朝起きれない人間が想像する、テレワーク社会の未来に残るナニカ。

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あなたのお仲間を見れば、あなたのお人柄がわかります。
/ ミゲル・デ・セルバンテス


今日も長い割には大したことない内容なので注意して欲しい。
いや、本当に。

というか note 久しぶり。こんにちは。


この前50歳になった。んだけれど、全く朝が起きられない。

小さい頃から朝起きるのがイヤで、学校に行く事が嫌いだった。
大学の時はゆるやかな生活が続き、寝坊を楽しんでいた。

ナムコに就職した直後、「ゲームを売る現場を知る」という理由で、新入社員はゲームセンターに1ヶ月だか2ヶ月勤務させられた。配属されたゲーセンはショッピングモールの中に入ってて、朝10時からオープンする。30分前にはタイムカードを切らないといけなくて、通勤に1時間かかるので、家を出るのは8時半。つまり、朝8時には起きる必要がある。

この2ヶ月が辛すぎて、ストレスから酒を飲み始め、アルコールを覚えた。
早起きが健康を害する珍しいケースと言える。


実際のゲーム開発が始まったら、13時~15時のフレックスタイム制。それは天国のような勤務体系だった。
朝までダラダラと仕事をして、帰って少し寝て、13時に出勤。
「働き方改革」なんて言葉がなかった時代、会社に寝泊まりしてる人も多かったし、何より仕事が楽しい。

楽しいからといって効率がいい訳でも早い訳でもない。
単純に長時間仕事をしたいだけ。

その後、SCEを経由して、キャビアに転職する。
この頃から「そろそろ徹夜って時代でもないよね」と口にする人が増え始め、早い出勤に徐々にシフトしはじめる。


そして「ワークライフバランス」という言葉が世の中に出始めた。
非人間的な「仕事」という行為ばかりではなく、貴方の「人生」とのバランスを取れ、という事らしい。

なんじゃそりゃ。

僕はゲーム作りが好きでこの業界に入った。
だから、24時間ダラダラとゲームを作り続けたい。
「仕事=人生」ではなく、楽しい事を突き詰めていったら
「人生=仕事」になった人間だった。

でも、他の人は違った。「人生」と「仕事」は違うもので、切り離されていた。それはその人の生き方だし、構わない、と当時は思っていた。

だけど、次第に「ワークライフバランスを実現する為に、残業するな。早起きしろ」という同調圧力が発生しはじめた。それは僕には苦痛だったし、そもそも働き方、いや、生き方を人に左右されるのが嫌いだった。

かくして、僕は企業に勤める事を止めた。


フリーになって決めた事がある。
「僕は『早起き』を売らない」という事だ。

どこかの会社に常駐すれば「XX時に出社しろ」という作業的に意味はない事がほとんどだし、オマケに法律的にも微妙な要求がやってくる事が多い。なるべくそういう事から遠ざかり、時間を自由に出来る事を選んだ。

「ニーアオートマタ」を作ってた時も、プラチナゲームズの今の社長から「毎日10時に来い」と散々言われたけど、断り続け、結果的にプロジェクトが中止になりかけた事もあった。が、出来もしない約束をする訳にはいかないので、拒否をしつづけた。

ヨソの店では早起きをタダで配ってるかもしれないが、ウチでは売ってないよ。八百屋に「チャーシュー売ってくれ」という人が来るようなもんだよ。失礼だよ。

会社を止めてから8年が過ぎた。
社会では、残業はさらに許されない空気感になり、早起きが正しさを振りまいていた。


そんな中、新型コロナウィルスが流行し、突如としてリモートワークが喧伝されるようになる。

企業も徐々に「あれ?これ、オフィスの家賃が浮くんじゃね?」と考え始め、リモートワーク実験に突如として舵が切られた。特にゲーム業界はテレワークと親和性が高かったので多数の企業がテレワークを試している。

長年憎み続けていた「早起きして出社する」というイデオロギーが、企業の利益追求によって殺されるかもしれない。

その様子を、他人事として見ている。


この先もリモートワークが一般化するかどうかは僕にはわからない。

でも、リモートワークを手にして「自由な働き方」を手にした人々はそこから離れられなくなる。満員電車にサヨウナラ、家族の絆よコンニチワ。

そうなれば、副業を含めたマルチな働き方も流行るだろう。
リモートワークになった事で、人は、複数の企業の仕事をかけもち出来るようになる。仕事で儲けたい人は、万々歳だ。

かくして人々はハッピーになった。
それで失うものは何もないか?
そんな都合の良い話はない。


まず、失われるのは「会社との絆」。
対面コミュニケーションによる連帯感によって結ばれた関係は、疑似家族とも言える。だから「業績を上げないとダメだ」「部下は育てないとダメだ」という意識が働く。

でも、オンラインの先にいる相手に対して同じ感情を抱けるだろうか?
ありえない。それが可能だったら「家族の絆」とやらも、オンラインで作れてた筈だ。

もちろん、今は「顔を合わせてた上司」が雇用を守ってくれるだろう。
だけれど、その上司はいつまで我々の上司だろうか?

テレワークが普及した未来。企業という組織は、人々を置き換え可能な「労働力」としてしか見なさなくなる。正社員制度は解体され、非正規雇用が増加する。

消費者である我々が Uber Eats の配達員さんを「名無しの労働力」としてしか見なさなかったように、我々もまた同じ立場に置かれる訳だ。

「名無しの労働力」はどんどん買い叩かれるのが常なので、テレワークが大普及した世界では、給料がどんどん安くなる未来になる。


弱き労働者である我々は……(と書くと「ヨコオは経営者だろう」と言われそうだが、一人会社なんてものは個人フリーランスと変わらない存在だ)我々が取れる戦略はおそらく4つある。

1つ目は「安定した取引先を維持する」事。
自分をこれまでと変わらない高値で買ってくれる相手(企業・顧客)をキープする。勤めている企業の上司が優しかったり、優しい顧客がいれば、我々は働き方も収入も変えずに、テレワークだけ入手して生きていけるだろう。
旧世界ルールにしがみつく生き方なのでいつまで続けられるかわからない。

2つ目は「時間を売る」事。
複数の企業と業務委託契約し、沢山の仕事をこなすこと。テレワークなんだから通勤時間分も働ける=儲けられる。24時間働いてもいい。
ようこそ「人生=仕事」の世界へ。
旧世代の通勤時に「私はテキパキ仕事しているのに、アイツらはダラダラ仕事しやがって……」と憤ってた貴方は、テキパキ仕事を大量にすることで労働時間の密度を上げる事が出来、大量の収入を得られる筈だ。
本当に貴方が優秀な場合なら、だけど。

3つ目は「自由を売る」事。
早起きしたり、人とコミュニケーションを取ったり……と、世界にはテレワークでは出来ない仕事が沢山ある。そういう仕事に就く人は、テレワークは導入出来ない。だから、通勤や対面に縛られて生きていくしかない。
テレワークで皆が楽している社会では、こうした「自由を売る」という事は徐々に価値が出てくる筈だ。(というか、これまで企業側がタダで自由を搾取していただけなんだけど)

4つ目は「才能を売る」事。
貴方が極端に魅力的だったり、何かしらの分野で突出した才能があるのであれば、時間も自由も売り渡さず、フリーで大金を手にできる。これはテレワーク関係ない。旧世界でもそうだった。でも割合で言えば、全体の1%くらいな気がする。こんな可能性には賭けられないよ。

5つ目は「儲けない」戦略。
ごめん。4つじゃなくて5つあった。
そもそもの収入を必死で得なくていい人、例えば、配偶者が金持ちだとか、実家に住んでて衣食住困らないとか、そういうタイプの人はテレワークで収入が下がっても困らない。だから、儲けなくていい。午前中に仕事を終えて、午後にはウィスキーを楽しむヘミングウェイみたいな生き方が出来る。ヘミングウェイがそんな生き方をしてたかどうかは知らないけど。

忘れないように言っておくけれど、これは全部妄想。
if世界の未来であって、こうならなかったからと言われても鼻くそほじって屁をするだけなので注意して欲しい。


妄想にせよ、未来は来る。

僕は今年で50歳になったんだけど、上記の選択の中では
「安定した取引先を維持する」を頑張って、関係性が途切れたら、そこまでで貯めた貯金を利用する事で「儲けない」という戦略にシフトすると思う。

この戦略は過去に関係性を築いていた老人だから出来る事で、若い人にはなかなか実現出来ないだろう。今の仕事の関係性は、僕が過去に会社に所属していた事で生まれたモノだから。つまり、結局のところは僕は、

「過去に売った不自由の対価として、今の自由を得た」

という事になる訳だ。
これまで出会った仕事関係の人達の中で、今も継続して仕事として繋がっているのは1%くらいの割合だと思うんだけど、その1%の人達の手によって僕の収入のほぼ全てが成立している。

「人脈は大事」という話をよく聞くけど、それは交流会で名刺を交換するような相手ではなく、仕事をやりとりしてくれる相手、という、ごくシンプルな事にようやく気付く始末。


他の人についてはどうだろう。
ゲーム業界も長くいると、

「あー、この人がこの人と繋がってるのか」

という現象を耳にする。
以前にも書いたけど、人間は生き延びる為に集団を形成する特徴がある。
誰かしらと人間関係を作り、仕事につなげていく。
会社で身を寄せ合って身を守る、とかも同じだ。

人脈と言うと聞こえはいいが、馴れ合いとか疑似家族とか。そういう依存関係の中に僕らはいないと死んでしまう。

テレワークが発達した未来に洗い出されるのは、僕らが売り払うモノの可視化と、引き換えに手にする弱々しい絆なんじゃないだろうか。


ところで今、足の裏を蚊に食われて死ぬほどかゆい。
お前らとの絆は要らん。



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