ゲーム制作者が漫画原作を終えて思う事。

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「努力の成果なんて目には見えない。しかし、紙一重の薄さも重なれば本の厚さになる」
/君原健二


原作を担当していたマンガ「君死ニタマフ事ナカレ」が完結した。

当初予定していた物語のゴールに到達出来たのは、マンガとして大変幸せ事だと思う。支えて下さった読者の皆様、編集部の皆様、そして森山先生には感謝の念しかない。ありがとうございます。

それまで、マンガの原作をやってこなかったので、大変刺激的な数年間だったなー、という事で、ちょっと振り返ってみる。


最初はいつだっけ……と検索してら、2011年初頭に編集さんからのメールが発見された。ゲーム関係の書籍の打ち合わせで、担当編集さんを紹介されて、そこでお仕事を持ちかけられたのがスタートだった。

「ニーア オートマタ」でヨコオの名前が拡散される前、わざわざヨコオを指名するメリットもなかった頃なので、当時のキッカケを作ってくれた編集さんには感謝しかない。

企画段階では、担当編集さんの好みで「萌系」というキーワードが出てきた。僕にとって全くわからないジャンルだったけれど、お仕事をいただけるのなら全くもって内容を選ばない自分なので「わかりました」と笑顔で快諾。


作画の先生は、いろんな候補の方がいらっしゃったけど、「とりあえず当たってみよう」の精神なのか、どの方もビッグネームの方ばかりだった。
その中にいらっしゃったのが、名作「クロノクルセイド」を描かれた森山大輔先生。そこで、

「森山先生とかにお願いできるならスゴイですね」

と言ったら、本当に決まってしまった。
何でも言ってみるもんだ。うん。


連載中だった森山さんのスケジュールの兼ね合いで、かなり長い間、準備期間となり、その間に内容の打ち合わせをする事になった。

アイデアを出していくうちに、自分なりの個性が出てしまい「学生ハラキリ漫画」とか「アイドル殺し合い漫画」とか出てたような気がする。「アイドル」が出てきたのは、担当編集さんがラブライブにハマっていたから、っていうのもあるけど。

で、最終的にまとまったのは以下のような話だったと思う。

 ・国家間紛争をスポーツで解決するようになった時代。
 ・選抜された学生達が国別対抗で戦うようになった。
 ・スポーツの、ルールの穴を突く形で、殺し合いが始まってしまう。

連載時の君死ニと違って、もう少しポップな国別対抗グループ対戦モノだった。そんなこんなで、ようやく固まった一話の仮ネームまで出来た段階で、当時の編集長から突然の変更指示が入り、今の形に。

変更について、良かったか悪かったとも思わない。どんな話もある程度整理すればそれなりの形にはなる事を経験上知っていたので、まあ、どっちでもあんまり変わらないんじゃないの?と思っていた。ただ、あの話が続いてたらどうなってたんだろう?とは想像してみたりする。


連載発表は2014年のTGSだった。

【TGS 2014】『DOD』や『ニーア』のヨコオタロウ氏が原作を務める漫画「君死ニタマフ事ナカレ」がビッグガンガンで連載 
https://www.inside-games.jp/article/2014/09/24/80916.html

ゲーム制作者だから、TGSタイミングで発表するのが効果的、という戦略だったと思う。どれだけ意味があったのかはよくわからない。


連載して1年後くらいに1巻と2巻が連続で発売された。

一ヶ月おきの連続刊行だったけれど、「1・2巻同時発売じゃないんですか?」って聞いたら「同時発売が売上的に効果がある、という訳でもないんですよね」と言われた事を覚えている。

これは他の会社の編集さんにも言われたので、多分、出版業界では常識的な事なんだろう。


1巻が発売される頃。僕が編集さんに頻繁に聞いていたのは「『君死ニ』は何巻まで発売できるか?」という事だった。

みんな知ってる通り、マンガでは売上が下がると打ち切りになる。
急に「次回、最終話だから」と言われてしまうといくらなんでも着地出来ないので、最低でも3話くらい前には知っておきたい。

当時言われたのは「3~4巻くらいまでは出せます」という内容だった。

なんとなくだけど「最新刊の売上が採算取れなくなった段階」で、1~2巻の猶予を与えられる、という感じに見える。君死ニは1・2巻連続刊行だったので、お尻の猶予が他よりも一巻分多かった訳だ。

ちなみに、3~4巻で打ち切られた場合は「海外派遣編」の次に「学内クーデター」につなげて終わる設計にしていた。気がする。よく覚えていない。

ちなみに、最大の巻数は「10~12巻」という話をしていた。
これは、森山さんの前作「ワールドエンブリオ」(良いマンガなので未読なの方にオススメ!)の最終巻数が12巻だったので、それを基準にしている。


打ち切りの恐怖とは裏腹に、売上は順調だった。

というか、他の作家さんの正確な売上とかは知らないので、もしかしたらすごく良かったのかもしれないし、平均的な売上だったのかもしれない。このあたり、売上が可視化されるゲーム業界とは違う文化だな、と思う。

てか、何でゲーム業界は売上をネタにしてるんだろう。


単行本が出てからは、順調、というか、編集さんからのシナリオ修正希望はほとんどなかったように思う。

ヨコオ「何か希望があれば言ってください」
編集さん「いや、面白いと思いますよ。このままで行きましょう」

という感じで。

お世辞なのか、忙しかったのか、発売して興味がなくなったのかよくわからないけれど、まあ、特にリクエストなかったのでかなり自由に進める事が出来たのは良かった、というか、ネット世界で見る「理不尽で高圧な編集者」では全然なくて、良かった。そんな人が実在するかどうかは知らない。


その後も、単行本発売のタイミングで、イベントやサイン会などもやらせて頂いた。各地の皆さんと挨拶したり、森山さんのライブドローイングを堪能したり、美味しいモノを食べたりしたのは良い想い出として残ってる。

舞台化も、ニ回もやらせて頂いた。

舞台『君死ニタマフ事ナカレ 零』
https://www.odd-inc.co.jp/kimishini/

舞台『君死ニタマフ事ナカレ 零_改』
https://kimishini-zero.com/

とても楽しかった。
というか、舞台はなんというか「その瞬間を共有する」という点が、マンガやゲームと違って、そこがすごく儚くて好きだ。


全てが順調、だった訳ではもちろんなくて。
なんというか、連載終盤に少しノイローゼになっていた。

話が考えられない、というのではない。そもそも大まかなプロットは最初に作っていたので迷う事はなかった。そういったアイデア創出ではなく、とにかく毎月毎月連続する物語を、原稿用紙の前で仕上げる、という行為がしんどい。単純に根気がない。ダメ人間。

確か7巻か8巻のあたり、つまり物語の終わりが見えた頃だと思う。

コンシューマーゲーム開発は3年程度だけど、ゲームシナリオの開発は定期的に書いたりはしない。一ヶ月放置、とかがザラにある。
ソーシャルゲームのシナリオを定期的に書く根性はない事はわかっていたので、原案・プロットだけ担当して、後はライターさんにお願いしている。

僕には、定期的に物語を作る、という体験がなかった訳だ。連載ストーリーマンガには特殊な才能が必要で、それがない愚かなゲームクリエイターは唸りながらテーブルに向かうしかない。

ストーリー物の長期連載をしている作家さんは本当スゴイな、と思う。


なので、10巻まで書ききった時は、フルマラソンを完走したような気持ちになった。フルマラソンなんてやったことないんだけど。

結果的に、予定していた部分+アルファまで描く事が出来てよかった。
毎回そうなんだけど、自分で書いた話なので、内容の良し悪しはよくわからない。

でもまあ、クロイ達の結末を描けた事にとても満足している。
一緒に走り続けて下さった読者の皆様に最大の感謝を。


「根気がないので連載モノは出来ない」と書いたけど、
また、懲りもせずに漫画原作をやらせて頂いている。

吉野家兄弟
https://manga.line.me/product/periodic?id=Z0000613

吉野家が好きで、グルメコンテンツを一度は作ってみたかった。
吉野家の企業PR漫画と勘違いしている人がいるが、純粋にヨコオが好きで、吉野家さんに許可を頂いて書いている話。
なので、吉野家の牛丼無料チケット等はもらっていない。
欲しい。

「吉野家」というワンテーマで巻数を重ねられないので、編集さんには「3巻くらいが限界です」と伝えている。

果たして3巻分なら走り続けられるのか?
グルメ漫画に需要はあるのか?
俺たちの戦いはこれからだ。

これからのヨコオタロウ先生の活躍にご期待ください。

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