盤では、10年後くらいの家族の様子が少しだけ描かれ、そこではいくつかの変化が見てとれる。でもその変化に至るまでの経緯を描かずに余白を観客に想像させるところが、ドキュメンタリー出身の是枝監督ならではの品の良さだと思った。

タイトルは、母がこっそり1人で聞いている曲の1節。これも文として完結せずに余白があるところがいい

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