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3週間の夏休みでも、短すぎるだなんて

今年の夏はインドネシアのバリ島の東隣、ロンボック島に2歳の娘と滞在した。わたしたちは部屋が3つしかない小さな宿で、6週間過ごしたのだ。

6週間も同じ場所にいると、残りのふたつの部屋のゲストを迎えてまた別れてを何度も繰り返した。ゲストはわたしたち以外はすべてヨーロッパからはるばる来た人たちで、1週間程度滞在する人が多かった。この夏の経験を通して私は、ヨーロッパ人たちの「夏休み」を隣で体感することができた。

宿で出会った旅人は、フランス、イギリス、イタリア、スペイン、南アフリカなどなど。そして彼らの多くはサーフィンをするためにロンボックへ来た様子だった。

宿は平屋の3つの部屋がコの字に並んでいて、その中央に小さなプールがある。インドネシアの照りつける太陽で熱くなった体を冷やしに、ゲストたちは頻繁にドボンとプールに入り、そしてそのままプールのふちに座り話し始める。わたしたちも何度かその輪に入ることがあった。

旅人たちはいつでも旅の話が大好きだ。ヨーロッパからきた旅人たちはみな最低でも数週間の休暇をとって東南アジアを周遊している。これまで訪れた場所のこと、そしてこれからの旅の計画について話す。このような旅の話の流れで、まず最初に聞かれることがある。

それが "How long have you been traveling?" どれくらいの期間旅しているの?だ。

実はロンボックに来るまでに、この質問は何度も受けたことがあった。タイのバンコクで、沖縄の石垣島で、スペインのバロセロナで。でもそのころは日本企業で働いていたり、駆け出しフリーランサーでまとまった休暇をとれずにいた。これまでどれくらい旅をしていますか?という質問をされても、最長で1週間ほどとしか言えなかった。そしてヨーロピアンからかえってくる返事は必ずこうだ "Too short!" 1週間は休暇とは呼べないじゃんと何度も言われてきた。そのたびに私は夏のバカンスを数週間単位で取るフランスやイタリア人たちを羨ましく、そして遠い存在のように感じていた。

話を2023年のロンボック島に戻そう。今年の夏は本当になんの仕事もせずに、自分の体と心を整えることだけに集中した。そして娘の学校の都合で滞在できる最大日数で島暮らしすることに決めたのだ。

なので "How long have you been traveling?" の質問が来ても、もう焦りも萎縮もしない。たぶん鼻の穴なんてピクっと膨らんでいたんじゃないかな?もうできるかぎりのドヤ顔で

"6 weeks!!"
と答える。この6週間と言う単語が出ると、一瞬場がしゅんと静まる。そして次の瞬間に "Wooooo" という感嘆語が返ってくる。そしてだ。私は間髪入れずに聞き返すのだ。

" How about you? " と。
彼らはくうぅ6週間には負けるぜ!ときっと思いながら(たぶん)3週間だよなどと教えてくれる。それで今年は休みがあまり取れなくてさなんて付け加える。3週間休めてそれを丸々旅行に使えるだけでも、わたしからすると本当すごすぎると思うんだけど。それでも、、本当は充分すごいと思っているんだけど、、、。だけどこの夏だけはちょっと威勢のいいことを言ってみたくなって

"Too short!"

と過去に言われたボールを打ち返してみた。もちろんバカンスの長さがその良さを決めるものでは全くないし、みんなそれぞれ事情がある中で、思い思いに楽しい時間を過ごせば良いと思う。それでも休みが短い東アジア人の一人として、ヨーロッパ式の夏休みに憧れを持ってきた人間代表として、このときばかりは、ちょっぴり誇らしげに自分のために準備したこの6週間をちょっと自慢げに披露してみたのだ。

日本だと6週間も夏休みなんて、仕事とか学校とか家庭とか大丈夫ですか?と心配になりそうなものだけど。ロンボック島で出会ったヨーロピアンたちは、誰一人としてわたしの休みは長すぎるなんて言わなかった。みなが口を揃えて言ったのは "You are so lucky! Enjoy your holiday!" だった。


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