「美味しんぼ」のフレームでゲーム業界話を書いてみた。

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俺は、ただ言わずにはおれなかっただけさ
美味しんぼ / 雁屋哲・花咲アキラ


東西新聞ゲーム部。
社運を賭けた「究極のゲーム」を作る為、やる気のないグータラ社員のヤマオカが愛人のクリタと共に記事の担当になる。

【第三話】
若手プログラマが作ったゲームのミドルウェアにバグが見つかった。しかし、ミドルウェア会社に問い合わせるが返事はない。困った若手の前に現れたのは、飲んだくれの窓際中年社員。実は彼は、昔、レンダラをイチから書いていたスーパーエンジニアで……

【第四話】
自社ゲームを配信する Youtuber に対して「著作権ガー!」とカリカリ言うトミイ副部長。新作宣伝中に「Youtuber は盗人だ」と発言し、炎上。ヤマオカは「ああやってファン層を広げてもらっているのも事実」とトミイ副部長を諭す。反省したトミイ副部長は、自ら Youtube チャンネルを開始し、失敗するのであった。

【第十二話】
東西新聞ゲーム部が開発したインディーゲームの発表会。有名海外アーティストを起用した超美麗ギャルゲーを発表するヤマオカの前に、傲慢な態度のカイバラが現れる。彼は超有名プロデューサーであると同時に、ヤマオカの父でもあった。ヤマオカの作ったギャルゲーに対し、カイバラは Twitter で見つけてきた無名イラストレーターに同じ絵を描かせる。その絵のデッサンは酷いものだったが、会場の男たちの性欲を煽る絵だった。カイバラは「本当の欲情は何か」をヤマオカに問う。

【第十八話】
とあるゲーム会社で作られているソーシャルゲーム。UIチームのリーダーが Photoshop で拡大した画像をそのままメニューとして利用していた。ボヤケたボタン、甘いエッジ処理……それを見たヤマオカは「本物のUIを見せてやる」と、ドット打ち職人を連れてその神業を見せる。

【第百三十話】
大手メーカーからの昔の名作アーケードゲームの移植が発表された。期待していたヤマオカだったが、体験版を遊んで愕然とする。オリジナルのタイトル画面、削られた Insert Coin、追加された新アニメムービー……ヤマオカは「完全移植」がどういうものかを、大手メーカーのプロデューサーに思い知らせる作戦に出る。

【第五百四話】
東京ゲームショー開催委員会。委員長であるカイバラはコンシューマー原理主義者であり、ソーシャルゲームを会場から締め出そうとしていた。それに異論を唱えるヤマオカ。二人の推すゲームのどちらが人気があるか、会場の投票で決める事にする。その結果、カイバラの推すコンシューマーゲームが圧勝。勝ち誇るカイバラだったが、会場からの帰りにソーシャルゲームのコスプレイヤーを見て、自身がセフィロスのコスプレを楽しんでいた事を思い出し……

【第二万八千四百話】
インディーゲームフェスティバル。いつもいがみ合っている学生クリエイターAとBがいた。Aの作るゲームは「ゲーム性」を突き詰めた作品で、Bのゲームはいわゆる「雰囲気ゲー」。AはBをいつもバカにしていたが、フェスの当日、Aのゲームは「グラフィックが汚い」と酷評される。二人の前にヤマオカが現れ、プロはゲーム性も雰囲気も両方大事にしている、と説教。Aは反省し、Bと共同でゲームを作る事になった。

【第一億話】
トミイ副部長の息子がひきこもってゲームばかりしている。困ったトミイはヤマオカに相談。ヤマオカは無理やり息子を連れ出し、とあるゲーム会社に連れて行く。そこは、息子がプレイしていたゲームの制作会社。会議室に来たのは息子が憧れる有名ゲームクリエイターだった。有名ゲームクリエイターは「若い頃はゲームだけじゃなく、他の事も色々チャレンジしてた。だからクリエイターになれたんだ」と、息子に優しく諭す。


感想。

「美味しんぼ」によく見られるフレームは「対立・問題」が起こり、「ヤマオカが解決」するシンプルな構造が基本になっているが、実のところ、最初に「紹介したいトピック」があって、それを伝える為に「対立・問題」を作り出している。

コンテクストを積み上げる人間ドラマと違い、毎回「紹介したいトピック」で物語がリセットされるので、前後の流れを考慮する必要が少なく、作りやすい。「こち亀」「ゴルゴ」等も同じ構造に見えるので、長寿作品に向いてるフレームなんだろう。

一方で、美味しんぼでよく現れる「素材重視・伝統重視」の主張は、ゲームには使いづらい。新しいゲームには新しい物なりの良さがあるので、断定的に「古い物が良い物」という正義を振り回すのが困難な為。ただそれはグルメ界にも言える事で、美味しんぼが「素材重視・伝統重視」の姿勢を貫いているのは、作品カラーの強化としては大事なのかもしれない。

美味しんぼ後期に見られる「取材ベースの連続エピソード」は、「紹介したいトピック」の枯渇を表してるかもしれないし、「以前よりも深堀りしたい」という欲求なのかもしれない。よくわからない。確かに、自分も序盤はゲーム業界ネタを出せるが、ある程度のところで「対立・問題」の作り方に限界が来るように感じた。というか、飽きる。単行本100巻以上のトピックを作れるのは、やはり突出した才能持っているから出来る事だ。

以上。

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